第9回 全国学校飼育動物研究大会開催報告
(*日本教育新聞報道記事PDF)
主催 全国学校飼育動物研究会 日本小動物獣医師会 全国学校飼育動物研究会
全国学校飼育動物獣医師連絡協議会
日時・平成20年7月19日(土)午後12時半から5時半
会場・東京都 目白の椿山荘
テーマ・「言葉や活動をゆたかにする飼育体験」
参加者・300名(教育関係者、獣医師会員、保護者、マスコミ 他)
開会・来賓挨拶
文部科学省初等中等教育局教育課程課 専門官 田中秀和様
文京区教育委員会教育長 根岸 創造 様
東京都教育委員会指導部 義務教育特別支援教育指導課 和田栄治様
ご紹介 社団法人 東京都獣医師会会長 村中志朗様
文京区教育委員会指導室課長
コ満哲夫様
来賓の皆様はどなたも飼育体験の大事さを述べられたが、特に文部科学省の田中専門官は新学習
指導要領及びその解説書の内容について動物飼育の重要性と獣医師の支援がよりいっそう鮮明に明
記されたことを紹介された。
§講演
@鳩貝太郎国立教育政策研究所の総括研究官は、
動物飼育と生命尊重の指導について、新学習指導要領の扱いを、生活科、理科、総合、特別活動及び
中学校技術などに分けて紹介した。
A中川美穂子全国学校飼育動物研究会事務局長は、
小学校等における飼育の課題「休日の世話、子どもへの衛生不安」について対応法を提案した。「学校が、
命の教育のための動物飼育の意義を確認して」、保護者に「命には休みがない、と子どもに伝えるため」
に休日の世話を分担するように発信すること。また衛生不安には獣医師会の支援を得て、感染不安への
誤解を解くようにと「感染の事実は報告されていない」とのデータを示した。
B汐見稔幸白梅学園大学学長が、
近年は身体を使って体験から得る知恵「技の知」が少なくなり、今までに集積された知識を覚える勉強「近
代の知」に重きを置くようになっている。これには体験が伴わないため「生きた知恵」とはなりえず、また、「子
どもの感性も育てない」と話した。身体体験なしの知識は実感が伴わないため、「子ども達は物事への確信と
自分自身への自信を持てず、世の中を理解できない状態」にあるのではないか、と話され、また、そのためか、
日本には100万人の引きこもりがいるが、それは世界では類を見ないことで、「日本の教育システムに課題が
あるのではないか」、と世界の学者から質問攻めになったことを紹介した。
先生は最後に「人間には自尊感情が必要で、体験を元に自信を与えること」「具体的な体験を与えて、言葉を
獲得させることが、現代の教育にとって、最重要な課題になっている」と話され、そのデータの集積を望むと話した。
§口頭発表・座長 唐木英明
@大地教育研究所の塩川寿平氏が、元農家という動物飼育の条件を十分に生かした野中保育園の実践を紹介
した。豊かな自然環境の中で展開される泥んこ遊びや木登りなど、幼児たちが水、土、木、花、そして動物と生活
を共にする『大地保育』と言う自然を最重視した保育について語り、何よりも体験は自信をつけ感性を養うと強調し
た。また『動物と共に居ること!』は幼児の成長に欠くことのできない必須条件であると強調した。
A岩手県花巻市立矢沢小学校の小椋教諭は、飼育担当学年以前から担任の小椋先生に付いて飼育小屋に通い、
担当学年になってからも愛情をもって毎日世話をした子ども
たちについて、「全国学力・学習状況調査」を活用して他学級他学年と比べたところ新聞やニュースなどに関心があ
り、世の中の出来事に関心があると判明した。また、全員、今住んでいる場所が好きと答えるなど、関心の広さと物
事に素直に感動できるなどの愛情をかけた飼育活動の影響を報告した。
B宇都宮大学農学部附属農場の長尾慶和准教授が、幼稚園から小学生、中学生を対象に展開している体験教室に
ついて報告した。ウシやヒツジとの触れ合い体験は全ての世代の子どもたちに実施し,自分たちの心の持ち方次第で
動物が自ら近づいてくることを体感させていること、小学生には、寿命をまっとうできる動物とできない動物があり、命
には役割があることを伝えたうえで家畜の飼養体験実習や乳製品加工実習を行っていること、中学生には体外受精
実験などのバイオテクノロジー実験も体験させていること、などを報告した。
C筑波大学附属小学校、理科の鷲見辰美教諭は、この10年間学級活動として、モルモットやウサギなどの飼育を行っ
てきたことの課題と成果などを話した。その中で、1年生の時にモルモットを飼育することになり、2年生の指導の下に
「飼育導入のふれあい教室」を行った時に、全然触れない1年生と、なんとか触れるように工夫して誘う2年生の様子、
そして半年後にその触れなかった子が苦もなくモルモットを抱く様子をビデオで示し、2年生の心遣いと、1年生の成長
を紹介した。
§パネル発表
@ 東京都西東京市立向台小学校の吉田勉校長が、学年末には各学年の実践をパネルにしたもので、道徳の命の
教育の教育課程の流れを示した。1年から6年まで、それぞれ、あさがおの栽培、サツマイモの収穫と下級生との交流、
ヤゴの飼育、ウサギの飼育活動、お米の栽培などであった。自然活動や飼育活動を通して環境教育、人権教育を行っ
ている。
A塩川先生の野中保育園が唱える自然を最重視した『大地保育』の豊富な遊びの様子と、「幼児と動物が日常生活の
なかで共に居ることの大切さ」を沢山の写真で紹介した。
B東京都中野区まこと幼稚園の佐々昌樹園長が、幼児の育つ環境に稲、池、動物、栽培など様々な自然や飼育の実
体験を用意して体験不足を補っていることを示した。動物はアヒルなどを飼っており、子ども達はそれぞれの思いで付き
合い刺激を受けている。
C(学)共立学園新光明池幼稚園の内藤真希園長が、飼育しているポニーの休日の世話を保護者の家族に分担しても
らったところ、人懐っこく、温厚なポニーの世話、手入れ、乗馬を家族で半日かけて行なうなど、家族にとって貴重な時間
となって、園児への教育的効果が大きいと発表した。またその保護者への調査結果も示した。
D社団法人 東京都獣医師会が、獣医師会の支援体制の現況と、その成果とも言える豊かな言葉が満載の「小学校における動物飼育コンクールの表彰作文集」を提供していた。現在、都内全域で、学校が求めれば獣医師の支援を得ることができる。と発表した。
§会場の感想から
・今回、地方から参加した獣医学生が「動物が教育に活用されていて感激した」「このようなことを今まで知らなかった」と
の感想を述べたが、獣医大学の教育に期待したい。
・小学校、幼稚園の関係者が多く参加したが、「勇気をもらった」「動物も子どもものびのびとする飼育があったと感激した」
「持ちかえって、他の教師に伝えたい」などの感想があった。
・講演に対し「汐見先生などの話に深い示唆をいただいた」「鳥インフルエンザが心配だったが、安心した」「休日への対応
は、管理職、保護者のかかわりが大事だと思った」などの感想があったが、獣医師も「今までやってきたことは間違っていな
かったと背中を押してもらった。」「勉強になった」と述べた。 (以上)
詳しくは、第9号会誌「動物飼育と教育」に掲載される。(11月発行予定) TOP