獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200711-46

Re:猫の胸水治療について
投稿日 2007年11月14日(水)12時49分 投稿者 プロキオン

みちゃんとのやり取りを見ての質問かな。

>猫の胸水治療を針で抜くには熟練の技術が必要ですか?失敗もありますか?

熟練の技術は必要ありません。単に針を刺して吸引するだけのことですから、失敗と呼べるようなことも まずありません。
ただし、死亡に繋がることはありえます。それはみっちゃんの方のレスでも触れていますが、胸水を抜く以前に大抵は呼吸不全に陥っているからです。
猫は、犬のように激しく走り回る動物ではありません。むしろジッと身を潜めているタイプです。そのためか、低酸素状態に耐えることができてしまうのです。犬であれば、とっくに身動きができない状態でも、ゆっくりとなら動くことができますし、飼い主さんが気づかずに死の一歩手前まで行っていることが多いのです。

ですから、妙な呼吸をしている猫であれば、まず酸素を吸わせてからという注意も必要になります。猫には滲出性胸膜炎(膿胸)という病気がよくあって、確認のためにレントゲン撮影をしようとして、死なれてしまったというケースはよく見聞きします。私も、これは怪しいぞと抱き上げようとしたら、恐怖感からいきなり飛び上がられて、死なれてしまったこともあります。ダンボール箱に入れられていたので、出そうとしただけで、猫には触ってもいませんでした。
昼の食事に出ていて、おいて行かれた猫で、電話で連れて来た方に来院していただき、胸から膿汁を吸引して説明することになりました。獣医師であれば、話だけで思い当たるのですが、飼い主さんでは直接現場を見ていなければ、納得しがたいはずです。
レントゲンで見れば、肺が1/3くらいにまで押し縮められていて、逆に心臓の陰影は肥大しています。もっとも、そのレントゲンを撮影する前に酸素を吸わせたり、抗ショック剤を投与する必要もありますし、私のように酸素吸入をさせる前に駄目になってしまう個体もいるということになります。
また、胸水や膿汁の吸引排泄がうまくいっても、その後に血圧が下がってしまい、そちらで駄目になるということも多いです。フィラリア症による腹水を針では抜かない方がよいというのは、そのような理由になります。

猫も、ウサギもフェレットも、そのようなあまりに急激な呼吸不全に遭遇することが多い動物です。小鳥の診療でも同じ経験をされている獣医師は多いですし、そのような経験から小鳥は診たくないという先生も少なからずおります。
うかつに触れるのが恐い、恐いけれども、触れないと診療にならない。飼い主さんはその危険性をどこまで理解してくれるのだろうかという懸念からです。だったら、最初から診ませんとお断りしておいた方が無難という考えですね。
さすがに、猫の診療はできませんとも言えないので、猫の診療は実施することとなりますが、初診の時点では、かなり気をつかっているはずですよ。

アルパさんのケースでは、吸引後、時間の経過があってのことですから、血圧の低下に起因しているのではないかと想像します。
肺も傷つけてはいないと思います。肺はかなり押し縮められているはずですから、針先は届かないというのが普通ですね。たぶん、胸水の中に直接出血していて、それが沈殿していたのではないでしょうか? だから、最初に上澄みの液体が吸引されて、量が減少してきてから重い赤血球が吸引されてきたように考えます。針先が肺に届いていてきずつけていたのであれば、最初の方で血液が吸引されると考えられます。

胸水が貯留しているという状態は、水のなかで風船を膨らませるような仕事に相当しますので、猫もやっとのことなのです。ゆくりと徐々に進行してきたことだからこそ、なんとか努力して呼吸しているのです。ちょっとのことで、その風船を膨らませることができなくなってしまいますし、体全体も低酸素状態が、ずっと継続していたということになりますので、ショックにも極めて弱いと言えます。
胸水が抜けたのであれば、少しは楽になることができたはずなのですが、もういっぱいいっぱいだったのでしょうね。飼い主さんだけでなく、獣医師にとっても残念な結果だったと思います。




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