獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200701-142

Re:猫伝染性腹膜炎
投稿日 2007年1月23日(火)16時24分 投稿者 プロキオン

タイトルが「猫伝染性腹膜炎」と記載されていますが、文中では「腹膜炎」の表現となっています。猫伝染性腹膜炎は特定の病名になりますが、「腹膜炎」の方は症状名であって特定の病名とはなりません。
なぜ、このような重箱の隅のようなことに言及しているのかというと、投稿文中に「12年前に購入して10日目に腹膜炎と診断され…」という部分があるからです。
猫伝染性腹膜炎は、子猫の頃に猫のコロナウイルスに感染して免疫抗体がつくられるようになって、それからウイルスの変異があってというような過程があります。
すなわち、コロナウイルスの感染が即「猫伝染性腹膜炎」ではありません。その後11年経過して今12年目として、この間に何もなかったのであれば、購入直後の「腹膜炎」との診断は「猫伝染性腹膜炎」であったのか、ただの症状名としての「腹膜炎」であったのか、どちらでしょう?
経過から考えると、(1)猫のコロナウイルスに接触したが、猫伝染性腹膜炎ではなかった、(2)一般的な症状名としての腹膜炎であった、 のどちらかというようなことになりそうです。
この点を踏まえて、下記の部分を読むと、

>12年前に子猫を購入しましたが10日目で具合が悪くなり病院で腹膜炎と診断され 現在11才の雌猫が腹膜炎で入院中です。室内飼いなので元々猫自身が持っていたとしたら発症しないようにできる方法がありましたら

11歳の今、「腹膜炎」で入院中なのに、「発症しないようようにできる方法」と言うと、まだ伝染性腹膜炎は発症していないということになるのですよね?
ここまで読むと、こまささんは、猫コロナウイルスの抗体を保有している状態を「腹膜炎」と表現しているということなのでしょうか?

まず、発症していないコロナウイルス抗体保有猫の発症を完全に抑制できる方法というのは知られていません。これができるのであれば、猫の飼い主にとっては、かなりの朗報となります。多くの獣医師はウイルスが動き出さないようにストレスをできるだけ与えないようにと述べていると思います。

また、すでに発症してしまっている症例については、免疫のコントロールを中心とした治療か、支持療法ということになると考えられます。この病気の予後を左右できるほどの画期的な治療法については、私は存じません。

繰り返しになりますが、この病気はコロナウイルスの感染=病気ではありません。ウイルスに感染して抗体が作られるようになって、それからウイルスの変異が起きて、猫の体のなかで異常な免疫反応が発生して、コントロールができなくなって、特有の症状が発現してきたものが「猫伝染性腹膜炎」です。
したがって、ウイルスに感染しても伝染性腹膜炎ではありません。抗体検査にひっかかっても伝染性腹膜炎ではありません。とてつもなく高い抗体価をもっているとか、少なくとも2管以上の抗体価の上昇(通常はそれ以上の上昇)があって、初めて発症の危険を検討するようになります。
11年間、何事もなく経過してきていたのであれば、この間にウイルスの動きも抗体の上昇もなかったのではないかと想像されます。

今、入院中の理由が記載されていませんので、今後の推移については、なんとも言えません。また、入院の理由が本当にこの病気が発症してのことであれば、「発症しないようにできる方法」を尋ねられても、発症以前でも答えに苦慮するのですから、発症してからであれば、なお困ります。

こまささんへのレスが遅れたのは、文中の言葉の意味をどのように捉えたものか迷ったからです。飼い主さん同士の方が話が早かったかもしれません。



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