獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-201312-8

Re7:純血種は弱いか
投稿日 2013年7月7日(日)12時00分 投稿者 プロキオン

「雑種強勢」と言う言葉を信用していないという点について、ちょっと、説明が足りないかもしれないので、少し補足します。

遺伝形質の面でスコティッシュホールドを例にあげますと、この品種の特徴である潰れた耳介は、耳介軟骨の低形成によるものですが、この現象を発現させている遺伝子は、どうも優勢遺伝をしているようです。アルファベットで表現するとA ということになってしまい、a ではありません。
つまり、この品種の猫における「軟骨低形成」は、異なる品種との交配によってもなくすことはできないということになります。
理屈の上からでは、aaという劣勢遺伝子のホモの猫も生まれてくることになり、そのような猫はこの形質から解放されることになりますが、スコティッシュホールドの特徴を失い、また、子孫にもその形質を伝える事ができない猫は、スコティッシュホールドとして扱われることはないのではないでしょうか。

近縁の品種との交配(雑種化)によって、品種の維持ははかることが可能なのですが、スコティッシュホールドという品種にとっては、常に「軟骨低形成」が随伴していくことになります。
つまり、それは「雑種強勢」と言えるのかなと疑問を感じるわけなのです。


犬においてもさまざまな品種において、その品種にまつわる問題点がありますが、それら問題を横においておいたとしても、品種成立や固定化の段階で、多品種の血を導入するということが行われてきています。
チワワという品種は、9世紀頃にメキシコの「テチチ」という原型の犬から成立したのではないかとされています。文献的には、食用であったり、湯たんぽの代用であったり、神様への供物であったりとされていたようですが、無毛に近い短毛の小型犬であったようです。19世紀に入ってからアメリカにおいて、別の小型犬を交雑されて、より小型化されて現在のチワワの形体になったようです。
そして、20世紀になると、突然出現した長毛のチワワを基にして、パピヨン等の血を入れて、流行のロングコートのチワワが作出されました。

そして、ロングコートつながりでダックスフントにも話が及びますが、こちら品種は、ドイツ語で「アナグマ猟犬」の意味になりますが、起源となったのは、16世紀頃であって、当時は15kgくらいの大きさの犬でした。このくらいの大きさがなければ、当然ながらアナグマの相手は務まらなかったことでしょう。
その後、他の小型の獣も追えるように小型化が進み、10kg程度になったものが、「スタンダードダックス」です。このスタンダードがさらに小型化されて、「ミニチュアダックス」が20世紀に入って登場します。
このミニチュアダックスは、体が小さく弱かったようで、テリアやピンシャーの血を導入して品種として確立された頃には、猟犬というよりも愛玩犬への道が待っていたとことになるのだそうです。
また、もともとが「獣猟犬」であったので、スパニエルやパピヨンの血を入れて、ロングコートの性格の穏やかなダックスになったとそうです。

 # この犬の品種まつわる内容は、「世界の犬 101がわかる本」という本に記載されている内容です。

同時に、この同じ本には、同じミニチュアダックスでも、ロングヘアーとスムースヘアーの異種被毛の交配は認められていないとあり、もしそのような交配で子犬が産まれてきても血統証は発行されず、雑種として扱われるとあります。
ミニチュアダックスのロングヘアーには、さまざまな色がありますが、その被毛色においては、交配してはいけないとされる組み合わせが数々存在しています。

猫も犬も、ひとつの品種が作出固定化されるまでに、さまざまな交配が実施されてきており、「純血」ということは、犬であり、猫であることくらいなのかもしれません。
そして、そうやってできた品種も、流行によって繁殖させられたりしているうちに、本来の姿が崩れてきたり、遺伝的な問題が顕現したりしてきています。

とくに遺伝的な問題と向き合うこととなると、1代2代くらいの雑種化でどうにかできる問題でもないと感じざるを得ません。それぞれの品種が成立当初から、内在していた問題なのですから、容易なことであるはずがありません。
では、それらの品種をすべて雑種化してしまえばよいのかというと、それも違うと言わなくてはならないことでしょう。
そのような事をしても、解決にはつながらないと考えられますし、それぞれの品種を作出したり、その品種を愛し守ってきた人達に対しても失礼なことだと思うのです。

純血種は弱いのかと尋ねられれば、「弱いのかもしれないし、関係ないのかも知れなし」、もともとがさまざまな品種間交配を経て別の新品種が作出されきたわけですし、雑種の行きついた先が新品種ということになれば、質問の根底が失われかねません。

街の臨床家であれば、1頭1頭の個々の犬や猫としてつきあって行くしかないですし、その中で感じたそれこそ個人の感想にしかすぎないのかもしれません。
それを端的に表現すると「純血種って何なんだろう?」ということなのです。

◆獣医師広報板サポーター◆
獣医師広報板は多くのサポーターによって支えられています。
以下のバナーはサポーターの皆さんのもので、口数に応じてランダムに表示されています。

サポーター:新日本カレンダー株式会社ペピイ事業部様のリンクバナー

サポーター:ペットコミュニケーションズ株式会社様のリンクバナー

サポーター:ペット用品通販Gズ\ィエ.COM有のリンクグオー

あなたも獣医師広報板のサポーターになりませんか。
詳しくはサポーター募集をご覧ください。

◆獣医師広報板メニュー
獣医師広報板は、町の犬猫病院の獣医師(主宰者)が「獣医師に広報する」「獣医師が広報する」
ことを主たる目的として1997年に開設したウェブサイトです。(履歴)
サポーター広告主の方々から資金応援を受け(決算報告)、趣旨に賛同する人たちがボランティア
スタッフとなって運営に参加し(スタッフ名簿)、動物に関わる皆さんに利用され(ページビュー統計)
多くの人々に支えられています。

獣医師広報板へのリンクサポーター募集ボランティアスタッフ募集プライバシーポリシー

獣医師広報板の最新更新情報をTwitterでお知らせしております。

Copyright(C) 1997-2024 獣医師広報板(R) ALL Rights Reserved
許可なく転載を禁じます。
「獣医師広報板」は商標登録(4476083号)されています。