獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-201501-265

Re:動物病院様への要望。
投稿日 2015年12月27日(日)12時57分 投稿者 プロキオン

>とんぼ8さん

まだお若いのでしょうね。獣医師の仕事や職場と言うものを御理解されていないようです。獣医師という職業は畜産(食糧生産)や公衆衛生の分野や製薬会社等々を始めとして社会の円滑な運営に関わっていることがその多くであり、必要欠くべからざるものです。そして、その現場では命の終焉に立ち会うこと必然的に多くなりがちと言えます。
人としてなら、誰しもそのような場面は避けたいものですが、それでも誰かがそれを担わなくてはなりません。みながみな横を向いて澄ましているわけにはいかないのです。
そんな獣医師の職場において、小動物臨床医というのは、正面から動物を助ける仕事として看板を掲げることができる職場です。

あなたが非難なさっている去勢や声帯除去手術というものは、獣医師が各家庭を一軒一軒巡回して実施されているのでしょうか?
そのように巡回してまで実施できるのであれば、どれほど動物病院経営は楽になるのかと想像してしまいます。犬も猫もその他の動物もすべて飼育者が存在して、その飼育者の所有物であり財産です。これを動物病院がかってにその体にメスを入れることは許されません。それは犯罪となってしまいます。
あなたが非難されている手術は飼育者の依頼があってこそ実施可能なことなのです。

また、それだけでなく、骨折だろうが、子宮蓄膿症であろうが、膀胱結石であろうが、ありとあらゆる手術も飼い主である飼育者の許諾がないかぎり実施できません。動物の命を救う行為さえも飼い主の許可が必要なのですよ。
実際に動物病院にいれば、救命手段はあるのに同意が得られなかったというケースは普通に遭遇することができます。

牛や豚の去勢は、肉の増体をよくし肉を軟らかくし、さらに雄の臭いを消してくれます。そういう肉を消費者が求めているからであり、去勢も獣医師ではなく飼育者によって実施されます。
犬や猫の避妊手術については、実施しなければどうなるのかを充分に承知されていて非難されているのでしょうか?
私はかつて、2LDKのアパートで30頭の猫を飼育されている方に出会ったことがあります。たまたま拾った猫が雌猫でしかも妊娠していたというのが、始まりであって、その後は親子交配によって、そこまで増えてしまったわけです。当然、他頭飼育によるストレスによって病気や怪我が蔓延していました。
1頭1頭を治療したところで終わりがあるわけもなく、根本的なところで、まず、これ以上猫を増やさないということが必要でしたが、その方はその選択をされませんでした。そうなれば、崩壊を待つのかあるいは、口にしない方がよい方法がとられるかしかありません。
その方の場合、金銭面よりも避妊去勢手術が嫌だったのだと思います。お勤め先も「自然」が売りの店舗でしたので。
人間が去勢されるのが嫌のように動物だって嫌なんだと仰られていますが、動物においてはそんなことは思いません。彼ら彼女らにおいては、手術という概念を有しておりませんし、術後においても飼い主にも施術者にも慣れ親しんでくれています。手術されたからと言って、飼い主や獣医医師を怨んだり憎んだりしている子はいませんね。

声帯除去手術については、この獣医師広報板ができた頃、この掲示板に猫の声帯除去手術はどのような行われるのかと値段を知りたいという質問が投稿されたことがあります。
私は、声帯除去手術が好きではないので、「鳴き声も含めて猫だと思っていただけませんか?」とレスをしました。
ところが、質問者からの返答は「好きで飼っているわけではない。故人が残した猫だから仕方なく飼っているんだ。世間知らずの獣医師に言われる事ではない。社宅を追い出されたらどうしてくれる。」というものでした。さすがに、このときは当時の獣医師広報板のスタッフさんが意見してくださいましたが。
ですが、この事例とて、会社勤めの御主人が亡くなられて、会社としては社宅を引き払って欲しいので、猫を理由に退去を求めた。残された奥さんは、二つ返事でハイと言うわけには行かないから、猫の声帯を取ろうと考えたということになるのでしょうね。

かように1つの手術を巡っても事情があるわけでして、動物病院や獣医師にとって、自らがかってに動物の体にメスを入れるということはありません。それは必ず飼い主の要望によるものなのです。
不特定の飼い主の存在というのが漠然としていすぎて把握しきれずに、獣医師にむかっての発言となったのだと思いますが、言われた方は、見当違いの方向から弾が飛んできたなという感じしかしません。

>本当に動物が好きなら動物の嫌がる事をしないと思います。それならば、最初から動物を飼育したり、変に関わらないで欲しい

獣医師はみな動物が好きという気持ちから志望されます。そして、獣医師への道のりの途中で社会が獣医師に求めるものを知り、悩んだりします。
それゆえにこそ、半端な気持ちで動物を飼育したり、妙な関わり方をしないで欲しいというのは、一般の方の考えている以上にそのように思っています。
獣医師として、動物と関わるようになればなるほど、その気持ちが強くなりますね。そのくらい変な話しは多いですから…。

蛇足ながら、添付した画像は柴犬の鼠径ヘルニアの症例です。この症例で問題なのは、ヘルニアの中身でした。この犬は避妊手術されているのにも関わらず子宮蓄膿症を呈しており、ヘルニアの中身は膿を溜めた子宮でした。
どうも卵巣切除のみの手術だったようで、それもきちんと卵巣が除去されていなかったのが原因のようです。お腹に手術の痕跡が残されていたので、かなり診断に迷いました。友人の先生にも診てもらって、手術すべしとなりましたが、けっこう面倒な手術が予想されました。
ここで私が言いたいのは、獣医師たるものキチンとした仕事をするべきではないかということです。愛護団体からの譲渡犬なので、最初の手術をどこの誰が実施したのはわかりませんが、避妊手術をされているのにも関わらず、この犬は子宮蓄膿症に罹患してしまい余計な侵襲を受けることとなってしまいました。
とんぼ8さんが、動物病院における手術そのものを否定されてしまうのであれば、この犬は死んでいたことになってしまいます。また、最初の方で私があげたような手術もできなくなりますから、多くの命が失われる事になります。
患者で練習するとか、実験台にするというのは、考え物と言えますが、それでも症例を重ねないとメスは稚拙なままです。
動物に嫌われる嫌われないという次元の話ではなく、患者のために必要ならメスを執るということは獣医師に求められる行為といえます。
その手術が必要であるか否かは、第三者にはなく主治医の獣医師の判断になりますが、決定権を有しているのは飼い主です。

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