獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-201306-62

Re:子牛を助けて下さい
投稿日 2013年4月3日(水)13時13分 投稿者 プロキオン

どなたからもレスがないと、ちょっと寂しいかなと思いましてレスします。
ただ、投稿者さんにとっては、不快に感じられるレスかもしれませんので、この時点で読まないということであってもよろしいかと存じます。


添付のURLの方も少しばかり拝見させていただきましたが、まず、最初に浮かんだのが何故か?と言う点です。

>正常な方の3本の足を1ヶ月程動かさなかった為、動かすことができなくなりました。

1ヶ月も足を動かさないということが、どのような結果を招くかはあらかじめ予想できたことのように思われます。
悪いところは切ってしまえば、それで終わりということではなく、切った後の再建を考えて行うのが外科手術なのです。とくに牛や馬のような大家畜であれば、断脚という処置がどのような結果をもたらすのかは、大家畜を診療しているものなら誰しもが予測しうることと言えるのではないでしょうか。
何億円と賞金を稼いでくれた馬であっても、想定される結果から、安楽殺が選択されるのは慈悲からでもあります。
某コミックの中でも足を骨折した競走馬を生かそうとする依頼者に対して、「1頭の馬を完治させには、何十人の獣医師団による億の仕事だ」という台詞が出てきます。また、鎮痛剤を投薬できない理由とか褥創による痛みに対しても、「骨がつくまでの地獄の2ヶ月をお前が選ばせたんだ」という依頼者に対する容赦のない言葉が浴びせられます。
野ウサギでもキツネでも、罠にかかった野生動物が、そこから逃げたい一心で自ら足を食いちぎってしまう事も有ります。そのコミックの中でも身動きができないことに対する不安こそが治療上の大きなポイントとして描かれていました。
別のコミックでは、大した成績を残す事もできなかった馬でも、飼い主さんがお坊さんを呼んで読経をあげてもらう場面もあったり、農家によって搾乳牛の更新の差異が描かれていたりして、経済動物である大家畜といえども、飼い主によって境遇に違いがあることも描かれていました。
この場面で何が言いたいのかと言うと、断脚しても大家畜を生かす道を選択したのであれば、その結果に対しては、他者の助けをあてにするのではなく、選んだものが全責任を負わなくてはならないといことです。そこに妙な同情心はあってはなりません。

代診時代に前十字靭帯断裂の犬の術後リハビリにつきあわされたことがありまして、そのリハビリが、私にはとても嫌な作業でした。患者にしてみれば、他の3本の足で歩く事ができるので患肢を使おうとしないのです。患肢の神経や筋肉が衰えてしまわないように、マッサージしたり、屈伸したりするのですが、その際に病院中に響き渡る悲鳴をあげるのです。同僚の先生が、「〇〇先生と△△先生で、また犬を虐めに行くのですね」と入院室に向かう2人に声をかけるので、一層堪えました。
そのことを〇〇先生に言うと、「お金貰っちゃってるんですから、退院の日までに歩いてくれない方が問題ですよ」とあっさりと答えられてしまいました。
患者にどんなに嫌われたとしても、やらなくてはならないことは、やらなくてはならないでしょうね。と、同時にそういう場面が少しでも避けることができるように事前の治療計画と見通しが充分に練られていなくてはなりません。
リンク先での記述を拝見すると、失礼ながらその点がどうであったのだろうかという感じを受けました。

北海道の道東ではよくあることのようなのですが、私の住む県でも交通事故で担ぎこまれた鹿の断脚ということはあります。
某知り合いの獣医師の先生は、そんな鹿を受け入れて手術したりしているのですが、あの細い足で3本しかなくて大丈夫なのかと私なんかは心配するのですが、その心配よりも野生動物なので、病院から人間から逃げたくて逃げたくて、むちゃくちゃな暴れ方をするので、そちらの方で死ぬのではないかと危惧してしまうのだそうです。
半年後・1年後に自然の中で生きているかどうかは、分からないけども、とにかく野性の中に帰してあげるまでが請け負った仕事ということなのだそうです。
断脚の部位の決断、切皮ライン・縫合ラインの判断とその後の関わり方で経験値の差が出てくるのではないかと考えています。
私自身も虎バサミにかかって右前足を断脚された犬の事後処理にあたったことがあり、本来犬くらいの体重であれば、蹄葉炎や褥創とは無縁のはずなのですが、その患者は、傷口を気にして舐めてしまって、8ヶ月経過しても傷口が治癒しないどころか糜爛状態でした。エリザベスカラーを使っても効果がないということで相談を受けました。
まあ、診察してみれば、いかにも傷口を舐めずにはいられないという状態でしたし、カラーを装着してもカラーで傷口を擦ってしまうだろうから、多少舐められるのは仕方のないこととして舐めなくてもすむ状態に改善していって、肉芽組織を形成させて皮膚の誘導を図ろうという話しをしました。結論から言えば、特別な事をしたわけではなく潰瘍や褥創の治療薬をそれこそ頻繁につけてねというだけのものです。それだけで、その犬の断脚された部位には皮膚が生じて治癒したのです。
犬が患部を舐めるから糜爛となって皮膚が無くなってしまう。犬には舐めるだけの理由がある。それなら、舐めなくてもすむ方向にもっていこうというだけの理由を納得が行くように説明しただけのことです。もし、処方した薬で改善されないようであれば、再手術も考えなくてはならないところでしたが、私が見る限り傷口は治りたがっていました。肉芽は形成されるのですが、舐め壊されているから治癒が進まなかったという状態でしたので、これはメスの出番はなかろうと判断していました。

鹿の断脚や犬断脚部が治らないという話は、何故持ち出したかと言うのは、リンク先に記載されている治療方針とは異なるがゆえにあげています。
見たことも触れた事もない患者に対して、ああしろこうしろというつもりは毛頭ありませんが、はかばかしくないのであれば、異なった治療方針を検討されることがあってもよいかと考えます。





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