栃 木県佐野市立船津川小学校の試み:子供の作文(下にあります)


                    

「教師が経験した、飼育動物が児童に良い影響をあらわした事例」
平成14年4月調査

全国の学校にかかわっている獣医師のご協力により、先生方から飼育の良い影響があった事例を集めてもらいました。多く は、総合的な効果をあげておられましたので、その文章からいくつかの要素に分けて、項目別にまとめました。
 
内容 
(71名の教師)
事例数 (総数183例) 
事例数(%・71名中)
慈しみ思いやりが育つ 44( 62%) 
交友関係が和やかに 24( 34% )
責任感が育つ 
 
24 (34% )
生命を実感する 
 
20 (28%) 
子どもの気持を癒す  19( 27%)
生物を知る 
 
18 (25% )
親・子・学校を結ぶ  10( 14% )
クラスがまとまる 9 (13%)
不登校改善  9 (13%) 
自信を持つ 3( 4% )
 
(地域)
  東京都、新潟県、徳島県、埼玉県、栃木県、神奈川県、大阪府、福井県などの38校の71名の教師のうち、何%の方が事例をあげたかを表して います。

(事例分類)
慈しみ思いやりなどが育つ
・世話をするうち動物への優しい心が芽生え、人にも優しくなる。
・1年に以上、教室で動物を飼っている3年生のクラスで、授業中に机の上に嘔吐した子がいたが、誰も汚いと言わなかった。

交友関係が和やかに:
・クラスになかなか溶け込めなかった子が動物で緊張をゆるめ、だんだんに溶け込めた。
・動物の周りに人があつまり、動物を話題にして楽しそうに話す。
・飼育活動を通じ、男女がコミュニケーションをし、共生教育の役割も果たしている。
・他の子とかかわりが少なく何時も一人でいる3年生。休日には当番ではないが必ず世話に来る。ウサギの扱いが上手でなつかれているように見えた。小さい子 に抱き方を教えたり、掃除、エサやりをしたり愛情を持って接している。その様子を見た同学年の子や下学年の子が仲間に加わり、だんだんに友達の輪が広がっ ている。

責任感が育つ:
・自分が世話をしないと死ぬと思って、世話をしている。
・飼育委員が最高学年として下級生に飼育動物をふれ合わせる。
・2年生でも動物をめぐるハプニングに際して、動物を思って自主的に対応した。
・口先だけで行動力が伴わなかった子が、動物の命をあずかる仕事についた事で、自分がやらなくては動物が弱ってしまうということから、責任感と行動力がで きた。

生命を実感する:
・獣医師に見てもらったが、日に日にやせていく動物を皆で心配して見守った。
・背骨を折ったウサギをがんばって介護したが、ウサギが日に日に具合が悪くなり体が傷つくのをみて、泣きながら安楽死を決心した。
・死んだウサギのミルクを思うと心が温かくなり、ミルクはみんなの心の中で生きていると思った。

子どもの気持を癒す:
・悲しい思いをした子が、休み時間のたびに校長室のウサギを抱きに来て、休み時間が終わる頃にはやわらかな顔になり元気になって教室に戻っていく。
・入学当初の子が、オープンスペースのモルモットを毎日見ては笑顔になり、学校に馴染んでいった。
・コンピューターゲームは失敗するとイライラするが、飼育ではイライラしたことはなく、楽しい。

生物を知る:
・クラスでウズラを飼った1年生、ウズラを可愛がり世話をするうちに、エサの残りを食べに来る野鳥や、糞を肥料に使った栽培まで興味は広がっていった。
・動物が嫌いなのに飼育委員会に入った子が、委員会最終日に「ぼくは動物嫌いだったが、世話をしているうちに好きになりました」と感想を書いた。
・動物が好きで飼育委員になった子、飼育の大変さをしみじみ感じているようだった。

親・子・学校を結ぶ
・休日の世話に校内で親子ボランティアを募ったところ、昨年は20組、今年度は40組の親子が応募した。親子で当番日に飼育の子と一緒に熱心に飼育舎を掃 除して、子ども達に良い影響を与えている。
・長期休業のとき、動物のホームスティを引き受けた家庭は、飼育を通じて親子のふれあいが生まれたとのことだった。

不登校改善
・不登校の子がウサギを見に学校に来て、時々は他の子との関わりも見られた。

クラスがまとまる
・朝と帰りにクラスのウサギを当番で掃除するが、さわれない、楽な事だけしようとすることから多くのトラブルが発生した。水入れを落として割ったはずみで 「ウサギなんて死んでしまえばいい」と叫んだ子がいた。当番のせいでいつもの子と帰れない、尿を見ると吐きそうになるなどの思いが、水入れが割れた事を引 き金に爆発したのであろう。最初その子は雑巾すら指先でしか触ろうとしない姿を見せて、友達とのトラブルが絶えなかった。しかし、その爆発に対する周りの 反応があまりにも大きかったことから反省したのか、その後当番の仕事をサボることはしなくなった。
・2年生のクラスで飼っていたハムスターが死んだ後、また飼育するかどうかで3時間くらい議論した。
悲しいから死ぬのを見たくないとの子、家では飼えないから飼いたいという子など、子どもの頃の思い出を連絡帳で伝えてくるなどの保護者も巻き込んでの話し あいになった。結果、新たに飼う事になった。
自信を持つ:
教室ではなかなか存在感をもてない子が、飼育を通し自信をもち明るくなった。

 これらの飼育を教育に活用なさっている先生方は、多くの効果を寄せてくださいますが、これらは すべて獣医師とかかわりのある学校から集められました。 飼育が丁寧におこなわれてこそ、上記のような効果が見られます。

これらの学校では、飼育がより丁寧に行われるために、先生がたは獣医師のサポートを歓迎しています。

報告者、 日本小動物獣医師会 学校飼育動物対策委員会 中川美穂子
助言者、 国立教育政策研究所 教科課程研究センター基礎研究部 鳩貝太郎 総括研究官
     お茶ノ水女子大学 無藤 隆教授

 「小学校での動物飼育の意義と獣医師による飼育支援」 中川美穂子 生物教育 VOL43,3, 139-146より


 

「生命尊重の心を育む試み」

「3年間、獣医師の指導を受けた子の作文です。」

栃木県では、平成11年から獣医師会が、県教育委員会の補助で行う「生きる力を育む学校作り事業」のモデル地区の佐野市で、市行政と「地域の獣 医師との連携に関する 開かれた学校づくり推進モデル事業委託契約」を結び市内の全小学校において
                1、飼育活動への指導と助言、
                2、各小学校での飼育指導、
                3、獣医師を導 入した学習活動の実践
                                               などの活動を3年間行ってきました。

平成13年度以降はこの事業が近隣7市にも広がりましたが、平成14年度で佐野市での県の事業は終了しました。

それに伴い船津川小学校という全校生徒51名の学校で、最後の授業のあと、獣医師のために感謝の会をひらき、子供たちが動物と友達になれた事、 動物の死に遭遇し皆して泣いたこと、動物を介していのちの尊さ、弱者への思いやりを知らされたという作文を読んで、もらい、獣医師たちはやってきてよかっ たと胸が熱くなったそうです。

その作文の一つを紹介します。
(なお、県のモデル地区指定からもれましたが、「このままなくなってしまうのは、もったいないので、継続したい」と佐野市から依頼があり、県獣医師会と安 佐支部は受けるよう検討中です。)


 

医師の先生方・感謝の会での作文 平成14年3月・ 佐野市市立船津川小学校  5年生、男子

「獣医師の先生方、いつも、ぼくたちの船津川小のために、お忙しい中、授業をしていただき、本当にありがとうございます。

 ぼくは、3年生のときから先生方の授業を受けています。初めて先生方の授業をうけたとき「獣医さんってかっこいいな。」ということと、「命に ついて、ぼくたちは、もっとしっかり考えていこう。」と強く思いました。
 先生方は、「動物も人間と同じで1羽1羽、性格がちがうんだよ。」と、やさしく教えてくださいました。ぼくは、最初「本当かな?」と思いましたが、毎 日、チャッピーとハッピーの2羽のウサギの世話をするうちに、そのことが、本当だということが、とてもよくわかりました。

 また、先生方は「心をこめて世話をすれば動物にも、その心が通じますよ。」ということも話してくださいました。このことを、ぼくは、今「本当 なんだ。」と、強く感じています。船津川小には、ニワトリのキャラメルがいます。キャラメルはぼくが入学したころには、人を見るとにげるか、つっつくこと しかしませんでした。でも、今は、ちがいます。ぼくたちが小屋に近づくとよってきます。エサもぼくが手の平にのせてあげると、僕の手の平をつっつかないよ うに、上手に食べてくれます。
それに、だっこも好きになりました。みんなのうでや、かたや、背中にのってうれしそうにしています。それを見て、ぼくは鳥のクチバシは、つっつくためにあ るのではなく、食べ物が食べやすいように、とがっているだけなんだと分かりました。

 それから、ぼくたちの心の中には、今はいない、ウサギのミルクと、インコのチッチのことが、大切にしまってあります。ミルクとチッチは、ぼく たちに「命」の大切 さを教えてくれました。ぼくたちは、とても悲しい思いをしました。みんなが泣いてしましました。でも、だからこそ、今、生きているものを大切にしようと、 一人一人 が思うようになったのだと、ぼくは思います。獣医師の先生方が「前にいた白いのは、何ていう名前だったっけ?」と、ミルクの事を聞いてくださったとき、ぼ くは、心があたたかくなりました。死んでしまっても、ミルクは、みんなの心に生きていると思いました。

 ぼくたちは、獣医師の先生方が教えてくださったことを、大切に心と頭におぼえておきます。そして、これからも船津川小の生き物を、みんなで大 切に、大切に、育てていきたいと思います。

 獣医師の先生方、お忙しい中、ぼくたちのために、本当に、ありがとうございました。


                              「学校のおたより」の記事から 

平成11年10月1日号
 獣医師との交流のあと、子ども達は校内で2羽のウサギと2羽のインコ、1羽のニワトリの名前を全校生徒から募集し、名づけた。

平成11年10月25日号
 子どもたちがかわいがるので、動物たちは名前を呼ぶとそれぞれ反応するようになってきた。しかし、残念ながらウサギのミルクが死んでしまったが、
そのときの子どもの様子・。
 「朝、虫の息で倒れて発見されてミルクを先生がくるまで獣医師のところに連れて行く。子ども達は「ミルクがいない」「だいじょうぶかな」と心配してい る。」 「治療後、校長室で、タオル、電気あんか、湯たんぽも使って暖めて休ませる。その間も、容態を気にして、口々に心配し、その心が表れたように曇った表情の 子が多く見られた。」
「虫の息なので、ミルクを力づけるためにも、生きようと必死に頑張っているミルクを子どもたちに会わせることになった」
「順に子供達が校長室に入って行く。どの子もいつもとは違うことが廊下や階段の歩き方で一目瞭然だった。ミルクを刺激しないように小声で「がんばれ!がん ばれ!」 とつぶやく姿、涙があふれ背中をふるわせる姿・・思いはひとつ・・ミルク、元気になって・・!」
「奇跡がおこったのか、少しミルクに動きがでて、学校中が喜んだ。 「ミルクが動いている」「元気がでたんだ」校長室の窓に張り付くようにしてミルクを応 援する子どもたちの笑顔。いつもなら大きな声で「先生あそぼう」と言うのに、ミルクを思い、静かに応援している子どもたち」
「しかし、5時間目が終わったとき、ミルクは息絶えていた。」
 

「キャラメルもミルクもチャッピーもチッチもピコも
ことばは、はなせないけれど
ひとのこころを、よむことができます。
じぶんのなまえを ききわけることも できます。
みなさん
やさしいことばと やさしい えがおを みせてあげてください。
あたたかく せっしてあげて ください。

どうぶつの ひとみに うつる あなたは
いったい どんな あなたでしょう。」


(中川)
 頂いた作文を見て、感動しました。やはり動物は情を持って長く付き合ってこそ、意義があるとおもいましたが、ニワトリのくちばしは人をつつくためにある と、皆さんは思っていたのかと、驚きでした。
 そういえば、チャボを抱いてもらうとき、くちばしの前を手を回してもらおうとすると、逆らう子どもさんが多かったと改めて思い出しました。