学校における動物飼育(特に教室内飼育について)
についてのアンケート報告

 心の成長を助ける教室のペットたち
都内の公立小学校9校の教師を対象に、教室内での小動物飼育の実態と、児童への影響について調査したところ、興味深い結果を得られたので紹介する。
    1)アンケート協力校並びに回答者

        多摩地区                  

         小平市立第4小学校 小平市立15小学校 保谷市立保谷小学校
 
           保谷第2小学校  東大和市立第5小学校 東村山市立萩山小学校    

           田無市立西原小学校             

        都区内                 

          筑波大付属小学校  杉並区立四宮小学校
 

以上9校の回答を頂いた教師48名 

   2)調査時期 :平成11年11月

   3)調査報告者:遠藤真起・日本女子大学家政学部児童学科4年
              厚沢友子・聖徳大学人文学部児童学科4年

  中川美穂子・全国学校飼育動物連絡協議会主宰
           
要旨:
 教室内で小動物を飼育している場合、ハムスター、モルモット、ウサギなどの愛玩小動物を飼育している学級の全ての教師が、動物飼育が児童に影響を与え、変化を及ぼしたと回答した。

 その変化の内容は、ペットが児童の話題の中心となり、教室の雰囲気が優しくなり、思いやりを培うなど児童の心に良い影響を与えるとの事であった。この事は、学級崩壊など児童の心の荒廃への対応を示唆している。

(1)教室内での飼育状況の把握
     教室で飼育しているクラスと、飼育していないクラスと同数サンプリングしました。
 
1,現在教室で動物を飼育しているか
事項
実数
いる
28
58%
いない
20
42%
無回答
0
0%
    全教師    48名回答
 

  

2、飼育している28校では、世話、餌や休日など誰が面倒見ているか?
@世話しているのは (重複回答)
A餌はどうするか (重複回答)
事項
実数
 
事項
実数
当番児童
23
82%
 
教師
19
68%
教師
8
29%
 
校費
11
39%
好きな児童
7
25%
 
好きな児童
10
36%
全員で
3
11%
 
当番児童
3
11%
委員会
1
4%
 
給食の残り
2
7%
  飼育している     28名回答
全員で
2
7%
 
学級費
7%
 
  飼育している   28名回答
                  

  

B休日の世話は誰がするか(重複回答)
事項
実数
餌を多く置く
25
89%
教師が連れ帰る
4
14%
児童が連れ帰る
4
14%
なし (メダカ)
3
11%
当直教師
1
4%
当番児童
0
0%
  飼育している教師  28名回答
 

 

(2)今までの教室内での飼育経験について

 

3、いままでに教室内飼育の経験があるか
事項
実数
ある
45
94%
ない
3
6%
   全教師  48名回答
 

 

4、動物種の飼育頻度    (重複飼育)
動物種
実数
飼育頻度
種類別頻度
 
ハムスター
15
33%
 
 
5、飼育頻度の多い順
モルモット
4
9%
 
 
動物種
頻度
ウサギ
3
7%
 
 
金魚、メダカ
64%
パンダネズミ
1
2%
 
 
ハムスター
33%
愛玩鳥
7
16%
 
 
ザリガニ
20%
カラス保護
1
2%
69%
 
愛玩鳥
16%
カメ
3
7%
 
 
モルモット
9%
ザリガニ
9
20%
 
 
カメ
7%
かえる
1
2%
30%
 
ウサギ
7%
金魚、メダカ類
29
64%
64%
 
2
4%
4%
 
飼育経験者              45名回答
 
 
  
(3)児童への動物の影響について
 
6、飼育経験中、飼育が児童に変化が見られたか
(一部重複飼育の場合は、より高位の動物の影響に組み入れた)
@ウサギ、ハムスター、モルモット、愛玩鳥の場合 Aザリガニ、カメ
事項
実数
事項
実数
変化あり
23
100%
変化あり
100%
なし
0
0
なし
0
0
不明
0
0
不明
0
0
飼育経験者  23名回答
      飼育経験者 7名回答
          

  

B金魚、メダカ、ドジョウ
事項
実数
変化あり
   27%
なし
1
7%
不明
47%
無回答
20%
 飼育経験者  15名回答  
 
教師の努力により、様々な種類の動物が飼育されている。
しかし、世話が簡単な魚が多く飼育されているが、これらは児童への影響が少ない事が現れている。

 

 

 (4)児童への影響を、動物の種類別に検討する

 

7、児童の変化の内容(複数回答)
@ウサギ,ハムスター、モルモット、愛玩鳥類の場合
変化の内容
実数
可愛がり、慈しみ思いやりなど心が育つ
23
100%
話題が同じで、交友関係が和やかに
11
48%
世話が自然にできる、責任感が育つ
7
30%
動物が子どもの気持を受け止め、安らぐ
5
22%
体験を通して生命を実感する
4
17%
生物になれる、気持を考える
3
13%
生態がわかる
1
4%
         飼育経験者  23名回答
 
Aザリガニ、カメの場合
変化の内容
実数
優しさと、思いやりの心
2
33%
生命を教える
2
33%
興味が広がる
2
33%
世話の大変さが解る
1
17%
体験学習を実感する
1
17%
       飼育経験者  6名回答
 

 
 
B金魚類の場合
事項
実数
観察で生物への興味が広がる
4
100%
可愛がり、思いやりを示す
3
75%
生命の意識
2
50%
気分転換
2
50%
責任感を養う
2
50%
共通の話題となる
1
25%
飼育経験者の内             4名回答
  児童への影響は、@ハムスター群とA金魚群では、明かに異なる。@は児童が自然に動物の周りに集まり、愛情を伴う交流している事が、現れている。Bは、生態への科学的興味を引き出しているに、とどまっている。なお、いつも水槽にいる魚より、手で触る事が出来、たまにしかいないザリガニやカエルの方が、まだ児童の関心を引き優しさを引き出ている。
 

 しかし個々の回答を見るとB群でも教師の関心の度合いによって、児童の反応に違いが出ていた。なお@群には、嫌な事があるとウサギをじっと抱いている児童、ハムスターに皆で「お早よー」などの言葉を掛ける、ハムスターが児童の中心になっている、相手の気持ちを考えて自分をコントロールできるようになった、教室の雰囲気が暖かくなった、その後、家庭でも同じ動物を飼い始めた、などの記述があった。
 

  
(5)動物を飼育する場所の検討(飼育舎か、教室内か?)

 

8、どこで飼育すれば、 児童により効果があると思うか?
事項
実数
教室内で飼育
23
48%
動物によりどちらでも
14
29%
自由に触われるのなら飼育舎
1
2%
無回答
10
21%
        全教師       48名回答
 

 

 

9、教室飼育が良いとの理由は(複数回答)
事項
実数
身近で効果が大きい
21
91%
皆でかかわれる
6
26%
世話が行き届く
2
9%
教室を選んだ教師   23名回答
殆どの教師が教室内飼育の良さを知っている。

 

 

10、教室内飼育で困る事(複数回答)
 事項
実数
長期休暇
27
60%
アレルギー,衛生の不安
8
18%
世話
7
16%
臭い
5
11%
死亡時の処置
5
11%
餌の調達
4
9%
鳴声
1
2%
児童が動物を傷つける
1
2%
     飼育経験者   45名回答
 

 

11、現在教室内飼育を 

      しない教師の理由

12、教室内飼育しない教師、
事項
実数
 これからするつもりがあるか?
きっかけがない
5
25%
事項
実数
世話が大変
3
15%
飼いたい
8
40%
衛生面の不安
3
15%
8
40%
休日の事
2
10%
不明
2
10%
児童から要求がない
2
10%
無回答
2
10%
アレルギー不安
1
5%
 
            今、飼育してない教師  20名回答
 
 
 このアンケートを拒否した教師を含め、教室で飼育する方が児童に良い事はわかっているが、休日の世話や、児童への衛生面の不安、日常の煩わしさから敬遠している事がわかる。しかし最近家庭力が弱まっており、児童の心を育てる事が大きな課題となっていることから、動物と児童のふれあいを確保するように考えなければならないだろう。
 
 
 (6)学校の飼育への獣医師の協力について  
                                         
 13、学校での飼育に 14、、学校での飼育に
  獣医師の手助けを希望するか?
獣医師を利用する理由
事項
実数
事項
実数
希望する
33
69%
 
専問的な関わり必要
18
55%
希望せず
1
2%
 
治療
10
30%
不明
8
17%
 
学ぶ機会
3
9%
無回答
6
13%
 
総合学習への利用
1
3%
全教師  48名回答
 
無回答
1
3%
  希望する教師  33名回答
  
実際に獣医師が行政との連携をしている保谷市、田無市、小平市の学校が回答しており、また、獣医師個人とのつながりの有る学校が回答してくれたため、13問で「希望する」が過半数を超えている。しかし信頼さえあれば獣医師との連携を望むのは、自然な事であろう。
 (6)終わりに 
 
 今回の調査で多くの教師が、教室内でペットを飼う事が児童の心によい効果を及ぼすことを認めていた。今回の調査に応じた教師の94%が、現在教室内で小動物を飼育したり、また、以前飼育したとの経験を持つ事が明らかになったが、休日の対応などの煩わしさ、アレルギーや衛生面への不安などから飼育したくない気持ちになりがちな事が解った。
 
 その為、過半数の教師が金魚やメダカなどを飼育している。
 
 
* しかし、児童の心・精神面へのより深い効果を、ハムスターやモルモット、ウサギなど愛玩用の小型哺乳類、または文鳥、インコなどの愛玩鳥を飼育する教師の 100%が認めている。子どもの優しさを引き出しクラスの雰囲気を和やかにする、などの教師の言葉は、
この種類の動物をペットとして教室で飼育する事の重要性を示している。
 
 一方、飼育に対する教師の不安に対応し、児童を動物から隔絶しないために、約70%の教師が獣医師の支援を希望している。
 
平成14年完全実施の新学習指導要領の解説書生活科編にも、「学校への獣医師の関与の必要性」が明記された。日本小動物獣医師会の

報告では、全国で徐々に連携は増加傾向にある。実際に連携をして獣医師が学校に訪問している学校では、教師の飼育に対する不安が解

消されており、動物の見方、付き合い方を深い所まで理解する事も出来ている。

 学校、行政、地域は協力して専門家である獣医師を活用し、学校では動物を飼育し、特に教室内飼育(ペット)の重要性を認め、児童の心の安定を保つ事が望ましいと考えられる。
    
参考:日本小動物獣医師会報告 *
H12年7月までの予算を伴う自治体と獣医師会の事業例
             44市区町村と6都道県
飼育指導を主に行い、治療も行っている委託例
渋谷区、小平市、保谷市、田無市、練馬区、日野市、清瀬市、美濃加茂市、岐阜市、中津川市、美濃市、揖斐川町、関市、八百津町、坂祝町、川辺町、新潟市、八戸市、横浜市、秦野市、茅ヶ崎市、藤沢市、大磯町、 
海老名市、宇治市、大宮市、福岡県、 
治療費を教育委員会が支払う例〔多くの場合、講習会などをしている〕
 江戸川区、世田谷区、目黒区、杉並区、調布市、八王子市、東久留米市、川崎市、相模原市、所沢市、川越市,千葉市、柏市、福岡市、
子どもと動物との触合い授業を主に、指導を行う委託例
      群馬県、佐野市、
獣医師会は、行政の事業に協力する例
        触合い授業、飼育指導とマニュアル作り、・京都市、    
         触れ合い授業、飼育指導と治療・・・・・・北海道、 
         触れ合い授業、飼育指導と治療・・・・・・大分県 
        
         嘱託獣医師 ・・・・・・・・蕨市、戸田市 (医師、薬剤師と同じ扱い)
衛生検査を行う委託例〔陽性結果に対する診療は個人獣医師が負担する〕
         東京都、茨城県
  
           
内、多いのは東京都(14市区)、岐阜県(9市町)、神奈川県(8市町)である。
 
 群馬県以外はいずれの場合も、予算が十分に無いため現在のところ、活動は獣医師の個人的な情熱に支えられている場合が多い。全くの無償で活動している獣医師は全国に見られる。
 

 獣医師、学校、行政に関わる飼育支援制度が続くためには、蕨市、戸田市の例と同じく条例を作っての嘱託獣医師が望ましく、無理がないと思われる。