獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200409-179

re秋田の親さん、補足
投稿日 2004年9月17日(金)21時58分 投稿者 はたの

少し補足です。

 訓練士にまずご相談、がいけないというつもりはありませんが、その場合、行動療法に強い強い獣医師(秋田の親さんのかかりつけでも訓練士の紹介でもかまいませんが)と三者でチームを組むぺきです。というのは、訓練の補助として薬物の投与が望ましい場合が往々にしてあるためです。
 興奮が強いということから、幸いにして捕食性攻撃ではなく、順位制に絡むものと推察されますが、そうした場合、雌性ホルモンやその類似物質が効いたり、あるいは単純に訓練の助けとして、精神安定剤が好ましいこともあります。それらのオプションが選択できるか? が大切です。
 また、訓練はご自宅でご家族が(専門家の指導を受けつつ)行うことが大切です。おとなしくなるのを期待して預けるだけでは困難でしょう。
 実見しないと確言はできませんが、相手のイヌの飼い主にも協力を求めつつ、必要なら薬物を使って興奮を抑制してお飼いの秋田が乗り越えるべき階段を低くしておいて(体系的除感作といいます)、隣家のイヌの気配がしてもおとなしくしていたら誉める、それが出来るようになってきたら、気配でなくもう少し明確に判るようにしておとなしくしていたら誉める、という流れと、
 隣家のイヌの気配がないところで、伏せなどを再訓練し、好物などと結び付けておいて、隣家のイヌの気配がしたら伏せを求めてできたら誉める(代替行動分化強化あるいは対立行動分化強化といいます)、といった流れの組み合わせになります。
 単に服従訓練をやり直せばいい、とはいかないでしょう。服従訓練のやりなおしは上に掲げたようなことが出来るようにするために必要なら行うべき手段であって、それ自体では解決になりませんから。
 簡単に訓練すればいいだろうと考えて行ってかえってこじれるケースもありますから、いま知っておられる訓練士に拘るのではなく、それ以外も含めてご検討のうえ体制を構築されますよう。

 先刻は書き忘れましたが口輪も平行して検討されるべきでしょう。メッシュタイプのもの
など、比較的着用に抵抗が少ない製品があります。なお、イヌが噛んで壊すこともありますから、サイズが決まったら予備も。また、へんにずれたりもありますから、常時つけるものではなく、散歩時限定です。
 繋ぎ方について、情報不足なのですが、庭に繋いでいるのですか?
 だとしたら、係留方法の改善ではさまざまな支障が考えられます。第一に、外にいるイヌのほうが(ことに窓を閉める季節になったら)隣家のイヌに対して室内のヒトより早く気づくでしょう。興奮しかるところでヒトが介入して鎮めるのが困難になります。第二に、絶対に外れない係留方法を考えるのは労多く実りが少ないためです。
 室内飼育に切り替えるのをまずお勧めします。なるべく長時間、ヒトとイヌが同じ空間を共有することが、行動修正では大切なのです。行動や態度の変化をヒトが自然に感知できますから。
 どうしてもそれが不可能なら、物理的に脱出不可能な(=天井があり、二重戸で、充分に丈夫で、かつイヌが噛んで歯をいためることない)犬舎を。
 ケージ外に係留する場合は、常にヒトがついていることを原則にすべきでしょう。
 言い換えますと、お庭を全部囲ってしまうのがよろしいかと。室内飼育にする場合も、網戸など簡単に破られますから、低い窓があるのでしたらその外側に溶接金網のサッシを増設、とか。風除室がない玄関であればそれを増設とか。
 いってみれば、トラでもヒョウでも飼えるような住空間を作ってヒトとイヌが同居、というのがベストであろうかと思います。

 散歩中のリードについては、胴輪とチョークチェーンの併用をお勧めします。これは係留にはどちらも適しませんが、ヒトが一端を握っている間はコントロール性と安全性を両立できます。10センチほどの鎖(一端はリング、他端はナス環)を用意して(端の、また接続に使うリングは溶接のこと。ウチでは銀ロウ付けで作りましたが困難なら鉄工所等に)、胴輪につけます。このリングとチョークチェーンのリングとをともにリードのナス環につけます。イヌが前方へ行く際にはチョークが効き、イヌが逆向きになってもリードを高く保持してイヌをつるすようにすれば首輪のスッポ抜けが防止できます。前方へ向かう場合も高い保持すれば首に負担が集中するのを避けられますから、チョークによる怪我予防ともなります。ただチョークを使うには違いありませんから、係留は厳禁です。
 むろん、リードの手元は、ただ握るのではなく手首に通して握る、輪が大きくて簡単に手首から抜けるようなら縫い縮めておく、といったケアも大切です。雌の秋田一頭なら、成人であれば、転ばされることはあっても、長距離引きずられはしないでしょうし。

 犬歯の切除は、それか殺処分かの選択となれば断行して差し支えないと思いますが、選択肢の後の方に位置するものでしょう。少なくとも最初に行うべきものではありません。噛まれる側の物理的なダメージは大いに減りますからそういう意味では効果があるわけですが、賠償とか気まずさとかは物理的ダメージに比例はしませんから。

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