意見交換掲示板過去発言No.0000-201312-47
Re6:狂犬病集団予防注射 |
投稿日 2013年8月2日(金)19時03分 投稿者 プロキオン
(1)獣医師会のなかで、「注射器を使い回ししない」という申し合わせは明確にされているのでしょうか? 日本獣医師会と各県におけるそれぞれの獣医師会とでも、事情は異なるのかもしれませんが、私の県においては、とくにそのような申し合わせはありません。 これって、わざわざ申し合わせをしなくてはならないような問題でもないと思います。 昨日も書いたことでもありますし、他の先生も同じようにお考えのようですが、「使いまわし」をするだけのメリットに乏しいのです。 物のない時代でもなければ、わざわざ「使いまわし」をしなくてはならないという場面に出会う事はないと思います。 ワクチンの汚染や疾病の媒介の可能性を考慮したら、とても割りにあう話ではありません。 (2)日本で肝炎ウイルス感染の問題により、注射筒の使い回しを止めたのが1988年(昭和63年)とのことですので、狂犬病予防接種において使い回しを止めたのは、それ以降のことだと推測します。いつころから使い回しを止めたのでしょうか? そもそもが、戦後の時代から「使いまわし」なんて認められてはいませんよ。昨日の話も狂犬病の流行があって、ワクチンも資材も不足してという前提があってのことです。 当時から誰しも良い事だとも考えていなかったはずですし、職業人としてのモラルに欠けた者がやることですから真意までは測りかねます。 牧野衛生の分野においては、ピロプラズマ病や白血病が夏期預託の育成牛において感染・拡散されることがありました。その際に感染の疑念を農家にもたれることがないように、「注射針は必ず1頭1針を徹底するように」という農水省からの通達が各県にあったのが、たしか昭和50年代の中ごろだったように記憶しています。 そして、狂犬病の集合注射となりますと、戦後しばらくの間、狂犬病以外にもジステンパー等の流行もあり、集合注射の会場において多くの犬達が集まり、接触するために集合注射の後に感染が流行するということもあったようです。そのためか、当時から、注射器や注射針の使い回しによって、感染症の流行に加担してはならないという概念はあったようです。 なんとなれば、特定の獣医師が、集合注射で巡回した地域で感染症の流行が見られたら、集合注射の目的に著しく反することとなってしまい、「誰が」というのも目立つことになるわけです。この「誰が」というのが、すぐにわかってしまう点については、人間のお医者さんとは比べようが無いです。 ですから、それくらいの事は申し合わせをするまでもなく、個人レベルで理解できることなのです。実際、私が狂犬病の注射を始めた当時も、「〇〇辺りは、今、パルボが流行しているから、入るときは注意して、持ち帰らないように」という注意を先輩獣医師から受けたりしました。 この注意するようにというのは、「注射をではなく、その家の敷地に入ったら、衣服や靴にウイルスを付けて帰るな」という方の意味ですね。自分自身の消毒をキチンとしてから移動するようにしないとならないよということです。そういう注意というのは、パルボどころか、ずっと以前からそういう衛生意識は共有されていました。( ちなみに私に注意してくれたその獣医師というのは、今年で満100歳です。 ) ですから、注射器云々についても1988年どころか、ずっとそれ以前からのことだと理解しています。 (3)ヒトの場合、肝臓がんの主な原因は肝炎ウイルスなのだそうですが、イヌの場合にもやはり肝炎ウイルスが存在するのでしょうか? 「伝染性肝炎」という有名なウイルス病が存在しています。子犬においては、かなり重篤な病気であって、ワクチンで予防する対象となっています。 (4)もしイヌにも肝臓がんの原因となる肝炎ウイルスが存在するとすると、その感染経路はヒトと同様、母子感染、注射の使いまわし、性行為が挙げられる、ということになるでしょうか? ここで急に肝炎ウイルスと肝臓癌を結びつける事に飛躍がありすぎるように思われます。 犬においては「肝炎ウイルス」というと、普通は「伝染性肝炎」の原因ウイルス(イヌアデノウイルス1型)の事を指し示すことになり、このウイルスでは肝臓癌との関連は取りざたされておりません。 と言いますか、子犬においては重篤な症状となり、一夜にして急性の転機をとり斃死することもある病気です。この病気に罹患していると診断された時点で癌の心配をしているどころではないのです。また、治癒した罹患犬が、その後、肝臓癌になったか否かということになると、疾病統計の中にそのような調査項目があるのかどうかも私にはわかりかねます。 おそらく、肝臓癌に罹患した犬の飼い主さんにおいても、子犬の頃あるいは以前に伝染性肝炎に罹った経験があるという申告もなされていないでしょうし、伝染性肝炎の流行と肝臓癌との間に相関性は見られていないように思います。肝炎の流行がなくても、肝臓癌の罹患はあるのではないでしょうか。 つまり、昨今、この病気は減少しており遭遇する機会も減少しているのですが、肝臓癌というのは、この病気の減少とは相関することなく発生していると考えられるからです。 また、伝染性肝炎の感染は、注射器の使いまわしや交尾が関係していると考えるのも不自然なように思われます。 このウイルスは、病気からの回復後もおよそ半年くらいは、腎臓に集中して存在しており、尿中に排泄されます。この事は、すなわち、感染源は犬そのものであり、その犬に関わる人間の衣服や靴に付着して、伝播されると考えるべきでしょうね。可能性としては、そちらの方がはるかに高いことになります。 はっきりと申しまして、注射針による病気の媒介などということが、あって良い事ではありませんし、動物病院に感染症の患者を入院させるだけでも気を使わなくてはならないのに、敢えて、そのような危険性にチャレンジしようとする者は、どうかしているとしか思えません。 今のシリンジや注射針が自由に手に入る時代に、メリットの無いことをやろうとする理由が私には想像できません。
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