獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-199901-154

飼うという覚悟
投稿日 1999年1月26日(火)05時07分 パールちゃん

松井さん(ピクシーさん)への、匿名獣医さんのレスを読みました。
獣医さんみずからが愛犬を・・・というのはいっそうつらいですね。
かかりつけの獣医さんの話によると、
麻酔による事故というのは少なくはないようです。
麻酔だけでなく、レントゲン台に乗せただけで心停止を起こしてしまうようなこともあるようです。
その個体の体質や症状によっても、なんでもない簡単な検査や処置が
取り返しのつかないことになる場合もあるということでしょう。
こんな話を聞くと、必要以上に神経質にならざるを得ません。
獣医学の進歩と、開業という経済性の足並みがそろっていないのも問題の根っこにあるのかもしれません。

愛する動物が事故や病気によって獣医さんにかかるとき、
私はいつも考えてしまいます。
その子によって、これはいいことなのだろうかと。
自然界では動物は自分の力で傷や病を癒やします。
それが本能であり、自然の神秘です。
それでもダメなときは、ダメです。
それがその子の寿命です。
でも、人が動物を飼っている状況では、そこに人の意思が介在します。
その意思とは、痛いだろう、苦しいだろう、治してあげよう、という優しさです。
でも、ここでいつも私は思うのです。
それを、この子は望んでいるのかどうかを。
わけのわからない恐いことをされるよりも、そっとしておいてほしいのではないかと。
人は、優しさや愛情という名で動物を獣医さんに連れていきます。
でも、それは苦しんでいる動物を見たくないという人間の身勝手なわがまま、自己保身なのではないかと。
見ている自分がつらいから、動物を獣医に渡すのではないかと。
長いあいだ多くの犬猫と暮らしてきて、いろんなことがありましたが、
このことだけは今だに私の中で結論が出ません。

犬BBSにも書きましたが、私はひょんなことから我が家の犬になったダイちゃんに苦しいミクロフィラリア治療を受けさせました。
今も不自由な安静生活を無理強いしています。
ミクロフィラリアをやっつけても、親虫は残っています。
これでよし、もうなんの心配もいらない、という処置ではないのです。
いずれ親虫がダイちゃんを苦しめることになるかもしれません。
そのときに、思っているほどむずかしくはない、でもやはりそれ相当のリスクをともなう吊り出し術を受けさせるべきかどうか、悩む日がくることでしょう。
動物を飼うということは、覚悟のいることだと思います。

ここのようなホームページがあることは、いろいろな知識や情報を得ることができて、
とても心強くありがたく思います。
でも、その反面、いろいろな病気のことやその結果などを見聞きしてしまうと、恐ろしい気にもなります。
獣医さんの裏話や現状にも、心配な点を発見してしまいます。
松井さんの話など、つらくてつらくて目を閉じてしまいたくなります。
でも、それを越えなければならないのが動物を飼うという覚悟です。
飼うということは人に決定権があります。
喜びを与えてもらうぶん、喜びを与える。
悲しさやつらさ、苦しさも分かち合って、
命を長らえるために獣医さんとお付き合いする・・・・・
最近は、そう考えることが多くなりました。

長くなってしまいましたが、もうひとつ・・・・・
飼い主は動物から学ばなければなりません。
3年前、最愛の犬チャコが10歳で死にました。
直接の死因は肺水種による呼吸不全でした。
肺の水を減らすために長いあいだ利尿剤を飲ませました。
副作用として異常に喉が乾くので、チャコは水を欲しがりました。
でも、そこで水を飲ませてしまっては薬の意味がないので、
心を鬼にして水を与えませんでした。
水飲みの器の置いてあった場所で、息も絶え絶えな状態で私を見上げ、
お水をちょうだいと訴えるチャコの目が今でも忘れられません。
それでも私は、治ると信じて、薬の効果を期待して、水を与えませんでした。
何週間ものあいだ、ほんの少しの水で口を潤すだけで我慢させて、
ずっとつらそうにハアハアしていたチャコが、
寝ていたところからやっとの思いで私の足元まできて、
ハアハアもせず、じっと私の目を見て、そして倒れました。
そして息が止まりました。
チャコは精一杯、病気と戦いました。
たくさんの喜びと、たくさんの子犬を置いていきました。
チャコに水を我慢させたことで、私もチャコの病気と戦いました。
喜びも苦しみも分かち合うということはこういうことだと、私はチャコから学んだのです。
ずっとチャコを診てくれていた獣医さんに解剖をお願いしました。
獣医さん自身の診立てと実際の様子の確認をしてほしかったのと、
いつかチャコと同じような症状の犬を診るときに少して゜も治療に役立つ何かを獣医さんにわかってほしかったからです。

チャコが残していった子犬たちは、一緒に暮らしていた猫を殺してしまったり、
姉妹同士でも殺し合いをしてしまう問題児です。
喜びももちろん多いけれど、悩みの種も尽きません。
それも、チャコが教えてくれた「覚悟」ということなのかもしれないなと思います。
どんなにか水をゴクゴクと飲みたかったであろうチャコの写真の横には、いつもお水を置いています。
写真のチャコは「しっかりしてよ。こどもたちをよろしくね」と私を叱咤激励しているように見えます。

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