獣医師広報板ニュース

ペットロス(メモリアル ルーム)掲示板過去発言No.0100-201512-9

最愛の娘を失って゜
投稿日 2015年2月12日(木)14時58分 投稿者 チップパパ

2014年12月24日 午後7時50分、クリスマスイブの夜に彼女は旅立ちました。
約1ヶ月間の苦しく辛い闘病に終止符を打ち、やっと楽になれた事だけがせめてもの救いです。
彼女の名は「チップ」、ゴールデンレトリーバーで享年8歳10か月、私達家族にとってはあまりにも短すぎる生涯でした。
股関節形成不全の持病は有ったものの元気に走り回り、誰にでも愛想を振りまく優しい子でした。
7月頃、散歩の途中で突然座り込む事が3回ほど有り、以前からのかかりつけ医で健康診断をしました。
血液検査、レントゲン。医師いわく「股関節の状態は以前のまま、その他には異常なし。健康です。一時的に貧血状態になったのでしょう」
実際には、この時既に脾臓の血管肉腫という癌が蝕み始めていたのです。
その時は医師の言葉を信用して気にも留めなかったのですが、その後に別の獣医で癌だと知らされた時、当時の血液検査の検査表を見たら、癌が発症したら異常な値を示すはずの検査項目が有りません。
いったい何のための検診だったのでしょうか。
それから約2か月後、後足がビッコを引くようになり、レントゲン検査。その時も、「股関節の炎症ですね。鎮痛剤を出します。体重がオーバーしていますからダイエット用のフードを・・・」
レントゲンの写真を見て、「何か白いモヤモヤがあるけれど、何かなあ」で終わりですよ。「何かなあ」ってこちらが聞きたいですよ。
挙句の果て、普段食べているドックフードの10倍近く高価な医療用ダイエットフードを薦められ、足の負担を減らすためにと購入。
好き嫌いを一切言わず、何でも喜んで食べてくれた彼女も、このダイエットフードは不味いらしく、制限された僅かの量のフードをいやいやながら食べていました。
それからも2週間に1回程度病院に通いましたが、その度に鎮痛剤の処方ばかり。
少しでも散歩が楽になるようにと、11月に車椅子も購入しました。
車椅子が到着した途端、とうとう後足で立ち上がれなくなったのです。またもや鎮痛剤のみ。
あまりにもおかしいと、別の動物病院で診察を受けることにしました。
その結果は、脾臓の血管肉腫。時すでに遅く、肺にまで転移。この癌は進行が非常に早く、「癌の高速道路」と言われているらしいのですが。
そういえば、7月の散歩時の異常からわずか4ヶ月で手遅れ状態ですから。
悔やまれてならないのは、かかりつけ医ということだけで信用していた愚かさと、その医者がヤブ医者だったということ、どうしてもっと早く別の病院に連れて行ってやれなかったかということ。
癌だと診断されてからというもの、「肉腫の血管が破裂したら30分ともたない」と言われて、家内と24時間体制、寝ずの介護と病院通いが始まりました。
家の中では決してトイレをしない子だったので、上半身を起こすのがやっとの状態なのに、「外に連れて行って」と目で訴えるのです。「寝たままでいいから・・・」といくら言っても、必死で立ち上がろうとするのです。腫瘍を圧迫して、血管が破れるのが怖かったのですが、車椅子の購入時に買った介護用ハーネスを付けて深夜だろうが雨が降っていようが外に出ました。
彼女は小さい頃から雪が大好きでした。12月18日、雪が降りました。雪が積もっているのを感じ取っているのかそわそわと。外に連れて行くと、本当に苦しい体調のはずなのに、嬉しそうに雪の上に寝転んで。
病気が病気だけに、この先あまり長くはないとわかっていたので、大好きな雪を見るのはこれが最後かと、寒さをこらえて彼女に付き合いました。この雪は、彼女への最後のプレゼントだったのかも解りません。
不味いダイエットフードを捨て、大好きな缶詰めフードやパン、イモを好きなだけ食べさせました。
嬉しそうに、喜んで食べていました。何でも嬉しそうに食べていた彼女を思い出すと、規定量の不味いダイエットフードを少量しか与えてやれなかったことに、胸が張り裂ける思いです。
癌だと診断されてから今日まで、2度も3度も、病院へ急ぐ車の中で「今日は最後かも」と安楽死を覚悟することがありました。しかしその度に彼女は頑張り生還。一時的なことだとは解っていても、病院からの帰りの車の中で安堵感と彼女が生きている幸せ感を噛みしめていました。
12月24日朝、呼吸が苦しそうで見るに見かねて病院へ。
「腫瘍が大きくなり、心臓や肺、膀胱に至るまで臓器が圧迫されているので、病気を治すための手術ではないが一時的にでも呼吸が楽になるように、明日午後に腫瘍の除去手術をしてみましょうか?但し、麻酔から覚めない場合には安楽死と同じこととなりますが良いですか?ご家族で相談してください」とのことでした。
たとえそうなっても、今の苦しさから解放してあげられるならと決断して手術をすることにしました。
点滴をして、明日の手術の効果を期待しながら家に帰りました。
ところが病院から帰ると、大好きなパンも、イモも全く食べられません。排便も排尿も出来なくなり、夕方遅くには危篤状態となってしまいました。
次男が会社から帰って来るのを待っていたかのように、家族に看取られる中、私の腕の中で息を引き取りました。
「犬と私の10の約束」。私が死ぬとき、お願いです、そばにいてください。どうか覚えていてください、私がずっとあなたを愛していたことを。
この言葉は以前から私の頭の中に有りました。この約束だけは完全に守ってやることができました。そして私が生きている限り、彼女が私達を愛していてくれたことを覚えています。
彼女と散歩するのを楽しみに購入した車椅子が、一度も使用する事無く、彼女が横たわる傍で、空しく置かれたまま。彼女に「早く起きて。散歩に行こうよ」と何度も何度も呼びかけていました。それに応えるかのように、硬直が始まった体でも、心臓の付近だけはいつまでも暖かかった。
とにかく優しい優しい子でした。擬人化しているわけではありませんが(結果的にそうなってしまっていますが)私達の顔を見て、心の中を読み取ってしまう賢い子でした。
だから、先生との会話で、病気が良くなる訳でもない手術に20万円ほどの費用が掛かること、手術をすれば一週間は家に帰れないということを聞いていたのかも知れません。
「もういいよ。生活費も大変なのにそんなお金使わなくても。手術なんかせずに家で一緒にいたいよ。父さん母さん、ゆっくり休んで」。そう言って私達にクリスマスプレゼントをしてくれたのではないだろうかと思うと、未だに涙が溢れてきてしまいます。
私達はどれほど彼女に癒され、慰められ、励まされてきたことか。
楽になって穏やかな寝顔の彼女と2日間、家内と共に過ごしました。生後2か月で運命的な出会いから我が家にやって来た日、その日からの彼女との思い出話をしながら。
火葬場で最後の、そして永遠の別れ。立ち上る煙が彼女を天国へと連れて行き、彼女はやっと苦しみから解放されました。
しかし、何の罪もない彼女にこれほどの苦痛を与えたヤブ医者を一生恨み続けるのかも分かりません、そして、もっと彼女にしてあげられることは無かったのかと自分を責めてしまいます。
いわゆるペットロスから立ち直ってはいると思っていても、折に触れ愛しい彼女を思い出す毎日が続きます。
二度と会えない彼女を忘れられるはずもないし、忘れたくもありません。
 誤診。こと人間であれば大変な問題になります。でもそれは違います。
人間じゃないから。痛い、苦しいを言葉で表現できないのだから。だから人間以上に大変なことなのです。
獣医はそのことを肝に銘じて診察に当たって欲しいと思います。
また、飼い主(本当はこの言葉は使いたくありません。かけがえのない家族だから)も、常にどんな些細な変化にも敏感に。そしてそれを読み取ろうとする努力をすることが必要で、何よりも重要なのは「しばらく様子を見て」ではなく、すぐに行動すること。これが私自身の反省なのです。
 全ては7月の散歩時の異常から始まっていたのです。
「父さん、何か体調がおかしいのだけれど・・・」と訴える彼女の声なき声を聞き取ってやれなかったこと。
診察した医者の「一時的に貧血状態に・・・」の言葉に、なぜ貧血状態になったかを、頼りない医者の言葉を信用せずに他の病院に行って、徹底的に調べる行動を起こさなかったかということ。
それが出来ていれば、もう少し状況は変わっていたかも分からないのですから。
 今朝起きると外はうっすらと雪景色。彼女が雪の中を嬉しそうに走り回っている姿が、現実の景色に重なって見えています。

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