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資料:アレルギーと動物由来感染症の考え方
平成14年9月19日、神戸市とNPO法人NOTSが開催した、りぶ・らぶあにまるす国際シンポジウム「子どもへの動物の影響パート1―身体的視点より」として、アレルギーと動物由来感染症のシンポジウムが開かれましたので、その内容を報告いたします
「乳幼児期の動物への接触とアレルギー発症について」
「わが国における動物由来感染症とその対策」
「動物由来感染症について」
1、「乳幼児期の動物への接触とアレルギー発症について」ビル・ヘッセルマー氏
(スウェーデンの小児病院・スウェーデン小児アレルギーユニットコンサルタント)
スウェ−デンではペットが子どもの好きなもののトップ10に入っており、また親も子どもへの好影響があるため、ほとんど全ての子がペットを飼っている。新聞にも、ペットがいると病気に対する免疫ふかつ物質がでるので、子どもが学校を休む率が少ない、と報道されている。が、アレルギーの家族暦のある時は、ペットを飼わない方が良いと言われている。
ところで、喘息、特に小児喘息には抗原質の感作が関わっており、多くの国では、この10年ほどますます研究に力を入れている。アレルゲンについて、多くの国ではダニやハウスダストが多いが、北欧では、気温が低いのでダニの発生率は低い為動物感作の方が多い。
スウェ−デンでは、12・13歳の子ども全体の約20%が犬、猫、馬などの動物感作を受け、喘息の子を対象にすると60%近くの子が感作されている。喘息と感作との関係は必ずしも相互関係があるわけではないが、この数字を見る限り、動物アレルギーの子は動物を飼わない方が良いと言える。アレルギーの予防には、1次予防(アレルギーを引き起こさないように),2次予防(アレルギーになっていても症状をなるべく出さないように)が考えられる。喘息予防のためにも、アレルゲンとの接触を避ける事が、特に幼少期には基本的な予防方法とされてきた。
しかし、この対応法に対する成果はあまり良くなかった。一方、以来のいくつもの研究で、途上国、或いは農場で育った人は喘息やアレルギー発症が低く、また兄弟の多い子には喘息やアレルギーが少ないと知られていた。また、ペットを飼っている子どもも喘息やアレルギー少ないと研究報告されている。
それで、生後1年以内に猫や犬を飼っていた4歳の子ども2531人を調査さしたところ、生後1歳時に飼っていなかった子に比べてアレルギー性鼻炎が少ない事が判明した。これは両親のアレルギー暦を考慮しても結果は変わらず、さらにこれまで湿疹はアトピーの初期症状であると信じられてきたのには反することだが、幼少期のペットの有無がアトピー性皮膚炎の予防にもあまり関係していない事もわかった。また、アメリカで、0歳から犬あるいは猫を飼っている子1246名を13歳まで調査したところ飼育しているグループは喘息の発作が少なかったと報告がある。
また最近のアメリカでの調査では、乳幼児に飼っている動物の数が複数の場合、アレルギーを発症する子が少ない事も報告されている(474名調査)。
アレルゲンの容量の多さと、アレルギー反応の強さの関係についてはあまりわかっていない。アレルゲンの量が多くになるにつれて反応が強くなるとは言えない。猫の抗原物質の容量と反応に関する調査では、一定以上容量が多くなると、反応は横ばいあるいは放物線を描いて減少することが見られた。これは、アレルゲンの高容量に暴露されたばあい、耐性を作りだしている事を示している。猫のアレルギー抗体があると血清診断されている子でも猫と生活をしていて、喘息を発症していない子もいる。
仮説として、
ペットを飼っている人、途上国の人、農場の人、兄弟の多い人などは、細菌に暴露されることが多いので、その菌のエンドトキシンが経口摂取され、腸内細菌が増えて、或いは免疫系が動いて、そのことでアレルギー耐性になるのではないか。例えばSPF(人工的に無菌に作った)マウスは、腸に細菌をあたえるため誕生後直ぐに細菌を食べさせると、IgE抗体が上昇しない。無菌のままの場合はIgEがあがりアレルギーになる。人の場合生後5週間以内に入れると良い。先進国の子は、腸に細菌が入るのは遅いため、途上国に比べアレルギー患者が多いのではないか。
人間での実験は不可能だが腸コロニーを整えると言うことで、アレルギーの子とそうではない子の便の細菌を見て、片親或いは両親がアレルギーの子・132の人子が生まれる前、母親にラクトバチルスを飲ませ、また、生後5週令の時に、子どもに同じく飲ませたら、その子が2歳のときに湿疹が少なかったと言うのが、唯一の実験報告である。
結論として、明らかにアレルギーとわかっている時は、その動物との接触には注意を払ったほうが良いが、幼少時に動物を飼うことは、アレルギーにかかる率を高めるのではなく、逆に耐性を発達させているようである。(清潔過ぎる環境は、却ってアレルギーを引き起こす傾向がある)
2 「わが国における動物由来感染症とその対策」厚生労働省健康局+++++++課長
わが国の動物由来感染症対策を話されました。その中で動物から感染症をもらわないようにするのには、「不安がらずに、油断なく」と話、予防方法を知る事が肝心と言われました。
この問題に対処するために大事なのは、 不安のある動物は飼わないこと、飼ったら動物の健康に気をつけることである。
不安のある動物とは、輸入動物と野生動物であり、従来から日本で飼われている動物種は比較的安心と言われました。なお、日本の動物の動物由来感染症は数10種類であるが、外国のは150種類である。日本の動物由来感染症が少ない訳は、
島国のため、
家畜衛生対策の徹底がされている
衛生観念の強い国民性
の3点が考えられる。
家畜衛生対策の徹底の例としては、昨年九州で口蹄疫が発生したが、この一頭で食い止めたこと、また、狂犬病を昭和26年に狂犬病予防法を作ってから6年で撲滅した事などがある。しかし、狂犬病は世界には現在も広くあり、またロシア船に犬が乗って日本にビザなし渡航をするなど、国境が緩やかになっているため、いつ日本に入ってくるか解らない事情もある。(現在国をあげた予防キャンペーンをしている。)狂犬病は、人を含めてすべての温血動物がかかり、症状があらわれたら必ず死ぬことになる。
現在、犬の登録数は6百万頭、しかし、フード業界の調べでは1000万頭と言われている。
なお、家畜以外の輸入動物について、国は2001年から頭数を調査している。それ以前は法整備がなされていなかったため統計は無い。昨年、概算で哺乳類が118万9千頭が輸入され、ハムスターが100万頭、野生リス6.7万頭、フェレット3万頭、プレイリードッグ1.3万頭、犬1.2万頭、サル6941頭、その他のげっ歯類5万頭である。鳥と亀は統計に入っておらず、財務省と協力して今年から税関で統計を取っている。
犬・猫や小鳥は人とのかかわりが長いため、病気などはよく知られている為、危険性は良くわかっている。それ故対応がとれ、人への危険は少ない。げっ歯類については、まだわからない部分もある。(だからよくわかったところから入手すべきである。)また、野生の動物は病気の有無はわからない。昨今日本でも野生の狐やリス・サル・げっ歯類をペットにする傾向があるが、避けたほうが無難である。
最近プレイリードッグがアメリカの生産場所で人への病気にかかり、感染したまま世界に輸出された事件があり、日本にも感染の恐れのあるプレイリードッグが輸入された事件があったが、アメリカからの情報で直ぐに観察などの対応できた。幸い発病した動物はいなかった。
現在日本では、今、マスコミが騒ぐような恐怖は無いといえるが、世界ではエボラ出血熱など怖い動物由来感染症があるので、注意する必要がある。外国では、むやみに野生動物に近づいたり、珍しい動物に手を出したりしないほうが良いだろう。また外国を旅行している時、放れている犬に手を出し、噛まれるなどは、狂犬病が世界に広まっている事を考えれば、非常に危険である。
ところで、
人に病気を移すことが一番多い動物は人である。平成11年、インフルエンザの死者は1400人であったH7年は1200人、H13年は200人(ワクチン対策などで減少)であった。また、毎年タバコが直接の原因で死んでいるのは日本では10万人と報告されている。なお、たばこによる死亡率は日本では全死亡の中の11%になる。スウェーデンでは8%、英国などは21%と言われている。ちなみに日本の交通事故死は全死亡の8.1%である。
日本の予防をかんがえるとき、輸入動物と旅行者が病気を持ち込む事を注意することが肝心である。
動物由来染症を予防するには、人々が、昔から日本で繁殖されている動物を飼育してむやみに輸入動物と野生動物を飼うのを避けることが重要である。また珍獣を求める風潮も好ましくない。
また、飼育している動物を常に健康な状態にしておくのは、飼い主としての義務でもあり、危険予防上必要なことである。
「不安がらずに、しかし、油断なく」対応することがだいじである。
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(中川)
質疑応答の中で、「日本では、年間動物由来感染症でどのくらいの人が亡くなっているか?」との問いに、
「現在日本で、動物由来感染症で死ぬ人は、年間10人もいない。殆んどはお年よりなど体力が落ちたり、他の病気で弱っている人が亡くなっている。担当医師は 動物由来感染症が直接の死因とは言えないだろう。」といわれました。
3 動物由来感染症について
藤田紘一郎(寄生虫)東京医科歯科大学大学院国際環境寄生虫病学教授
研究分野はペット動物飼育による人畜共通感染症とアレルギー発症である。現在の小子化と高齢化など、ますますコンパニオンアニマルの必要性が高まっている。楽しく安全なペットとの生活を送る方策が今後の重要課題だろう。
人獣共通感染症を、ちょっと説明
オーム病(クラミジア):鳥が病気(風邪症状)で死んだ後に飼い主が風邪を引いて通常の治療で治りにくい時は注意である、しかし、薬が良く聞く病気なので、病院で鳥を飼っている事を医師に告げることで解決するだろう。飼い主が高齢だったり、病弱だったりする時は、肺炎など重態になる時があるが、殆んどは気がつかないうちに治ってしまう場合が多い。(心配なら鳥を飼い始めるときに、2週間ほど薬を飲ませておけば、人に感染することはない)
Q熱(リケッチャ):抗体検出調査によれば健康者の3.3%、健康な獣医師の22%がすでに知らない間にかかって治癒していた(不顕性感染)。また呼吸器症状のある人の15.3%が同じように抗体を持っていて、以前かかったことを示していた。一般的な病原である。これも通常は発病せずに、高齢や体の弱っている時に発病すると考えられている。
パスツレラ:これは猫の爪の調査で、100%存在していることがわかっている。猫に傷つけられた時
化膿したり、或いは風邪のような症状が出るが、これも高齢者とか、弱っている人以外はほとんど発症しない。(しかし、人に引っかかれたり噛まれても化膿するでしょう。傷ついたら必ず傷を消毒しておいてください。)
猫引っかき病(バルトネラ・ヘンセラ菌):猫に手指を引っかかれて2週間くらいしてから、わきの下のリンパ節がニワトリの卵の大きさ腫れ、熱が出るときがある。上と同じに、傷を受けたら直ぐにヨードチンキなどで消毒をするのが良い。これも多くは発病せず、しても自然に治癒する。たまに弱っている人が発症する。(中川も昔ひどく忙しい時期に、消毒をわすれた傷から、脇の下のリンパがはれて、熱が出たことがあります)
犬回虫:砂場で回虫の卵が移る事が心配されており、学校などのでは大金をかけて砂を消毒している所が多い。確かに回虫卵が子どもに感染すると、もともと犬の中で成長できるようにできているので、人の中ではうまく成長できずに、腸から肝臓を通り、血液に乗ってまれに肺炎を起こす。また皮膚の下を幼虫が這いまわる幼虫移行症(ミミズ腫れのように見えます)を起こす。また、ごくまれに、目の網膜の組織にたどり着いて、網膜症を引き起こす事もある(日本で3例)。なお、回虫卵に感染した子は、100%へんな物を食べる異嗜症を起こす。
しかし、子どもの手につく砂の量は極微量である。子どもが手を洗わないで全て砂を飲み込むものと考えると、計算上はバケツに3杯の砂を飲んで、初めて回虫卵が感染する。だから、子どもが砂遊びをしたら、直ぐ手を洗わせれば、全く心配ないといえる。実際、回虫症の最大の感染経路はレバ刺しを食べることである。
トキソプラズマ症:猫が持っていると心配されているが、多くは生肉の取り扱い(生で食べるものと肉の調理のときに、まな板や包丁、箸を区別しないなど)などから感染している。日本では大人の20〜30%が感染しており、毎年1000人の感染者が報告されているが、症状を出すのは極まれである。しかし、妊娠しているときに始めて感染すると、トキソプラズマが胎児に移行して、出生後10歳以上になって視力障害を起こすことがある。すでに感染している人が妊娠した場合は、全く障害を起こさない。
(妊娠時のトキソプラズマの検査でマイナスと出た人がこれからトキソにかかると子どもに危険があります。飼猫の糞の扱いを、その日のうちに、糞に触らないように処理するのはいつでも必要ですが、猫について、獣医師と相談のうえ、薬を飲ませて猫の予防すれば良いでしょう。と先日佐伯先生から伺いました)
最近問題になっているのは、エイズ患者になった時、長年無症状できていたトキソプラズマが活動を始め脳炎で死ぬことが見られている。しかし、エイズは他のごく普通の病原でも死ぬことになるので、エイズを予防するほうが肝心であろう。
以上
日本でよく話題になる人獣共通感染症について述べたが、現在の所、人が健康なら心配することはない。またペットは心のお医者さんとの言葉のように、人にとって欠くべからざる存在なので、我々は病気を知った上で動物の健康管理に注意して、飼うべきである。そうすればむやみに怖がることはないだろう。それを、「知るワクチン」と呼んでアッピールしている。