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獣医師広報板のキャラクター:ココロちゃん死後硬直、死後強直の持続時間
文章−プロキオン(獣医師)
初出:2006/07/10
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死後強直、学生時代には、強直でも硬直でもどちらでも良いと教わったのですが、昨今は硬直が優意のようです。
少なくとも辞書をひくには「硬直」の方が便利なようです。

先日、死後硬直が解ける時間についての質問がありました。
「獣医学辞典」によれば、死後10分から数時間で始まり、心臓、横隔膜、咬筋、前足、後ろ足、と進み、約24時間持続し、硬直が始まったのと同じ順で解けていくと記載されています。
しかし、実際にこの時間のとおりにものごとが進んでいくかというと、そうではありません。
医学辞典に記載されていることと、つじつまが合わないという場面こそ、個々の患者が置かれている病状(死亡原因)と死体の保管環境に由来していることとなります。
例えば、私のコンピューターに搭載されている一般の辞書によれば、「死後硬直の持続は3〜5日持続するとあります。」遭難とか行方不明になった者が死体となって発見されたというような場合であれば、死体のおかれた状況によっては当然起こりえる現象のように考えられます。
これは、何故かというと、死後硬直自体が、やはり化学反応の一種に他ならないからです。
簡単に言うと、「死後、筋肉組織に化学変化が起こり、組織が水分を吸収して膨化するために伸縮性が失われて硬直する現象」との記述されており、クレアチン燐酸、ATP、乳酸等が関係しているようです。
すなわち、クレアチン燐酸が減少して、乳酸が蓄積していて、ATPの分解が早く始まる程、早くあるいは強く起こり、これらの条件が弱い部分があれば、それだけ一般値から離れていくということになると思います。
実際問題としても、体内に存在する水分の量や、疾病による消耗や、死亡時の本人の体温や環境の温度等諸々の条件がありますので、さらに予測しがたいということになります。
例えば、はなはだ強い硬直が発生する事例としては、「破傷風」や「硝酸ストリキニーネ中毒」等があります。
これらの事例とて、健康であった者と、何らかの疾病に罹患していた者とを比較すれば、その持続時間には差が生じてくると考えられます。
また、涼しい場所と暖かい場所(季節の違いでもよいのですが)というのでも結果は違ってきます。
同じ交通事故による死亡であっても、内臓の損傷と筋肉の損傷の程度でも結果は違ってくると考えられます。
(クレアチン燐酸が筋肉に多く分布しているため、それが失われる度合いに差が生じるからです。)
糖尿病や子宮蓄膿症等で、筋肉の力が弱くなっているような例でも、やはり一様というわけにはいかないでしょう。
つまり、一般的な死後硬直が解ける時間に対して、足し算なのか、引き算なのか、あるいは両方なのか、そしてそれは、それぞれがどのくらいの数値になるのかが、まったく分からないのです。

死後硬直がとける時間「解硬時間」は、親しい者の死を経験していれば、それが人間であれ、動物であれ、直面せざるをえない問題なのですが、私達が、その時間を気にする場面というのは、「遺体が傷まないように」「死者の尊厳が傷つかないうちに、葬儀を終了させなくては」という場合のように思います。
冬季であれば、暖房を加減し、夏季であれば、冷房を強くしてドライアイスを使ってということになります。
一度起きている死後硬直をできる限り持続させて解硬を遅らせるということを意図することになります。
動物病院においても、力及ばず患者が死亡してしまった場合、遺体をきれいにする、天然孔からの体液や血液の排泄を防止するというようなことと、遺体が温かいうちに飼い主さんに引き渡せるかがあります。
すぐ近くにお住まいであれば、死後硬直が遅れるようにと、時間がかかるようであれば、逆に死後硬直が解けないように心配りするということになります。
でも、大抵の場合、こちらの意図のようにはうまく事が運びません。
病院で亡くなるということは、それだけさまざまな条件を背負っているということになるからです。
病死したものが、どのくらいで解硬するかと言えば、まず予測できません。
法医学分野であれば、死後経過時間ごとに測っておいて、最終値から、変化数値が直線上となる部分を使用して推測するということになります。
これが摘要できない例では、遺体の損傷の程度ならびに遺体の置かれていた場所を勘案して妥当と考えられる類例に当てはめていくという作業になるのではないでしょうか。
事件事故のような場合でないと類推できる範囲も限られてくるように思います。
これは病死であれば、その時点で死亡時刻が判明しているのが普通だからです。
通常であれば、死亡時刻が求められるのは、市町村役場に提出する死亡診断書という場面です。
こちらの場合であれば、病院が対応してくれます。
動物病院であれば、火葬土葬するために死亡診断書が求められる場面はありません。
(先に述べたように飼い主さんへの連絡で触れられるくらいでしょう)
葬儀社にしても、ペット霊園にしても、遺体については、できるだけ速やかに荼毘に付すというのが原則ですし、そこに死亡原因別の解硬時間はあまり注意が払われてこなかったように考えられます。
事件・事故という場面でもない限り、死後硬直がどのくらい持続するかは問題となってきていなかったのではないでしょか。
また、そのような例であれば、逆に死後硬直が死亡時刻の唯一の手がかりということもないはずです。
「栄養の良い筋肉、活動の激しかった筋肉には、死後硬直が強くおこる」そうです。
私達、動物病院においては、まず、健康で活発に活動していて、突然死したという症例には、交通事故の例ぐらいしか思い当たりません。
一般的には亡くなってしまった患者を見送るまでのことしか把握できていません。
死亡原因別に統計をとっているということもないように思います。
病死した患者ということになると、どうしても条件が複雑になりがちです、半日、1日2日というような大きな単位で考えるしかないのかもしれませんね。

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