獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-201110-28

Re8:医療ミスではないでしょうか?
投稿日 2011年10月12日(水)11時49分 投稿者 プロキオン

私が発言できる点については、すでに既出のとおりです。

僧帽弁閉鎖不全による心不全があります。この病気には心臓の負担を軽くする目的の薬剤が処方されますが、いつから服用を開始するかで臨床医は、よく悩みます。
セミナー等の場で講師の先生に質問すると、「その病気が認識できた時点から」という回答が返ってきます。それは成書や雑誌を読んでもわかりますし、予想できる回答です。
けれども、実際には、そのままというわけには行かないのが現実です。この病気は進行していきますので、毎日の服用というだけでなく、薬用量の増量も必要です。
欧米であれば、病気に気がついた時点で臨床症状がなくても投薬をスタートして、増量も効果が無いと判断すれば、迷わずに安楽死が勧められます。
でも、これが、日本となると、事情が異なります。臨床症状を欠いているような初期の段階から服用を始めても多くの飼い主さんは、服用を途中で放棄してしまって本当に薬剤の助けが必要な時に服用していません。また、それ以上に多いのが、欧米では安楽死が検討されるステージに入ってから病院のドアを叩くと言うケースです。
日本の獣医師の悩みというのは、病気の説明よりも、薬剤の作用やどのようにどの程度の効果を期待してよいのか、今後の推移を理解してもらうことにあります。と言っても、同じ説明が人によって、まったく異なった解釈をされてしまうこともあって、それこそ患者である犬を診るよりも飼い主さんを見ることに重点が移ってしまいます。
とくに後者のケースが多いですから、薬剤の効果も満足できる事は少なく、処方する薬剤を替えてみたりしても根本的な解決とはなりえません。
同じ病気だから、同じ説明をしていればよいでは、済まないわけですし、また、そうであってよいわけでもありません。臨床医であれば、同じ病気であっても、幾とおりもの説明を用意しておきたいのが本音ですし、また、そのためにセミナーでも質問を繰り返すことになります。講師の先生にしても、セミナーが終了した後の打ち解けた席になると、私達と同様の悩みを抱えていることを吐露してくださったりもします。
どのような状態から薬の服用を始めるか、どの薬剤を選択するか、そしてどのように増量していくのか、飼い主さんはついてくることができるのか、誰しもが同じように悩んでいるのにかかわらず、正解と言えるものにたどりつくことができません。

日本の動物医療は、欧米に比べて10年も20年も遅れていると揶揄されることがあるのですが、その進んでいるはずの欧米の先生に同じ質問をすると、「それは、あなたが間違っている。薬剤の効果がなくなった時点で、治療は終わっている。それ以上は、無駄に犬を苦しませてているだけにすぎない。それは虐待ではないか。」という答えが返ってきたそうです。これは、欧米の獣医師が冷たいというんではなく、宗教観の違いによるところがはなはだ大きいからと言えます。
まあ、そんなわけで日本の獣医師は、悩みながら治療にあたっているということになります。

ここで本来の話しに戻りますと、診察もしていない患者において、どの時点でどのような処置が適切であったか否かというのは、答えようも無いということを繰り返して述べなくてはならないということです。

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