獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200005-119

sutemaruさまへ
投稿日 2000年5月11日(木)00時19分 はたの

長文失敬。

 正確な数については諸説ありますが、国内で毎年十万頭単位のイヌが殺処分されている
現実があります。当然ながら、すべてが咬癖などのやむを得ない理由ではないでしょう。
 要は、イヌでは、供給が需要を上回っております。
 どこから供給されるかといえば、どこかイヌが産まれているところから、です。
 「子犬工場」のような大規模ブリーダーにも問題はありますが、ここでの本筋では
ありません。
 そして、一般家庭で生れるイヌも供給の一翼をになっているのは確かですね。仮に
全個体が幸せにもらわれていくとしても、供給を増やしていることはかわりません。
その子犬たちが生れていなければ、「殺処分されるはずだった」犬たちがその家庭に
引き取られることができたかもしれないのですから。
 
 先の大戦中に多くのイヌが毛皮目的で供出されたり、食糧不足解消のために殺処分
されたりしたこともあり、また、世情が不安定だった事もあって、戦後しばらくは「番犬」
目的のイヌの需要は供給を上回っていたと考えられます。人々の「動物の権利」「動物福祉」
に対する考えも今とは異なっていましたから、フクロ詰めにして子犬を殺すことは社会通念上
珍しくなかったでしょうし、いわば「地域犬」として生きる個体もあったでしょう。
 そうしたことから、雑種でも気軽に繁殖させる習慣が強く残ったものと思われます。
 
 ですが、現在は「イヌ余り」です。一方で、動物の権利や福祉に対する考え方は変わりました。
 現在敢えて、雑種や、「普通のペット向け純血種」を意図的に繁殖させること、
あるいは、去勢に対する意識が低いがために繁殖させしまうこと、に、何か大きな
意義があるでしょうか? 

 動物の権利や福祉とはまた別の次元に、「純粋品種の維持・改良」という営為はあります。
こうした場合でも動物の権利、福祉は今以上に重視されるべきですが、いっぽうで、
「人間の文化としての」純粋品種を無視することはできません。これは純粋品種と雑種
との「命の価値」云々とは別の視座の話です。
 各犬種の歴史をひもとけば多くの例が見られますが、この仕事は数十年がかりであり、
人ひとりの一生を呑み込むほど重いものです。よほどの覚悟が必要でしょう。子犬の選別・淘汰
といった、犬好きにはつらい側面もあります。かといって、誰かが厳しく選別・淘汰
しなければ、「文化遺産」としての犬種は崩れていきますね。普通の愛犬家が
安易を手を出すべき事柄ではないでしょう。「ウチの何々ちゃんの子供が欲しい」
といったレベルでは済まないのです。
 で、真剣な維持・改良においては「淘汰」されるイヌが出てきます。
 むろん、家庭犬としては何も問題なし。一般の愛犬家が、「ペット向け大量生産の子犬」
のかわりにこうした「維持・改良の伴う余剰個体」を買い、繁殖に使わないことを
誓約して去勢して飼えば、劣悪な子犬工場は減り、真摯なブリーダーは経済的に安定し、
より高度な維持・改良に専念でき、淘汰された子犬が殺されることも減るでしょう。

 で、殖やすつもりがないなら、性衝動を持たせたまま、性行為を禁じるよりは、
性衝動を取り去ってしまうほうがより人道的と考えられます。ダイエツトのときに
欲しいのは食欲を抑制する薬であって、増進する薬ではありませんからね。

 私は拾った犬ばかり5頭飼っており、うち4頭は雑種です。個人的には雑種が好きです。
 けれど、不幸で無意味な死を遂げる犬を減すためには、雑種がいないか、少なくとも
珍しい世の中になってほしい、と思います。さびしくなるでしょうけれどね。
 雑種はもちろん、何かの縁でちゃんと血統書のついた純粋犬種を飼うことになっても、
繁殖させるつもりはありません。よほど真摯なブリーダーと親しくなって、系統の
「素材犬」を預かるというなら、配合やらなんやらすべて任せられるというなら別ですが、
私自身がある犬種の維持・改良に携わるには力不足ですから。
 拙宅のイヌもいずれは老いて死にます。スペースが空くでしょう。そこへ自家繁殖のイヌを
迎えることを諦めれば、ほんわずかですが、死すべき運命のイヌを引き取れるのです。
 私はイヌを猟につれていきますので、本当はポインティング・ドッグも欲しいのです。
 小型ミュンスターレンダーかビズラか、ワイヤードの独ポか・・・。ポイント能力の
ない雑種にポイント教えるのはポインティングドッグ2000年の歴史をゼロからたどる
ようなものでえらく大変ですし、上記品種を殖やしている英国の知り合いもいるので
私さえその気になればすぐに引けちゃいますから、誘惑は大きいのですよ。
 それでもやっぱりそれは自分のエゴだ、と思って、やめています。

 深い考えなしに自家繁殖する人の何割かかそれをとりやめ、
 流行犬種の幼犬でなくちゃイヤという人の何割かが、そうしたイヌを
買うかわりに飼育放棄された個体を引き取れば、殺処分されるイヌの数は
激減するとは思いませんか?

 純粋品種を買って飼うことも、深い考えなしに(純粋品種の普通の個体であれ、雑種であれ)
を殖やす事も、倫理的にいけないことだとは言いませんけれど、
「意見は?」と問われたら、
「このイヌあまりの世の中でこれ以上イヌを殖やすのは不幸なイヌを増やす事に
他ならないのですよ、
 殖やす気もないのに去勢しないのはかえってかわいそうですよ、
 つまり、ある犬種に一生をささげるんでないかぎり、繁殖はやめて、去勢しましょうよ」
「ウチのイヌの子供がほしいって気持ちはすこし我慢しましょうよ」
 ってことになります。 

 ですから、
>「純粋な品種のしかも種親にふさわしい個体で、その品種の維持・改良を真摯に考えるブリーダーが飼っているもの」が特別の犬だと言う事
です。


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