獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200502-51

無症状時のACEI投薬について
投稿日 2005年2月6日(日)08時20分 投稿者 山下 貴史

今回ACEI(アラセプリル・テモカプリルなどの○○プリルと呼ばれる血管拡張薬・血圧調節薬)の無症状期における投薬について侃侃諤諤されているようですが、客観的に読ませていただいていて「無症状期でも発見されれば投薬しましょう!」のように決定付けられて読めましたので、もう少し意見にハバを持たせるべきと思いました。KONDOさんはアドレスが明記されていたことと、内容が深いために長文になること等あったので早期にダイレクトメールしてますので、今回はこちらの掲示板を読まれる一般的な方に向けた一般的と思われるコメントとしたいと思います。

心雑音が唯一の異常所見でその雑音も6段階評価で1〜3という比較的小さな音で、心拡大は無いか軽度の無症状の心疾患(特にわんちゃんに多いものは高齢期の僧房弁閉鎖不全症初期)・・・つまりNYHA分類のクラスTやISACHC分類のクラスTa・Ib時のACEI時のいわゆる「おくすりの使用」についてはさまざまな文献が存在するのが現状と思います。

僕が崇拝(?)尊敬している循環器疾患を主に診られている獣医師は「4年くらいまではあまり飲んだからどうということはないが、5年目以降のことを考えると飲むことに意味があるように思う」とおっしゃっています。おそらく、「放っておくよりは長生きできる可能性が高い気がする」ということですよね。

しかし、この心不全の初期療法には、1)お金がかかる割には、症状の改善(もともと症状は無いわけですから)が見られないため投資しがいが無い、専門家においてもその見解はまちまち・・・ということを知らなくてはいけません。

また、「内服していれば良い」ということでもありません。大切なのは「飲む」ことではなく「患者さんの状態を把握・維持する」ことではないでしょうか?つまり、心臓が悪いから薬をのんでいるが、人の食べ物はあげている・・・ではいけない。まず、心不全時に注意すべき共通項目・・・1)塩分の過剰を抑える(初期は控えすぎもいけません、通常のドッグフード(半生を除く)だけにしましょう!ということです)、2)体重増加に気をつける、3)フィラリア症にかからないように予防を徹底する・・・の実践です。これらのことは薬と同等以上に心疾患の維持には大切なことだと思います。また、避妊や去勢・歯科予防処置(歯石取りや乳歯遺残抜歯など)・いずれ大きくなる可能性のある腫瘍(乳腺腫瘍など)の切除など麻酔処置はできるだけ早い時期に行なっておくべきです。

そして心臓の評価ですが、心雑音の大きさはイコール心疾患の重篤さを表すものでは「ありません」から、できればレントゲンによる心臓の外観(中身は見えません)と肺の評価など、心電図による不整脈の評価など、心エコー検査による収縮力や逆流や心臓弁の状態の把握など、血圧評価・・・から、総合的な判断を行なうべきと思います。一生飲むことになるおくすりですから、少ない証拠でむやみに飲むことはいかがなものでしょうか。

ですから無症状期ならば、単に薬を飲むだけならば、定期健診による心臓の評価や家庭でできる注意の実践のほうが将来の心臓に良い場合もあると思います。(NYHA2なら治療には科学的根拠がありますが)もちろん、検診も行いACEI(別にアラセプリル(=セタプリル、アピナック)でなくて、僕の中では勝手にちょっとやわらかいイメージあるのエナラプリル(=レニベース、エナラプリル)やベナゼプリル(=チバセン、フォルテコール)の低用量療法と家庭での注意・・・の併用が良いとは思います。もちろん話し合いの結果、検査はしないで薬だけという選択肢もあっても良いとも思います。

全てはインフォームドコンセント、つまり納得できる話し合いの上で行なわれるべきであり、「心疾患は悪くなるんだから、治療を開始しないなんて!」とは言い切れないと思うのです。初期療法にお金をかけすぎて、実際治療の必要・重要な時期に治療に進めない・・・なんてこともありえます。それでは本末転倒ですよね。

最後に心臓のことだけを考えれば、副作用の少ないACEIを初期心不全に使うことを僕は「心臓に良いこと」と捕らえて日々診療にあたらせていただいています。

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