意見交換掲示板過去発言No.0000-201010-29
Re3:猫の「アレルギー性リンパ節炎」 |
投稿日 2010年10月18日(月)11時36分 投稿者 プロキオン
>医師の説明では舐め壊して禿げた部分の傷口からばい菌が入り、リンパが腫れている状態が「アレルギー性リンパ節炎」とのことでした。 この説明は、いささか趣が異なっているようです。創傷から細菌が感染してリンパ節が反応したのであれば、それは「化膿性リンパ節炎」と呼ばれるべき状態です。アレルギーというにはアレルギーを示唆する細胞の確認が必要となります。 所謂「ストレス禿げ」と呼称される状態のおいても、食餌性アレルギーとの関連を指摘する意見はございまして、「猫の精神的要因から起こる脱毛症(psychogenic alopecia )をよく調べると約半数に食餌性アレルギーが隠れている。」という報告もあります。 したがいまして、私も「アレルギー」とお聞きした際には、当然のごとくこちらのアレルギーを想像していました。今回、創傷からの感染となると、これをアレルギーとするには、ちょっと話が違うように思います。 先日、私が紹介しましたI先生というのは、食餌の改善だけではたして、このストレス禿げがそれだけで治るのだろうか、心の問題をそのまま放置しておいて治癒が進みますか?という観点から動物行動学の領域からのアプローチの必要性を訴えておられます。 私の場合は、猫の食餌性アレルギーの典型的なものに遭遇しており、アレルゲンの遮断での改善を経験しておりますので、所謂「ストレス禿げ」との病状との差を感じているからです。つまり、心の問題の方がはるかに大きいと考えているからに他なりません。 さて、リンパ節の動向について、再度、わからないのでしょうか?というお尋ねですが、数学に例えると、加減乗除で答えが導かれるとお考えなのだと思います。でも、その解答を得るには関数の分野での計算が必要で、暗算で答えが得られるレベルを超えていると考えられます。 どういうことかと言いますと、昨日、リンパ腫のセミナーがありましたので、そこで具体例を拾ってまいりました。 ゴールデンレトリーバー10歳で、下顎に直径9cmのリンパ節の腫大があり、自潰をともなっています。この症例、針生検においての診断は「化膿性リンパ節炎」です。ただ、担当された先生は、レトリーバーの丈夫な頚部の皮膚がそう簡単に自壊するのかという点に違和感を感じられました。また、特段の治療が実施されていないのにも関わらず、2週間後にリンパ節が小さくなりました。抗生物質の投与がないのにも関わらず小さくなるというのも、話がおかしいということになり、ツルーカットによる組織診断となり、そちらでの診断は「リンパ腫を疑う」でした。そこで、リンパ球のクロナリティの検査やPCR検査を実施する運びとなり診断されました。 針生検の所見、つまり細胞診では、「好中球による細菌貪食像」が見られたということであり、ツルーカットでは、「濾胞中心芽細胞が多数であり、芽球比率は5割以上」というものです。リンパ球のクロナリティは、「B細胞性であり、クロナリティあり」でした。 針生検で採取できる細胞は、やはり量とすれば、少量なのですが、それ以上にリンパ節のどの部位から採取されたかも影響します。髄質、皮質、洞、細い針ですから、刺した部位の細胞しかみることはできないわけです。 また、この症例では、採取された中にもリンパ球は見られたはずなのですが、このリンパ球が高分化型であったために異型性に乏しく、視野の大半をしめている好中球についての診断となってしまったということになります。出現していたリンパ球が未分化型であれば、おそらく再検査が実施されていたはずですが、高分化型であったために最も多く見られた細胞にもとづいた「化膿性リンパ節炎」という診断に至ったということになります。 ただ、何かおかしい、不自然だという担当された先生の勘のようなもので、大学で検査されて、「リンパ腫による自潰に細菌が感染していた場面」を目撃していたのだということがあきらかになったということになります。 話しを本題に戻しますと、「リンパ腫なのか?」「リンパ腫になる可能性はあるのか?」ということになりますが、リンパ腫になる可能性というのは、ならない可能性の方が日常的には多いはずです。でも、「なるか、ならないかという可能性」という質問の仕方であれば、答えは2通りの中からしか選択できないわけですから、各々50%の確率ということになります。つまり、これが、患者を診察することなくで得られる回答であって、診察しても、なお誤った方向に行ってしまうこともありえることを呈示したわけです。 もう少し端的に言いますと、一度の検査で分かる事は、今現在のデーターであって、明日とか明後日では、また違った結果がでるかもしれないということです。 真剣にリンパ腫を心配なさっている方に対しては、やはりそれだけ手間暇をかけた検査をお薦めするしかありませんし、それとても今日リンパ腫でなかったからと言って、来年、再来年の健康を保証してくれるものではないということです。 ですから、「わからない」と答えるべきなのだと思うのです。
|
|
|
獣医師広報板は、町の犬猫病院の獣医師(主宰者)が「獣医師に広報する」「獣医師が広報する」 ことを主たる目的として1997年に開設したウェブサイトです。(履歴) サポーターや広告主の方々から資金応援を受け(決算報告)、趣旨に賛同する人たちがボランティア スタッフとなって運営に参加し(スタッフ名簿)、動物に関わる皆さんに利用され(ページビュー統計)、 多くの人々に支えられています。 獣医師広報板へのリンク・サポーター募集・ボランティアスタッフ募集・プライバシーポリシー 獣医師広報板の最新更新情報をTwitterでお知らせしております。 @mukumuku_vetsさんをフォロー
Copyright(C) 1997-2024 獣医師広報板(R) ALL Rights Reserved |