獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200909-26

Re2:除草剤・殺鼠剤中毒
投稿日 2009年9月19日(土)12時04分 投稿者 プロキオン

街の臨床医というのであれば、原因物質○○による中毒という診断は、まずできないと思います。○○系の中毒が疑われるというところまででしょう。これは原因物質の特定が手に余るからからに他なりません。
だいたいは、発現している症状から、「こういうことを疑ってもよいのではないか」というレベルになります。

例をあげると和歌山の砒素カレー中毒事件がよい例だと思います。1人の人間が発症していただけでは、何がなんだか分からなかったのではないでしょうか。それが、同じ時間帯に実に大勢の人間が発症して病院へ搬送され、これは疾病というよりも中毒であろうという判断が下されます。
しかし、この時点では食中毒も疑われましたし、「砒素」ではなく別の物質の名称もあがっていて、かなり混乱がありました。これは、臨床医の立場としては無理からぬものがありますし、そもそもが原因物質の究明となると分野が別のものであって、専門の検査機関の仕事となります。

一般的な流れとしては、病性鑑定の仕事として、病理解剖や病理組織学的を施し各々の臓器や組織にどのような変化がおきているのかを確認しますが、これと同時に細菌やウイルスの分離を試みます。病原学的に陰性であって、疾病による病変とは異なる病変であるということになると、中毒的な事を疑っていく事となります。まあ、こちらの検査も同時進行で進められていることは言うまでもありません。

化学検査の流れというと、大きな事件ですと一番先に確認されなくてはならないことがありますが、それは「血液、尿、消化管内容」等からの水溶性抽出物やエーテル・アルコール等抽出物によるマウスへの投与です。どのような抽出物の中に生物を殺傷せしめる物質が存在しているか否かを確認する事ですね。もっとも、これは今では必ずしも実施されるわけではありません。化学的な検査の積み重ねは、動物実験の有無に関わらず、実施されなくてはなりませんので。
化学検査による物質の特定というのは、高校の化学の時間の実験の手順と原則的に同一となりますが、実際には多くの検査分析機器の手を借りることになります。(芳香族化合物の分離とか、金属イオンの沈殿反応等の実験を思い起こしてください。)これらの検査でどのようなものが怪しいというように範囲が搾られてくると、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等にかけて、標準物質と一致するかどうかで確認します。この場合は、似たようなものがありますので、何種類回の標準物質が必要となり、その各々と合致するものがでるまで何回でも繰り返して調べます。
普通は、この段階までで良いのですが、事件性があったり、揉め事が予想されるケースでは、さらに「質量分析器」のようなものにかけて、それぞれの構成元素の配合比やその質量を測定して、この物質に間違いないとします。
先の「砒素カレー」のような事件ですと、「粒子加速器」まで登場願って、このロットの薬品以外にありませんよというところまでつきつめるというのもありますね。まあ、これらは、よほどの場合なのでしょうが。

前置きとしては長くなりましたが、御質問にある除草剤や殺鼠剤による中毒であったか否かということであれば、当該猫の血液または血清、尿、消化管内容物等を検体として、使用した除草剤や殺鼠剤も同じようにガスクロや液クロにかけてみればよいように思います。分離・展開された物質が検体のものと、使用した薬剤と一致していれば、それが原因となりますし、一致しなければ、違う原因であったということになるのではないでしょうか。
疾病の方の検査としても、病理組織学的検査や細菌・ウイルス分離や抗体検査を実施すれば、かなりの事はわかるように思います。
どのような検査であれ、検査を実施するとなるとそれぞれ別に検査機関にお願いしないとなりませんし、専門家と検査機器をスタンバイさせているわけですから、それなりに費用はかかります。窓口となるのが臨床医であれば、やはりどこまで検査しますかという事はクライアントに確認しておくことは大切なことです。

中毒を疑っての救命処置であれば、注射8本というのは、決して多すぎるということはないように思います。血液検査のデーターはお金を払っているからには後からでも請求してよいと思います。
なお、対応された先生が血液検査における腎機能や肝機能の数値から「中毒」を疑っておられないということであれば、あまり中毒にこだわられなくてもよいのではないでしょうか?
中毒であれば、これらの数値は上昇していると考えるのが一般的だと思います。

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