私も「動物病院で殺された」という言葉を目にするたびに不幸なことであり、悲しいことだと感じています。
当事者の中の片方の意見しか聞くことができませんので、できるだけ客観的にと心がけてレスを書くようにしていますが、それでも「獣医師同士がかばいあっている」というような受け取り方をされてしまうことは大変に残念なことです。
飼い主さんには、飼育している動物を守る責務があります。
ある日突然に何の理由もなく死が迎えに来るわけではありません。
必ずや、その原因が存在し、徴候があるわけです。
そのことを突き詰めようとすると、どうしても飼い主さん自身を責めるようになってしまいがちなのですが、決してそういう意図ではありません。
ひとえに「繰り返さないため」なのです。
獣医師は、動物と関わりあいたくて、皆、この仕事を志望してきています。
とりわけ、診療医の道を選択した者であれば、よりその気持ちは顕著と言えます。
重篤な状態の動物を前にして、「どれだけ手を抜けるか」とか、「さっさと片付けて飯にしようか」などとは決して考えないものです。
もっぱら、救命・延命に努力するものなのです。
それが力及ばず、救うことができなかった場合、その結果をもって「殺された」と表現されてしまうことは、はなはだ不本意なことと言えます。
私は、かつて娘(次女)の飼育していたハムスターに手術中に死なれたことがあります。
別にミスがあったわけでもないし、手術に踏み切る判断が遅かったわけでもありません。
でも結果は、術中死であり、とても悲しい想いをしました。
何故、こんな結果になったのかといろいろ考えました。そういう時にただの飼い主であれば、獣医師を恨めたのになとも思いました。
でも、飼い主が獣医師本人であれば、飼い主としての責任と獣医師としての責任の両方に向き合わざるをえません。
娘も私を責めませんでした。獣医師である父親が自分のハムスターを救おうと頑張っている場面を直接見ていたからです。
それでも、私はハムスターの診療は、もう辞めようと考え、加入していたMLでも、そう発言しました。
娘のハムスターも救えない者が他人のハムスターの診療など、おこがましいと考えたからです。
しかし、そこでは、逆に、ハムスターを診療してくれる獣医師を探して困っているのが現状なのだから、飼い主の気持ちを理解してくれる獣医師に診療を辞められては困るという意見が寄せられました。
悲しくても辛くても診療は続けて欲しい、それがハムスター飼育している者の願いだとも言われました。
実際問題として、私が辞めようと考えたその日のうちに、ハムスターを抱えた飼い主さんが来院されました。
私は、かなり迷い、ためらいましたが、結局、診察しました。
救いを求めている者を目の前にして、自分がつらいからという理由で何もしないことがはたして通用するのかということです。
死んでしまったハムスターが「道連れができた」と喜ぶとは思えなかったからです。
小学生だった長女が、後で見てねと手紙をくれました。手紙を開くと、そこには亡くなったハムスターが「ありがとう」と言ってお辞儀をしている絵が描いてありました。
( この絵は、今でも大切にしまってあります )
私は、多くの動物を死なせてきました。知識が足りなかったもの、技術がなくて手を出しかねたもの、勇気がなくて決断が遅れたもの、さまざまな理由からです。
そして、これらとは別にあまりにもろい命ゆえにというものもありました。
獣医師も結構動物を飼育していますから、当然、自らの動物の死を経験せざるをえません。
動物に死なれた飼い主さんの気持ちは理解できますし、経験もしています。
臨床医として、毎日診療に携わる獣医師であれば、患者の死を経験していない者はおりません。
誰しもが悲しい想い、辛い想いを経験しています。
動物の死をより多く経験しているのです。
死に至る動物は、1頭でも少ない方がよいのに決まっています。
それは獣医師自身が一番身にしみています。
昨今、動物病院とのトラブルということで、訴訟も見られるようになっています。
すべての動物病院が善良であって、問題とされるような病院は皆無とは申しません。
確かに耳に入ってくる中には、どうかと思う病院もあります。
しかし、最初から「動物病院だから怪しい」とか、「動物が相手だから、いいかげん」とかで疑ってかかるくらいであれば、動物病院へ行く必要はないでしょう。
患者に死なれたことでは、獣医師だって悲しいのです。
「病院に殺された」と評されることは、それに輪をかけることになります。
多くの場合が、獣医師と飼い主との事前のコミュニケーションが不足していてということのように想像しています。
動物は機械仕掛けで動いているわけではありません。
自ら生きています。
簡単なことであれば、自分自身に治癒する力もあります。
その力が及ばないことが起きているからこそ、「人間の助け」が必要なのです。
治療が早ければ、注射の1〜2本で改善することもありますが、いくら手を尽くしても及ばないこともあるのです。
すべての命を助けることができれば、何も問題とはなりません。
助けることのできない場合があるからこそ、できるだけ早く治療にとりかかる必要があるのです。
私の病院でも最近は、なにかとても動物の命を軽く見ている、扱っているという飼い主さんが見受けられるようになってきました。
なんか、ものすごく簡単に考えているようなのです。
診察室で行き違いが起きる場面というのには、そのような遠因もあるのではないかと考えたりしています。
名医というのは、なにかしら有名であることでもないし、特別な技術を宣伝するものでもないように思います。
何事も無く無事に過ごしていくことができるということの方がずっと望ましいことなのです。
そして、そのような地味な名医というのは、飼い主さんが育てていると言えるのではないでしょうか。
それを自覚している獣医師であれば、おごり高ぶるということもないはずです。
私は、動物病院は、病気になってからいく所ではなく、病気にならないためにこそ来て欲しいと願っています。
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