獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-201401-156

Re11:生後20日のうさぎの赤ちゃん
投稿日 2014年6月26日(木)18時32分 投稿者 プロキオン

>掲示板の皆様 なんだかごめんなさい。べつにプロキオンさんと私は、言い争いをしているのではありません(って、プロキオンさんは違う?)
もう長い間の付き合いですから、その点はご安心くださいね(^^)

あれ〜、なんか私がチーママさんを虐めているとか、獣医師の立場に立ちすぎているとかの意見でも届いたりしています?
たぶん、チーママさんの書き込みを引用しながらレスしているので(それに加えてレスが長くなっているので)、いちいち否定しているように受け取られてしまっているのかも…。
実際問題として、過去の経緯としては私がチーママさんに教わってきていることもありますし、私がチーママさんをフォローするという場面もありますし、ですよね。
チーママさんは獣医師相手であっても、一言いえるだけの力量をもっておられる方ですし、そこに敬意をもっているからこそ、私も遠慮なく突っ込む事ができるというのが実情なのです。
いきなり目にされたりすると、驚くかもしれませんが、それが本来の「意見交換」に相当することなのだと思っています。

>さて、再度最初の投稿と、自分の最初のレストを読みなおして、確かにプロキオンさんのご指摘の通りだと思います。お詫び申し上げます。
そしてプロキオンさんは、私がいつも獣医師の立場に立つことが多いのは、ご存知です。

いえいえ、こちらこそ失礼申し上げました。

>これには、あくまでも私個人の経験として、一応初乳をもらって、最低限の腸内細菌しかもらっていないであろう我が家のウサギたちが、普通に育ったことによることが、大きくかかわっているのかもしてませんが。

動物は排便排尿の後、自ら身繕いしたりしていますから、口や体のあちこちに腸内の微生物を付着させています。哺乳の際に子ウサギが母ウサギの乳頭を探してモゴモゴしていれば、そのときに腸内微生物も取り込まれます。
で、そうやって少しずつ子ウサギの消化管内に取り込まれていけば、そこは新天地ですから微生物も自身の力で順調に増殖していくことになります。そうであれば、犬や猫であれ、ウサギであれ人間の哺乳によって育てられて子であっても支障なく正常細菌叢(ウサギの場合は微生物叢)が形成されることになります。
今回の事例では、下痢を呈しているわけですから、この過程がうまくいっていないということになるので、他所からお腹の調子を整えてくれる微生物を補給してあげる必要があると主治医が考えられたということなのでしょう。
で、二人の意見が異なっているのは、補給元となるものが「通常の糞」であったからということになると思います。

>確かに腸内細菌は親うさぎからくることが普通ですが、さりとて絶対にそれがなくてはならないか?と言うと、それじゃ実験用に産出される無菌やSFPはどうなのか?と、頭に疑問符がわくのです。(確か帝王切開での出産ですよね。今は違う?)

絶対に必要なのかというのが質問ということになれば、絶対に必要という回答になりますね。無菌動物という存在は、私達とは共存できませんから。
先に述べましたように普通は意識することなく、取り込んでしまっているから、気に留めることは無いというのが本来のあるべき姿になりますが。

実験動物というのは、微生物に関わる規制がゆるいほうから、「コンベンショナル」「SPF」「ノトバイオート」「ジャームフリー」という4段階に分けられます。
「コンベンショナル」というのは、微生物の有無に関しては特に制約はない実験動物であって、通常の実験動物というのは、殆どがこれです。
「SPF」というのは、特定の微生物が存在してはならない(それ以外の微生物は存在していても良い)というレベルのものです。「ノトバイオート」というのは、逆にある種の微生物だけなら存在していてもよいというレベルのものです。そして、ジャームフリーと言うレベルになると、あらゆる微生物を保有していてはならないという段階になります。

「SPF」がなんだか規制がゆるいように感じられるかもしれませんが、この「SPF」の作出過程ですら、胎児を子宮ごと摘出して、消毒薬をくぐらせないと中に入れられない無菌アイソレーターの中で子宮切開で誕生します。当然、その後の哺乳も空気も微生物とは遮断された状態で育成されることになります。そうやって作出されたSPF動物でも微生物は保有されているのです。
豚なんかでSPF農場生産豚などといわれている豚は、豚特有の生産阻害の原因となる豚によくいるある種の細菌が清浄化されているので、肥育効率がよく肉質も良いということになります。
「ジャームフリー」レベルとなりますと、日常生活で私達と共存できる環境ではジャームフリーの飼育は不可能ですし、接触はおろか施設見学も簡単には許可がおりません。それだけ私たちが汚染されているというになりますが。

>産出方法や飼育方法の詳細を知るわけではありませんが、べつに腸内細菌を得るために大人兎の糞をあたえるってことは、目的からしてあり得ない。

コミックの「もやしもん」でも、皮膚の正常細菌叢が炎症や化膿から人間を守っているので傷口を消毒しないのが最近の医学的な考えだというのが掲載されていたり、昨夜のフジテレビ「ホンマでっかTV」でも太っている人間とスマートな人間とでは腸内の細菌叢が異なっている。スマートな(痩せている)人の細菌叢を植え付ければ、肥満の改善に繋がるという話が紹介されていました。「どうやって」という質問に対して、「腸液をとって植えればよい」という回答で、質問をした側のマツコデッラクスが「じゃあ、加藤(加藤綾子アナのこと)腸液頂戴よ!」と言うと、明石家さんまが腸液をとるだけやりたいとシリンジポンプを引く仕草をして、マツコデラックスが「それ、私に入れて」とシリンジポンプを押す仕草をして、この放送時間帯ではセクハラになりかねないやり取りがありました。
この場合の腸液というのは、流動状態であると言う意味とテレビ上から「糞便」とは意図的に区別していたと考えられますが、本来は大した差異があるものではありません。

さらに加えると、イブニングコミックの「山賊ダイアリー」の連載開始の冒頭も主人公が鹿やウサギの糞を口にするところから始まります。曰く、新しいものなら食べられる。セルロースやビタミンが豊富に含まれていますという説明です。もっとも粘土に似た食感で味は保証しかねるとして主人公も吐き出しておりますが。山で遭難したら思い出してみてくださいという紹介の仕方でした。
「もやしもん」は消毒よりも正常細菌叢の力を利用しなさいということですし、「山賊ダイアリー」は鹿やウサギの糞なら食べる事もできるという話です。そして、「ホンマでっかTV」となりますと、腸内の正常細菌叢は有用なものであって活用できるという紹介になります。
抵抗感をもっていない人達は案外多いように思いますし、草食獣の消化機能減退に対しては昔から正常微生物叢の移植は普通のことといえます。

>それらのウサギは、長生きをすることは全く無視されているわけですが、それでもその後一般家庭で普通に育っているケースもあるわけで。

つまり実験動物由来のウサギであっても、コンベンショナルですから、微生物叢はきちんと仕事していますので、なんらおかしな事はありません。
 

>「もしもそれがこういう場合の良くある指示ならば、それは知らなくてはいけないことだ」とも思いました。

ここからは、私は開業術も関わってくる話だと考えています。どういうことかというと、ウサギの飼い主さんは心情的に獣医師に不信感をもっておられる方が多く、すなおに指示に従ってくれない方も多々おられるようです。(まさしくネットの影響があるようですが)
そのような方を相手にした場合、受け入れてくれそうになければ、敢えてその事に触れないということであったり、別の代用品で済ませようということです。乳酸菌やサプリメントであっても、そこに新鮮な糞があれば、患者の腸内に生着させるのなら糞の方が微生物の量も鮮度もはるかにまさっており、適当であると思います。金額的にも安価ですし。
動物病院といえども、お金は必要ですから、受け入れてもらえないような指示をだして患者を遠ざける必要はありません。
いろいろ考えたうえで、それぞれの対応をするのではないかと思います。まあ、私なら言っちゃう方でしょうし、その先生も似たようなタイプなのだろうと考えたわけです。
 
>ともあれ、普通に育っているならば、与えなくてはならないというものでもないような?
与える事でのリスクってのも、あるんじゃないの?

そうですよ、普通に育っていれば、とくに必要の無い事です。今回は下痢しているわけですし、同じ兄弟・姉妹のウサギであれば、同じ環境同じ育てられ方をしているから今下痢をしていないウサギの方にも体力のある早め手をうっておきたいということになるのでしょう。
与えることのリスクというのは、この場合、与えない場合のリスクと比較しての話にならざるをえません。メリットの方が上回ると考えられますし、それはどのような薬についても同じ事が言えるのではないかと。
また、正常細菌叢や正常微生物叢そのものが、病原性微生物の繁殖を抑える役目を負っているわけですから、そこを期待せずしての移植はありえないわけです。
パスツレラにしても黄色ブドウ球菌にしても 普通にいる細菌ですが、正常細菌叢によって増殖を抑制されているわけであって、「もやしもん」も、そういうことを言っているわけです。

>ウサギに熱心に取り組もうという獣医師なら、飼い主の事を考えて、そう言ってくださると思いますけれど。

まあ、そう仰ってくださっていれば良いのですが、臨床の先生方というのは、むしろ説明が足りない方の方が多いみたいです。それは、私がしているような説明をいちいちしていたら、待合室のほかの患者さんを待たせてしまって飼い主さん達の足を遠ざけてしまうだけですよ。
また、書いてある文字ですから私の説明も読んでいただけますが、私のところの飼い主さん達だって説明の途中で口を挟んできて最後まで聞いてくださらない方は多いです。
その口を挟んできたことに対しての説明をしていれば、時間が延びるばかりで、うちの奥さんは患者を追い返していると評しています。
基礎をきちんと履修していることと、病院の患者さんが少なくて時間をかけることができるという病院にとってはありがたくない条件が必要になることでしょう。
臨床家にとっては、とにかくどんどん患者さんをこなしていくという能力も必要ですし、それが臨床家に求められているものでもあります。

>ただ正直言えば、 聞いたことがなかったので「えー そうなの?」と思ったのは確かですし、

闘病生活の後に白いゼリー状の便をするようになったウサギなんかでは、腸内の微生物叢の回復をはかってあげたいと考えることはよくありますね。ウサギを飼育しているお知り合いをいませんかとはよく尋ねますが、まあ、みなさんそこまでして正常な微生物叢を復活させようとしてくださることはないですね。
糞と考えずに正常微生物叢と考えていただくと良いのでしょうが、まあ、現物としてみれば糞は糞ですからね。

>最近は最新情報を取得するのに熱心でありませんので、情報不足なのでしょう。

いえいえ、むしろ古典的な話であって、営業的に考えれば、そんな話を持ち出す事の方が最新の獣医学ではないという空気かもしれません。

>私は飼い主として(と言って、決して代表を気取るわけではありません)、また掲示板を長らく見ていた故に、中には右へ倣えとやって、何かあった時に「書いてあったのに!」となることを防ぎたいと思ってしまいます。 なんとなれば、最終的に、一番喜ぶのも悲しむのも飼い主なのですから。

そうですね。きちんと理解できないまま、自分なりの解釈で実行に移されてしまうのもこまりますよね。
たしかに、そのような弊害も念頭におかなくてはならないと思います。

>また それ故に、飼い主には獣医師選びや治療法への同意や飼育の仕方の最終責任があると思っています。( 中略 )
とはいえ、これも飼い主さんのタイプにより様々ですけれどね。

たしかに飼い主さんのタイプにより様々ですね。臨床医の才覚で求められることの一つに「飼い主さんが望んでいることを言ってあげられるという才覚」というのがあります。
一人ひとりの飼い主さんをみて、適格にそれを見抜くことができれば、成功できるみたいです。そうすれば、薬の処方もケアの指示も受け入れてもらえやすくなるのだと思います。
「え、どうしてそういうことになるの?」という事態がおきますと、まだまだ未熟であると反省したりします。

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