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獣医師広報板のキャラクター:ココロちゃんフェレットの副腎疾患とGnRH製剤
文章:プロキオン(獣医師)
初出:2005/11/17
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フェレットの副腎疾患について、どうも誤解されている方が多いようですが、これは1つの疾病ではありません。
すべてが同じものではなく、「性腺ステロイドの分泌過剰」とハッキリと「腺癌」によるものとがありますし、当然、その中間の「副腎の過形成あるいは、腫瘍的増殖」という段階もあります。
話の前提として、「副腎の機能亢進状態」、「過形成(過誤腫)」、「副腎腺腫」、「副腎腺癌」というような状態があると頭に入れておいて下さい。

犬における「副腎皮質機能亢進症(所謂クッシング症候群)」であればこれは皮質のコーチゾン分泌細胞を破壊してやる薬剤(例えばミトタン)を投与することによって改善の徴候が認められます。
しかし、フェレットの場合は、早期の性腺の破壊消失による副腎の機能代償が本態であって、エストロゲン、ヒドロキシプロゲステロン、テストステロン及びアルドステロン等の分泌過剰に由来しています。
すなわち、人間や犬おけるものとは病態が異なり、同じ治療法はとられません。
性腺ステロイドの分泌過剰なのですから、「持続性のGnRH製剤」を投与するというのは、理屈からいって、当然すぎる治療です。
人間の医者が、この治療法を「荒唐無稽」と表現したのであれば、それは、フェレットの病態を知らないからに他なりません。
これは当たり前のことです。
性腺ホルモンを抑制したいのですからね。
性腺ステロイドの分泌過剰であれば、これは「GnRH製剤」の摘要が現時点ではもっとも採用される治療法と言えます。

では、何故、効果のみられない症例があるのかというと、「腺癌」という病態があるからに他なりません。
「癌」であればすでに違う病気と考えていただいた方がよいと私は考えています。
「腺癌」になっている症例には、この製剤が効果が極めて発現しにくいことは、この製剤の紹介があった当初から報告がありました。
フェレットの副腎にまつわるそれぞれの疾病に、同じ薬が、1つの疾病では治療薬として用いられ、別の疾病では類症鑑別のために使用されるということなのです。
この点については、後程触れることになります。

人間の癌は、どうでしょうか?
すべてオペが摘要されますか?
切除しか摘要がなかった時代であれば、メスを採れないということは、すなわち「手後れ」意味していました。
しかし、今現在、手術以外の適応がひじょうに増えて来ています。
これは患者のためにできるかぎり手術による侵襲を避けたいということなのです。
いくら手術がうまくいっても患者が手術侵襲に耐えられなければ死んでしまうからです。
#大きな怪我や打撲の後で手術がうまくいっても患者が亡くなる事は、よくあったのです。
だから、今は一度にあちこちの手術をせずに患者の容態に応じて実施されるようになっています。

フェレットの身体にとって、消化器をはじめとする内臓を身体の外へ引っ張り出して、背中側に張り付いている副腎を摘出するという行為は、かなりの侵襲を伴います。
健康体ではない病気で弱っている身体への摘要なのですから、これに耐えることができない個体も当然存在します。
私達が、メスを採ろうとするときに一番気にするのは、患者自身の容態です。
獣医師が同じで手術方法も同じであっても、手術の結果に差は生じます。
これは引き算していけば、患者自身の容態の差であることは理解していただけると思います。
しかし、現実的には明暗を分けたものが、患者自身であっても、飼い主さんは、獣医師の責任とします。
獣医師を責めます。
フェレットやその飼育条件のことを顧みていただける方は極めて稀といえます。
ですから、副腎の摘出手術と言っても躊躇われる先生はいると思うのです。
また、腫瘍でも摘出ばかりが手術ではありません。
放射線の照射による破壊、ある簡単な酸の注入による破壊とか、血管の遮断というような侵襲の少ない方法が使えるようになるとよいのですが…。

癌が切って治るのであれば、すべての癌は切除されるべきでしょう。
では、人間の医療において「癌」は克服されているでしょうか?
答えは「否」です。
フェレットも切れば治るものではありません。
フェレット自身が性腺ステロイドを必要としているから、かかる疾病が存在しているのです。
フェレットは電池無しで動く玩具ではありません。
壊れた部品を取り除けば、それでよしとはいきません。
別の問題が控えているだけです。

副腎疾患が、早期の性腺除去に由来しているのであれば、フェレット自身もその飼育者も、かなりの確率でこの疾病と向き合わなくてはなりません。
治る・治らないではなく、どう暮らして行くかとは考えられないでしょうか?
むろん、フェレットを診察している獣医師にしても病態をひとくくりにしているむきも少なからず存在していることは否定できません。
しかし、獣医師の選択を含めて、それを見分けるのも飼い主の責務ですし、飼い主自身がもっと疾病を知らなくてはなりません。
「GnRH製剤」は、効果あると私は考えています。
良い結果に結びつかないということは、使用すべき症例や病態を見誤っているのではないでしょうか?
だったら、獣医師の尻を叩いても勉強させるようにしなくては。
どうせ駄目と投げてしまうのであれば、フェレットは飼育するのは考えものです。
なぜなら、フェレットという動物が、家庭で飼育できるように性腺を除去されているのですから、その行為を止めさせることが必要になります。
ということであれば、環境を整えて、性腺を除去されていないフェレットを飼育するか、フェレットの飼育をあきらめるかになってしまいかねません。

「GnRH製剤」を紹介してくださった先生方の報告によれば、フェレットの診療というのは、歴史が浅く、獣医師達は各々がセミナーや勉強会で学ぶしかないわけでして、いきおい、情報は共有される頻度が高くなります。
この疾病に積極的に取り組んできたA先生のお話によると、この疾病で苦慮したのは、
1.性腺除去(避妊去勢)が不完全な個体が見られることがあり、この疾病との鑑別が必要であったこと。
2.性腺ホルモンの定量検査を実施してくれる検査機関があまりなく、また料金が高かったこと。
3.脱毛等の症状だけでは、試験開腹への飼い主さんの同意が得られにくかったこと。
4.進行が早く、開腹時にすでに副腎皮質腺癌が形成された個体がしばしば存在していたこと。
5.左側副腎だけの問題ではなく、両側性に移行している個体が存在すること。
ということなのだそうです。

つまり、少し前までは、開腹手術しか治療法方がなく、そして、1.2.3.の理由から、飼い主さんを説得しても遅きにしっした事が多かったということなのです。
その外科手術にしても、左側の副腎であれば、副腎腰動脈と腰静脈の処置で済んでも、右側においては、肝臓の尾状葉に隠された位置にある副腎であって、さらに血管的に後大静脈にその一部もしくは全体が接しているというむずかしい条件があります。
この条件の上にさらに、副腎は生命の維持に欠かす事ができない臓器です。
両側の副腎の摘出は、そのままでは即生命の危険が生じてしまうのです。

副腎を摘出したとしても次の問題がまっているというのは、このことであって、片方摘出しても、残りの副腎が癌化しないための治療が必要なのです。
すなわち、「GnRH製剤」は、片方(だいたいが左側)の副腎を摘出した後に、残された副腎の機能を抑制するという目的のために登場してきた経緯もあるのです。
と、同時に1.2.3.という問題に対応する用い方も可能となったわけです。

副腎疾患と言っても、1つの疾病ではないことは、先に述べたとおりです。
まず、「GnRH製剤」を使用してみて、患者の反応から状態を確認するという作業があります。
効果があれば、手ごたえがあれば、そのまま使用を継続していく。
効果が見られなければ、さらに血液検査やエコー等を試みて、手術に進むということです。
切除がうまくいっても、残されて副腎のために、この「GnRH製剤」が必要になるということなのです。
「切るしかない」「切ても無駄に終わった」「切ることもできない」という時代から、「切らなくても済むかも」を得て、「切った後の維持」という手法をフェレットは手に入れる事になったわけです。

それでも、残された右側の副腎が腺癌に移行してしまっている症例には効果が期待できないことには変わりありません。

海外で使用されている製剤と国内で流通している製剤とでは、持続期間と処方量に違いがあるのですが、その点はA先性やH先生の投与試験の報告があります。
研究会でのこの報告があるからこそ、急速に使用する獣医師が増えたのです。
T先生の場合は、副腎皮質腺癌に対して、通常の抗癌剤を使用した経験もあるようですが、抗癌剤では抑制できなかったとのことであり、現状では、「GnRH製剤」が腺癌にはその効果が期待できないものの、もっとも遣い勝手のある薬剤ということになると思われます。

「治る」「治らない」を別にしても、次ぎのような利点をT先生はあげ ておられます。
1.体調が悪化している患者を手術が検討できる状態にまでもっていくことができるようになった。
2.手術不可能の患者、飼い主から手術の同意が得られない患者の症状の改善、延命効果の期待。
3.他の疾患との鑑別、診断的治療への展開。

指導的な立場にある先生方は、だいたい「過形成」「腺腫」「腺癌」と3つに分類していて、同じ疾病としては扱っておらず、臨床症状からの鑑別はむずかしいと述べています。
また、副腎皮質の腺癌となっているものは、脈管の機械的損傷だけでなく全身への転移ということも起きるのです。
「手術しか治す方法がない」というのは、問題を軽視した考えです。
手術しても問題をリセットできたわけではないのです、スタート時点にも戻っていません。

この疾病をひと括りにしてはならないし、問題の大きさ深さも知らなくてはなりません。
100%効果がないと思いながら、投薬しているのであれば、それは獣医師ではなく、詐欺師です。
また、それは「手術だけが正しい治療法」というのとどう区別されるのでしょうか?
医療に100%の絶対はあり得ません、昨日よりも今日が少しでも前に進んでいて欲しいと願うだけです。

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