獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200010-187

pe:突然の死
投稿日 2000年10月17日(火)14時57分 はたの

獣医師ではありませんがご参考まで。以下、あくまで私のやりかたにすぎませんが。

剖検について 何かややこしい病気があって手術してもらう際や、診察受けてすぐ手術というときなど、基本的に立ち会うことにしています。術中死があれば、そのまま、剖検を依頼し、立ち会います。必要があれば死亡直後の血液を検査したり、臓器を摘出して保存したり(病理検査に出せるように)します。仮に死因の特定ができなくても、身近な動物の中身を見るのは勉強になります。その後に怪我をしたときなど、体の構造が分かっていればどのぐらい深刻なものか理解しやすく、レントゲン写真を見ながら獣医師の説明を受ける際にも何がどうなっているか、わかりやすいですから。インフォームド・コンセントは、治療を受ける側にも勉強が必要な制度ではあります。お金もかかります。
たとえば、「麻酔を醒めさせる薬」や強心剤などのエマ(ージェンシー)薬を手術前に注射器に用意しておけば、何かあったとき、十数秒を節約でき、蘇生率が少し高くなるでしょう。が、必要が生じなければ無駄になります。一度注射器に吸ってしまったものをあんまり使いまわしするわけにはいきませんから、そのコストは負担しなくてはなりません。インフォームド・コンセントが強まるほど、こうした選択は治療を受ける側が下さなくてはならなくなります。
また、覚悟が必要ではあります。手術や剖検に立ち会うのはむろん、麻酔から覚める時の錯乱状態に付き合うのも、快い経験とはいいがたいものですから。飼い主が卒倒しかねないと判断される場合、獣医師が立ち会いを嫌がるのもやむを得ないとは思います。
今回の場合では、その獣医師が明確なミスをしている場合の何割かと、個体に特殊な事情がある場合の何割かは、事後の剖検でも死因がわかる可能性がなくはないでしょう。しかし、いまさら剖検してもわからない可能性も高いと思われます。
獣医師の説明が正しいとすればなおさら、剖検で得られるものは少ないと思われます。なるべく多くの正確な情報を集めるためには、心停止後、蘇生をあきらめたらすぐに剖検に取り掛かる、サンプル保存の用意は術前にしておく、ぐらいのことが必要でしょう。

私にしても、「たかが避妊去勢ぐらい」では、立ち会わないこともあります。あんまり深刻に考えたくない、という気持ちになりますから。けれど、全身麻酔をかける以上、リスクがあることは覚悟します。迎えに行ったら喜んで飛びついてくるのをイメージするのは容易ですが、だからこそ、あえて、縁起の悪い状況も想像しておきます。優れた麻酔薬が開発され、動物病院でもポピュラーになりつつありますから、麻酔の危険性は以前よりは下がっていることでしょう。が、ゼロでないのも確かでしょう。専門の麻酔医が処置するヒトの手術でも、統計などみると、一定の確率で死亡事故は起こっているようですから。

獣医師を変えるかどうかにはふたつの要素がありましょう。
人間関係がこじれたら変えたくなるのは当然でしょうし、無理して同じ獣医師にかかり続ける必要もないでしょう。
が、他方、腕の問題もあります。かかりつけに選べる地理的な範囲の中で、その獣医師の腕がいいならば、ミス(と飼い主側が感じたこと)を許すほうが得かもしれない、とも思います。
獣医師と飼い主は、金銭の介在する契約関係にあるわけで、潜在的には対立関係にあります。ですから、そうしたややこしさがない友人同士でさえなかなか持ち得ない「絶対の信頼関係」を持つのは困難でしょう。
が、絶対的でない信頼関係は築けるでしょう。飼い主側から見れば、「どのぐらいのミスまでは許せるか」がその尺度でありましょう。

こじれてしまったのならかかりつけを変えるのは仕方ないことです。が、単純に取り替えても、似たようなトラブルが将来生じない保証はありません。
腕、設備、コスト、性格、自宅からの距離、診察時間、得意分野等、飼い主が獣医師を選択するときに気にすべき要素はいろいろあります。麻酔の処置料金ひとつとっても、数千円から十万円近くまでいろいろです。値づけが違うだけかもしれませんし、機材のもとの値段が違うのかもしれません。それをどう評価するかは飼い主側の責任になります。
死亡した子は戻ってきません。嘆き悲しみ悼むのは、それはそれとして、そうした感情の処理とは別に、どんなことを、どんな優先順位で獣医師に求めるのか、整理されてはいかがでしょうか。それもまた死を無駄にしないひとつの方法だろうと考えます。

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