避妊去勢等の手術費用については、もともと実施先の動物病院に尋ねるのでないと金額はわかりません。それが犬や猫の手術の通例です。
そして、今回の対象が鹿であるとなると、さて手術料の相場すら分かりかねます、というか、相場の料金というものが存在しないでしょう。

偶蹄目の反芻獣が対象となると、私達獣医師は、「全身麻酔は禁忌である」と教わってきています。それは全身麻酔によって鼓脹症が発生して、麻酔によって死に至らしめてしまうからです。
そのため、牛においても全身麻酔というのは避けられています。胃の切開を実施するような場合でも、枠場に固定して局所麻酔のみで対応します。なんだ局所麻酔でも可能なのかとは考えないで下さい。毎日乳を搾られている牛だから、可能なのです。鹿で同じ事ができるわけではありません。
交通事故等でやむえずに麻酔をかける事例もありますが、それは緊急であり、麻酔事故の心配よりも今ある状況の改善の方が生命に直結するからに他なりません。

今回の書き込みでは、雄雌、それぞれ数十頭を一度にと記載してありますが、このやり方では、なお一層条件が困難なものとなるでしょう。
手術する外科医以外に麻酔医も必要ですし、そのコンビが何組も必要ということになりますし、麻酔覚醒後の転倒事故防止やその後の収容施設の問題も生じてきます。手術代金以外にも多くの人件費や施設設備の費用も必要になってしまいます。それでは、現実的な方法とはいえないでしょう。
また、反芻獣の場合、術後に投与する抗生物質も選択を誤ると患者を殺してしまいかねません。
対象が鹿であれば、それに応じた知識や技量が必要です。獣医師であれば誰でもよいということではありません。

各県には、傷病鳥獣の収容施設が設置されているはずですが、そのような施設の能力に応じて計画的に実施していくべきでしょう。
街の動物病院にもちこめるような話でもないと思いますし、設備的にも鹿を受け入れてくれる先生は、そうそう簡単には見つからないのではないでしょうか。私は、容易な話ではないと思います。金銭的な話の以前に大きな問題があるのではないでしょうか。