口頭発表内容       開催報告    学校飼育動物を考えるページ 学校飼育動物研究会


口頭発表内容

@ 幼稚園における動物飼育と保育への展開 

        北口 裕之 学校法人北口学園 太平寺幼稚園 理事長 
幼児期の子どもたちは周囲の環境から様々な影響をうけ、たくさんの事を学んでいきます。 太平寺

幼稚園では、将来、自分で感じ、考え、行動できる大人になるために、最も必要な環境の一環として

ヒツジやニワトリ、カルガモなどたくさんの生き物を飼育し、子どもたちが身近に触れ合うことが出

来るようにしています。これら飼育動物や植物との関わりを通して、子どもたちは、頭ではなく体で

自然や人の営みの根元的な事を体験し、いのちの不思議さ、もろさ、尊さを感じ、弱者をいたわるお

もりやりの心を育ていきます。これは、自然を愛することと同時に人間が見通しをたてて生活をして

いくには、重要な体験になると感じています。
  

A 飼育大好きな子を育てるために!―飼育環境の充実を図る実践―

           村中幸枝 金沢市立新神田小学校教頭

飼育大好きな子を育て、命や心そして生物教育に動物を役立てるためには、清潔でしかもお世話が楽

しくなるような飼育小屋であること、動物達がみんな元気で愛らしいこと、小さな命の重みを肌で感

じる経験をさせることである。管理職だからこそできる飼育環境の充実を目指し、整備のための予算

の獲得、保護者や獣医さんからのサポート体制作り、そして飼育を学びとして位置付ける教育課程編

成等、ハードとソフトの両面で取組んできたことをご紹介したい。

B「小動物との触れ合いを通して、思いやりの心を育む」

石坂益夫 新井己舟 大阪狭山市立南第二小学校

本校における以下のような飼育活動の概要についての報告を予定している。

・ 飼育担当教諭が常日頃心がけていること

・ 学校飼育担当教諭と学校飼育動物担当獣医師との諸連携

・ 飼育のための給食センターとの連携

・ 開放スペースにおけるうさぎとの触れ合いの場の設定

・ 幼稚園児とうさぎの触れ合い

・ 児童による自主的な「うさぎ飼育日記」の作成          (山本章校長)

 

C大阪府での教育委員会と獣医師会の協力体制と活動について               

会亀昭夫 (社)大阪府獣医師会

 (社)大阪府獣医師会は学校飼育動物担当委員会を設置し、平成16年から、公立小学校等

における動物飼育体験を支援している。また同年、府教育委員会がおこなった「学校飼育動物

に関するアンケート調査」の結果を踏まえて、平成17年度からは、府教育委員会と協力して、

市町村教育単位で講師を学校に派遣している。また府教育委員会が開催する夏期教員講習の中

の「心の教育」講座で毎年獣医師会会員が講師を務めている。まだ課題は多いが、これからも

協力して「子ども達の育ち」を支援していきたいと願っている。

D教員養成課程における学校飼育動物に関する授業実践

後藤 太一郎 三重大学教育学部教授
 幼稚園や小学校では学習の中で動物の飼育観察をすることが多いため、教員養成課程の授業

の中では動物飼育の基礎を学ぶ機会が必要である。教員養成学部で理科教育に携わる立場から、

昆虫、甲殻類、魚類など代表的な実験動物の飼育とその活用について、「小専理科II」という授

業科目の中で解説している。4年前からはニワトリを扱いながら動物愛護法やアニマルセラピー

についても触れ、2年前からは学校現場での指導経験のある獣医師による講義も依頼している。

授業内容や学生の評価などを紹介したい。

パネル発表

@「動物飼育を通して生命を実感する保育を目指して」

                   辰巳正信 学校法人たつみ学園 長池幼稚園園長

感性を育む幼児期に、自然と触れ合う体験を大切にし、水・土・動物・植物などとのかかわりを

通し感謝や畏敬の心を育てたいと考えています。特に動物とのかかわりは、体験する事が少なく

なった生命の誕生と死に出会う大切な機会と捉えています。また動物とのノンバーバル(非言語)

なかかわりを通して、子どもの心が安定したり意欲的に活動したりする事が出来る様になります。

子どもを育てる環境として、園内にバランスよく水や土動物・植物などを配することが大切だと思

います。

A三わのにわとりと 子どもたち     

奥畑司教頭 森田美和子教諭 大阪府能勢町立歌垣小学校

舞台は、大阪府の最北部、能勢町にある歌垣小学校。児童数66人の小さな学校。豊かな自然に

囲まれ、子ども達は元気いっぱい毎日を過ごしている。運動場の端っこに小さな小屋がある。中

には三羽のにわとり。にわとりは、五年前、本校にやってきた。雄鶏が二羽と雌鳥が一羽。雄鶏は

毎日にぎやかに時を告げ、雌鳥は、時々小さな卵を産む。雌鳥は片方の脚がない。けれども、雄

鶏に負けず、えさをついばみ、たまごをあたため、雛をかえしたこともある。子ども達は、毎日、

当然のようにえさをやり、小屋の掃除をする。先生達も余った野菜を持ってきてくれる。三羽のに

わとりは、今日も時を告げ、えさをついばむ。(丸山佳代子校長)

B飼育引き継ぎ集会3・4年生の発表から

                 中川美穂子 全国学校飼育動物獣医師連絡協議会主宰

 西東京市では、平成3年から獣医師会と市が連携して全19小学校の飼育活動を支援しており、

半数以上が中学年での飼育を行っている。その内の5校で総合の学習に位置づけているが、その計

画に沿って3学期に下級生への飼育引き継ぎ集会を開催するが、そこでは自分たちの以前の飼育へ

の考え方と現在の考え方などについてまとめたり、飼育の方法をビデオで作ったり、飼育に関連し

て動物の調査報告をしたりと、様々な工夫や発表が行われる。今回その子どもたちの発想と展開の

一端をご紹介したい。

C:ウサギの飼育・触れあい活動を通して、命の大切さや思いやりの心を育てる

前屋舗剛史 植田睦美他 大阪府立和泉市の小学校 

本校では、20分休みにウサギと自由に触れあえる活動をおこなっている。月曜朝礼で着ぐるみを

使ったウサギの劇をしたり、校内にポスターを貼ったりすることで、全児童に取り組みを知らせて

いる。また、ウサギの名前を校内で募集するなどして、ウサギとの触れあいを身近にすることで、

小動物をかわいがり、大切にする心を育てている。(大谷雅三校長)

D動物の飼育を通した高校生物課題研究                      

苗川博史 湘南工科大学附属高等学校

本研究は、湘南工科大学附属高等学校における約20年間の生物課題研究授業の中から、身近な動

物の飼育を助走期間として、課題を設定し、研究計画の立案、試行錯誤を繰り返しながら仮説の検

証を行い、結論を導き出してまとめ、研究発表会後に論文として提出するという研究のフルコ−ス

の実践報告である。結果として、生徒と教師間に動物を通した共通の会話ができ、人間関係を育む

上で有効であった。また、課題研究のような体験型のフルコ−ス学習が大学人および社会人となって

から大きく影響し教育成果として寄与しており、継続・発展していることが理解できた。

E「生命環境教育の実践〜保育者に対するニワトリ飼育活動の大切さ〜」

                   ○高桑進・宮野純次(京都女子大学・初等教育学科)

いのちの大切さを学ぶ生命環境教育の一貫として、 寒さに強く大変飼いやすい比内鶏の飼育をして

きた。理科教材園に自分達で鶏小屋を建設、二人一組で鶏の世話を毎日するように指導した。最初は

餌をドンドン餌箱に入れたり、水の交換を忘れた学生が、次第によく観察をしてから餌や水をやるよ

うになる。生んだ卵は世話をした学生が食べていいことにして、強い動機づけができた。ニワトリを

触われない学生も、飼育活動を通して触れるようになる。眼の瞬膜や、脚に鱗があることから恐竜の

子孫であると気づかせる。保育士や幼稚園・小学校教諭の養成校で正しい知識を持つ保育者を養成す

るには、ニワトリの生態をつぶさに観察する飼育活動が不可欠である。

F「神戸市における学校飼育動物訪問指導モデル事業について」

針間矢 保治 (社)神戸市獣医師会 

神戸市では、平成13年度から獣医師会と市が連携して、公立の小学校への「ふれあい教室」を主体

とした学校への訪問指導を行っています。毎年、モデル校として5〜6校を選定し、各学校の担当獣医

師を決定後、事前訪問と2回の「ふれあい教室」を行っています。またそれとあわせて担当教諭向けの研

修会を毎年1回開催しています。その活動内容や結果、訪問前後の学校のアンケート調査内容等をご紹

介いたします。

Gアンケート調査から見る沖縄県の学校飼育動物の現状

     ○永井良夫 又吉栄一郎 比嘉真季 山下ちさ 土城勝彦 中込健次 (社)沖縄県獣医師会

沖縄県では、昨年末に県教育委員会、市町村教育委員会の協力により、県下全ての小学校を対象に関する

アンケート調査を実施したところ、284校中166校(58%)の小学校より回答を得ることができ、一番困

難な問題は、休日の世話(62%)であり、また獣医師との接点のないことも明らかになった。

また動物と触れ合う場所、時間が無いと55%の学校が答えたが、今後授業に活用したいと70%を超える学

校が答え、85%の学校が獣医師の助言が必要と答えた。獣医師会、教職員、PTA等での協議会ができたら

参加する、と73%の回答者が答えた。


開催報告
                 第7回全国学校飼育動物研究大会開催報告

       平成19年8月25日(土) 午後12時半〜午後5時 大阪国際交流センター
 
       参加者概数:教育関係者(学生含む)170名、獣医師関係者(学生含む)130名
                一般、報道関係、出版社40名  合計350名

 主催者(日本小動物獣医師会松林驍之介会長・全国学校飼育動物研究会 宮下英雄会長)の挨拶と、府議会議員釜中与四一様
のご挨拶の後、東大名誉教授の唐木英明先生が「脳を育てる動物飼育」という、人の持って生まれた「本能」と、生後様々な体験に
よる「培われる脳」の2つの脳について講演なさいました。

*「脳を育てる動物飼育」 要約
 人は暴力やわがままな行動を引き起こす本能とともに、感動や感情を伴った体験(エピソード体験)と知識とを蓄積して理性を培い、
本能を抑制することを学ぶ動物である。ただし本能があまりに抑えられると元気がなくなり生きていけなくなる。とくにエピソード体験
は人としての成長を助けるので、親の愛情のもと、体と心を使って体験する場面を子どもに用意することが大事である。学年で愛情
をかけて一年間動物飼育した子たちが、人への優しさを培ったとの調査結果もでているが、子どもにとって動物飼育体験も、不可欠
なエピソード体験と言える。

*口頭発表の概要は、以下のようでした。
 1)太平寺幼稚園の園長先生は、教育方針にそって飼育活動をしているが、ご自分が獣医師という特性を生かして羊を飼育してい
る。その羊毛で子どもたちはフェルトなどの創作・表現活動も意欲的に行っている。
 
2)金沢市新神田小学校の教頭先生が、課題が大きく子どもたちと動物の交流が困難だった飼育活動を、市長のモットー「人が集まる
ところは清潔に、楽しく」を目標に、市の予算をつかって、子どもと保護者との共同作業として動物にも子どもにも良い飼育舎の環境を
整え、教育への取り込み計画を立てられるようになった。

3)大阪狭山市南第二小学校の教諭の方々は、子どもたちは動物を可愛がっていたが、ウサギの体調が悪くなった時、教育委員会か
ら地域の獣医師を紹介してもらったところ、快く学校の飼育状況も見てもらえ、助言をもらえるようになった。それを契機に子どもにも動
物の話しをしてもらうなど、支援があるため、より飼育活動が充実している。

4)大阪府獣医師会の学校飼育動物委員会委員長が、長い間、影から学校を支援してきた活動を紹介し、2年前に教育委員会と協力
して全域の小学校に「獣医師会の支援があること。学校の授業支援をする講師を作っていること」などを紹介して活動していることを発
表された。

5)三重大学の生物教育の教授が、生物の教員を養成するなかで、生きた動物を使って飼育に関わらせる試みの重要性を話された。
 
中でも、金沢市立新神田小学校の教頭先生の(金沢市は獣医師会と連携している)自校の飼育委員会活動の環境を「子ども(もちろん
教師も)に楽で、良い影響のある飼育体制」に変えたとの、力強い発表とその保護者や子ども達の笑顔の写真には、会衆とともに研究
会の運営委員もみな元気をもらえました。
つまり掃除しやすい飼育舎に変えたことと、繁殖を防ぐ処置をして、動物数を世話出来る数にしたこと、子どもも遊べる動物の運動場を
親子の参加で作ったこと、休日の世話も保護者の参加で行う計画のこと、そして、これから教科との関連を構築したい、との発表でした。 
 また、会場にはパネルで、幼稚園と大阪の小学校の実践、動物飼育を総合に位置づけている学校で、3学期に子ども達による研究発
表の様子を学校獣医師が、また、高校の生物の教諭が高校生により深い興味を培うための工夫、そして神戸市と沖縄県の獣医師会が
活動を発表していました。沖縄県獣医師会は教育委員会と一緒に調査した、県内教師の飼育への意識を発表していました。

*事後の感想
事後の感想には、多くの先生方から、
         「脳の発達の話し、よくわかり納得がいった」
         「もう少し聞きたかった」とか、
         「小学校の実践をうらやましく聞いた」
         「教育への実践をやってみたい」などが寄せられました。

 また、教員の方々は大学の実践を、特に歓迎なさっておられましたが、小学校の先生方は学校に赴任した後にご苦労なさったので、
飼育の意義と楽な飼育方法などの 大学での授業の必要性を身にしみておられるのだと感じました。

当研究会としては、文部科学省の方々のご理解・ご指導を得ながら、動物についての詳しい知識を得られないまま孤軍奮闘なさってお
られる先生方が一人でも減るように、これからも良い飼育実践を広くお知らせしていきたいと思っております。

*後日の問い合わせ
 後日、いくつかの小学校から問い合わせがあり、地域の社)県獣医師会の担当者に支援をお願いしましたが、「動物の教育への活用を
進めたいので、整備とふれあい活動を支援して欲しい」というのが、そのご希望でした。

 なお今回、門真市、枚方市の市議の方々も最後までご参加くださいましたことは、この動物を子どもの教育に活用するとの考えが広が
っていることを表していると思われます。

                         平成19年9月11日
                        全国学校飼育動物研究会
                        事務局長 中川 美穂子 


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