「インフォームドコンセント(informed-consent)」は訳すと「説明と同意」です。
人医の世界では「説明を受けた上での同意」または「納得診療」と言い換えているところもあるようです。
患者が自分の病気と医療行為について、知りたいことを“知る権利”があるという考え方からアメリカで始まったことのようです。
十数年前から放送されているアメリカのある有名な医療ドラマを見て驚いたのは、患者さんの誰もが自分が服用している薬や病名、体の状態を把握していることでした。
ある程度のデフォルメはあるにしても、あの国では普通のことであるのでしょう。
日本では、「お医者様」と言っていた時代があったように、医者は偉い人で、治療や自分の現在の体のことについて聞いてはいけないものだという風潮があったようです。
治療は医師に丸投げ、お任せで、自分に処方された薬の名前や病名さえもわからない人が多かった時代です。
これは、今からすると、何とも自分の体のことなのに、無責任なことなのでしょう。
こういったことが、医療過誤や医療ミスを発覚しにくい体制にしていた原因の一つであったのかもしれません。
また、この医療過誤の問題は医療者側と患者さん側とのコミュニケーション不足が原因でもあるようです。
以下のアンケート結果がそれを裏付けます。
医師の説明に満足か・・・
YES;患者側;12.6% 医師側;26.7%
満足していないか・・・
YES;患者側;23% 医師側;3.9%
さて、これを動物の医療に置き換えても、同じようなことがいえます。
飼い主さんは、ご自分の動物についても自分の体と同じくらい「知る権利」があり、治療についても主治医との相談の上の「決定する権利」があるのです。
インターネットでの相談では、「忙しそうだったから」「しつこく聞くと嫌がられるから」という理由で主治医に尋ねるべき内容(嘔吐は薬のせいかとか、傷口の赤みは大丈夫かなど)を質問として受けることがあります。
しかし、主治医は実際に動物を診ているのですから、私達よりははるかに多くの情報を得て診断を下していますので私達の発言は、主治医のコメントや診断をまずは信用してそれに基づいて・・・ということになるわけです。
ですからこういった質問に対しては最後には「主治医に尋ねてください」「主治医とよくご相談ください」と返答することになるのです。
コミュニケーション不足は言葉の行き違いを生み、あってはならない医療過誤を招くおそれもあります。
また、治療を受けようとする側も、ある程度病気についての知識を有していていただくと獣医師は話を進めていきやすいですし協力も得やすいですね。
例えば、糖尿病や膀胱結石、心臓病などは、飼い主さんの協力なくしてはよりよい治療効果は得られません。
食事のコントロールや投薬などを飼い主さんが把握していらっしゃることで、救急で別の病院に行かれたときもスムーズに話が進むでしょう。
また、飼い主さんも治療を担っていることがわかっていただければ、「つい与えてしまった、つい投薬を忘れた」がなくなり動物のQOLの向上にもつながるでしょう。
我々獣医師もインフォームドコンセントの意味を十分に理解し、飼い主さんと話し合う時間を設けることをいとわない姿勢が大切でありましょう。
「わからないことがあったらいつでもお電話ください」この一言でいいのです。
そうすれば飼い主さんは安心するのではないでしょうか。
今後必要なことは、動物を治すための高度な医療だけでなく、飼い主さんとのコミュニケーションです。
そういった体制が整い、良好な獣医療が発展していくことを願っています。
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