意見交換掲示板過去発言No.0000-200401-94
RE:トリインフルエンザについて |
投稿日 2004年1月13日(火)12時22分 プロキオン
1月12日の じょんじょんさんへ トリインフルエンザにいての御質問ですが、昨日我が国における発生報告をマ スコミが報じていましたので、その関係かもしれませんね。 トリインフルエンザは法定伝染病ですので、罹った鳥の種類と分離されたウイ ルスの血清型が問題となります。これに該当していないと法定伝染病の扱いに はならないことがあります。 別名「家禽ペスト」と表現されるくらい猖獗を極める疾病であり、今回の山口 県の発生例のように6000〜7000羽くらいの斃死数で済んでいるのら、 僥倖の部類です。海外では30万とか40万の単位での斃死が報告されている のくらいです。 テレビで放映されているものものしい警戒体制も無理もない事と言えます。 病名としての「トリインフルエンザ」は、先に申しましたようにウイルスの血 清型が重要であって、インフルエンザウイルスが鳥から分離されても、それは 鳥のインフルエンザであって、特定の疾病名とはなりません。動物の疾病を扱 う者の世界では、伝染病というのは、あくまでも「家畜伝染病予防法」に定め られたものを指して言います。それ以外の疾病は伝染する疾病であっても「伝 染性疾病」であって、「伝染病」ではありません。 なぜ、このようなことにこだわるのかというと、鳥から(特に渡り鳥)から、 インフルエンザのウイルスが分離されるのは、さほど珍しいことではないから です。このことが無用の混乱と不安を招くからです。 しかしながら、今回の発生例では、血清型が動物衛生研究所において、「H5 」まで確認されているようですので、「トリインフルエンザ」ということにな るのではないかと考えます。 この疾病は家禽疾病の本にも記述がないことがあります。それくらい国内にお いては無縁と考えられていたわけなのですが、海外ではあちこちで発生があっ たわけで、我が国だけが無事ということでもないわけなのです。 臨床症状は、とりあえず、鶏冠のうっ血や出血、顔面の腫脹となっていますが 、そのような症状をいちいち確認している間にも斃死していきます。 御質問にあったインコや文鳥にも感染するのかという点と人間との感染の有無 についてですが、海外では人間への感染例も報告があるようですので、鳥同士 の感染もあると思います。 むしろ、インフルエンザウイルスというものが、特定の動物を対象とした増殖 ではないのです。人間・鳥・豚等の間を相互に行き来して、ウイルスの抗原の 一部を変化させながら生きてきたウイルスなのです。 ウイルスも生物ですのから、病勢があまりに強すぎると、感染対象者の動物を すべて殺してしまうと、自らも死滅するしかないのです。また、宿主の免疫に よって駆逐されても絶滅してしまいます。そこで、ウイルスが絶滅しないため には、次のような戦略がとられます。 (1)感染対象動物の種類を広げて、感染は成立するが発病しない動物の体内 に避難する感染方式、つまりキャリアーやレゼルボアと呼ばれる宿主を もつ (2)例えば、神経組織のように宿主の免疫が作用しにくい組織に隠れたり、 宿主の遺伝子の一部に組み込まれて長い時間をかけて発現する (3)宿主の抗体からの攻撃を防ぐために、常に自分自身の体の一部を変化さ せて、抗体の成立をおくらせる インフルエンザウイルスそのものが、自身の抗原の一部を変化させるのに、他 の種類の動物への感染を利用しているふしがあるのです。 したがって、先に述べたように「インフルエンザウイルス」の分離や感染だけ をもって、騒ぐ事は得策ではありません。必ず、ウイルスの型を確認する必要 があるのです。 SARSの一件以来、今冬はインフルエンザワクチンが底をついているようで す。インフルエンザのワクチンは流行するであろう血清型を予想して製造して いますので、この血清型が外れていれば、期待どうりの効果はあまりありませ ん。 むしろ、ワクチンを接種したのにインフルエンザのような症状が出ているとい うので、いきなり指定病院へ行ってくださいと医療機関に告げられるかもしれ ません。これは混乱の元となりかねません。 そこへ今回のトリインフルエンザですので、インフルエンザワクチンの接種希 望者がますます増加する懸念があります。接種すること自体は結構なことです が、それですべてがクリアーされるわけではありません。 トリインフルエンザの場合は、罹患した鶏群に治療と言う概念はありません。 できうる限りすみやかに処分するというのと汚染物品の拡散の防止しかありま せん。卵も肉も餌も糞も病鶏に関わるすべての物品が移動禁止対象となります。 初期の防疫活動が厳正かつ適格に実行される程、早期の終息が望めますので、 冷静に推移を見守りましょう。 |
|
|
獣医師広報板は、町の犬猫病院の獣医師(主宰者)が「獣医師に広報する」「獣医師が広報する」 ことを主たる目的として1997年に開設したウェブサイトです。(履歴) サポーターや広告主の方々から資金応援を受け(決算報告)、趣旨に賛同する人たちがボランティア スタッフとなって運営に参加し(スタッフ名簿)、動物に関わる皆さんに利用され(ページビュー統計)、 多くの人々に支えられています。 獣医師広報板へのリンク・サポーター募集・ボランティアスタッフ募集・プライバシーポリシー 獣医師広報板の最新更新情報をTwitterでお知らせしております。 @mukumuku_vetsさんをフォロー
Copyright(C) 1997-2024 獣医師広報板(R) ALL Rights Reserved |