獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200410-102

判断基準
投稿日 2004年10月7日(木)14時23分 投稿者 はたの

oliveさんの書き込みを総合すると、
1 一般論ではなくY県のケースに限定で
2 クマの生息地保全・被害防止対策が不十分で
かつ
3 人里に出てきた、農作物荒らしたと言うだけでは切迫した状況とはいえないのに
4 殺処分にした
 のが問題であると。

 まあ1はとりあえずいいでしょう。
 2については、生息地保全と被害防止対策が異なるものである、というご認識がおありなのか疑問です。
 仮に生息地保全が理想的になされたとしましょう。豊かな森、その豊かなキャパいっぱいいっぱいのたくさんのクマ。
 ・・・と、不作年には、よりたくさんのクマが森をさまよい出ます。放っておけば餓死するだけのことです。生息適地を大きくしようとすれば人里近くまで広がります。接触は増えます。保全がよくなされていれば個体群の遺伝子プールに対する1個体の占める重みは減りますから、現在以上に「安易に」殺処分を行うべきとなります。

 被害防止対策のほうを重視するなら、理想的にはたとえばバッファゾーンを設けます。クマ生息地と人里との間に「クマが住めない自然地域」を置くことになります。たとえば奥山を広葉樹に、里山をスギに、のような、現況の逆に。
 そのぶん全部を広葉樹にするよりは生息適地は狭くなります。そうではあっても人里に食物資源があるのは変わりませんから、生息不適地を抜けて出てくることも会務には成りえません。それに対応しようとすると、電柵とか監視装置とかということになります。補助金出すか価格に転嫁するか。後者なら保護貿易がやりにくい世の中のままだとしたら、日本の農業は大変に困ったことになるでしょう。

 3、何をもって切迫した状況と捉えるか。
 個人的にoliveさんがどう思うかはこの際問題になりません。
 どういった判断が受け入れられやすいか、がまず問題です。
 農作物への被害は、財産への被害です。言ってみれば給料が減額されるのと同じことです。放置しておけばどんどんと減り続けます。少なくとも被害者にとっては充分に切迫しています。人身被害の可能性については言うまでもありません。殺すかどうかは別として、なんらかの対処は必要です。
 そして、対処の、受け入れられやすいある幅の範囲内では、クマが同情される、つまりoliveさんのように殺処分に怒るヒトが生じる、ほうに傾くのが良いのです。
 私のすむ町で、この夏一頭が殺処分されました。お仕置き後にまた現れて捕獲されたので。個人的には3回目まで待ってもいいんではないかと思います。クマに会ったら怖がるより喜ぶほうですし、ちょっとぐらいなら齧られてもいいか、話のタネになるし、てなもんですが、そうした個人的な感じ方を他者に押し付けるわけにはいきますまい。
 やはり決断を下したかたの判断を尊重します。決断を下したかたも、あるいは個人的にはもう一回待ちたかったのかもしれません。けれど人々の安心とクマ全体の今後の利益のためにはそうはいかない、ということもあるわけです。

 クマかヒトか、になり、クマなどいなくてもいいんだ、にならないためには、「その個体のケース」に限られた視野では過酷と思える決断が正しいこともあります。
 oliveさんが憤っていること自体が、決断の正しさを裏付けています。クマに同情が集まるほうがクマ全体にとっては得ですから。最悪なのが「安易な放獣」によって、放したクマが自身事故を起こすこと、です。
 迷ったら殺処分のほうが、クマ全体の利益になるのです。

 だからこそ、そのケースについてだけ調べたぐらいでは知識不足であり調査不足なのです。どういった歴史的経緯があって、問題の「構造」がどうなっているかが大切なのです。
 また、個体を対象とする愛護なのか、個体群を対象とする保護保全なのかが未整理でおられますから論旨が破綻していて、論旨が破綻しているから他者の意見とご自身の意見がうまく比較できていないわけです。
 生息地保全がよくなされるほど、被害防止対策における殺処分の必要性は高まりますし、殺処分以外の対応はいっそう高コストになり、意味は小さくなります。

 保護保全の成功は、「人里に出てきたクマ? とっとと撃ってしまえ。その一頭がいなくなっても個体群はビクともしない」状況を意味します。
 愛護と保護保全は時には真っ向正面から対立するのです。
 保護保全の手法には必然的に殺処分が含まれる、というキビシイ現実を直視されませんと、どうにもならないかもしれません。

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