獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200107-88

re多頭飼い
投稿日 2001年7月10日(火)18時31分 はたの

獣医師ではありませんがご参考まで。

イヌ同士の「仲の良い関係」は、ヒトが思うそれとは少し異なります。みんな公平平等なお友だち、兄弟姉妹、とはなかなかいきません。順位があるのが基本です。ごく稀に、順位を気にしないイヌだけが集まると公平平等的な群れができることもありますが、一頭でも順位にこだわる個体が混じれば公平平等では在りえなくなりますので(ヒトの干渉でのコントロールは困難)、あくまで例外的なものでしょう。

年齢性別去勢避妊の有無を書いてくださっておられないのでややあいまいになりますが、推測するに、
「甘やかされたボーダーが、多少の無礼は許される仔犬から、礼節を守らなくてはならない親犬になる時期に、本来ならば目下としての振る舞いを覚えるべきなのに、飼い主の後ろ盾を自分の力と勘違いして自分の力を過信し、より上位のゴールデンに挑戦している」
「ゴールデンから見ればボーダは下位なので、その挑戦を退けようとしている」のであろうと思われます。

 もしも、飼い主がいない時にも激しい喧嘩があるようなら、隔離もやむを得ません。が、すると、再び一緒にするのは難しいのはご覚悟の上で。そしてもし隔離するのなら、新参者であるボーダーのほうであるべきでしょう。ボーダー抜きなら他のイヌたちは旧秩序に戻りますが、旧リーダーのゴールデンを排除してボーダーを加えると、群れが安定しにくくなります。
 
 できれば、隔離せずに行きたいですよね。その場合、強いほうに飼い主が味方するのが、群れに平和を取り戻す唯一の手段です。体格差を考えると、ゴールデンのほうがおそらく上位ですから、生活のすべての面においてゴールデンを贔屓し、ボーダーを最後にします。もしボーダーがオモチャで遊んでいるところにゴールデンが寄って行って唸ったら、ボーダーからオモチャを取り上げてゴールデンに渡す、というように。心理的に抵抗感をお持ちかもしれませんが、ここは、ヒトがイヌに合わせてやる場面です。弱きをくじき強きを助ける、のを徹底してください。イヌに公平平等な平和はなく、パクス・ロマーナのような、強者のもとでの平和があるのみなのです。そしてイヌの社会では、強者の前でこれみよがしにオモチャを齧ってみせるのは挑発ですから、強者には怒る権利がある・・・とお考えください。ケンカの気配があったら、ボーダーを叱ってください。突然のケンカの場合もボーダーを叱ってください。ゴールデンを叱っていいのは、「ケンカの気配があって飼い主がボーダーを叱ったのにも関わらずゴールデンがボーダーに襲い掛った時」だけです。この場合、群れの秩序を維持するという飼い主(=群れのリーダー、最上位個体)の権限にゴールデンが踏み込んできたわけです。ボーダーを襲った事ではなく、飼い主の権威を無視したことを叱るわけです。
 むろん、ゴールデンが老い、ボーダーが充実して、真の実力においてボーダーがゴールデンを上回る時が来れば、今度はすべてポーダーを優先させることになります。

 ゴールデンが満足するぐらいにボーダーが小さくなれば、群れの平和は戻り得ると思います。ボーダーが少しいじけるのは仕方ありません。多頭飼いの下位個体とはそういうものですから。ただし、イヌは公平平等の観念に縛られていませんから、ヒトが思うほど辛い毎日というわけではありません。勘違いを悟って落ち着くべき順位に落ち着けば、いわば納得するはずです。また、ボーダーの運動量を増やすのも一案です。疲れて果てていれば上に挑戦しようという気も起きませんから。ボーダーだけを連れ出して運動させると、帰宅時に他のより上位の個体が嫉妬することがあります。うまく手分けしてボーダー以外も別メニューで遊ばせるとか、ボーダーに「獣医さんのにおい(消毒用アルコールとか)」をちとなすってから群れに戻すとか、戻すとき、全部のイヌにきちんとフセをさせるとか(飼い主の権威が強調されていると、イヌ同士の順位の差がぼやけますから)、配慮が必要です。


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