獣医師広報板ニュース

イヌ掲示板過去発言No.1100-199806-45

森田様
投稿日 1998年6月27日(土)15時44分 寝子

書き込もうかどうしようか随分迷いました。

何回かここでは書きましたが、我が家では昨年3月、13歳まで生きたピレを亡くしました。
最期の1ヶ月半、彼女は全く食べ物を口にせず、水だけを飲んで過ごしました。
食欲が徐々に落ち始めてから、ありとあらゆる彼女の気に入りそうなものを並べたり、口に押し込んだり、なだめたりすかしたり…でも全く興味を示めさず、そのうち私は彼女が「決めた」事に気づいたのです。
今まで様々な犬と生活を共にしてきましたが、こんなに頑固で、利口で、そして誇り高い犬は初めてでした。
よく犬はリーダーを決めて群で行動する動物だ、といいますが、私のピレに関してはそれが当てはまらなかったようです。彼女(花子といいます)は、誰にも支配されず、誰を主人とも決めず、常に私たち家族と対等の関係を保っていました。
今我が家にはラブがいますが、本当に対照的な犬種だと思います。
その花子が自分の運命を決めたのです。
こうなれば誰も・何も花子に強制することは出来ないのでは?
仮に力尽くで(点滴とかを行い)治療をすることは彼女の意志に反することではないか?
随分犬を擬人化した都合の良い話に聞こえるかも知れませんが、食べることに興味を持たせようと続けた努力を、2週間目でやめることにしました。

表面的には穏やかな日が続きました。
毎朝、夕の散歩は行きたがるのでいつもと同じコースを歩きました。1ヶ月が過ぎた頃から、足取りに変化が現れ始めテクテク歩いていたのが、ボツボツという歩調に変わり、それなのに散歩のコースを変えたり、距離を短くしようとすると道の真ん中で仁王立ちになり、動かなくなって抵抗しました。歩くのも辛そうな状態なのに、日課を果たすのがノルマと決めているようでした。
ボツボツと歩く花子と私は歩調を合わせ、1本のたるんだリードを通じ、私たちは随分会話を楽しんだ気がします。
でもやがて、その日課の散歩のコースの途中で足がもつれるようになり、だんだん距離が短くなっていきました。
主治医の先生とは常時連絡を取り合って、「立てなくなったときには」どうするかを話し合いました。
大型犬が立てなくなるとあっと今に床ずれが出来、それは非常に痛いとのこと。
私は花子が出来るだけ苦しまず、安らかに眠れることを望みました。

1ヶ月半後の3月30日朝、いつものように散歩に誘いましたが、かすかにしっぽを揺らすだけで横たわったまま起きあがろうとしませんでした。
何度か身体を動かし、床には宇柔らかい毛布を敷いてやりました。
40s以上あった体重は多分20数sにまで落ちていて、身体を持ち上げることはそれほど苦にはなりませんでしたが、体を動かす度に、1ヶ月半何も食べていないのに真っ黒なコールタールのようなウンチが流れ出てきました。
このウンチが出たらもう時間の問題だよ、とも先生に聞かされていたので、いよいよ覚悟を決めなければいけない時間が迫ったことに気づきました。

午後、先生に電話をし、来ていただき、花子は一呼吸だけで安らかな顔で眠りにつきました。

私が決めたことが良かったのか、もう少し手を尽くしてやることができなかったのか、この結論は多分一生でないと思います。いつか私が花子のいる国に行ったとき、彼女から聞かされることになるでしょう。本当に彼女がそれを望んでいたのかどうかは…

森田さんのピレ君も、自分で決めたのかも知れません。最後までの時間をどうしてやるか、それにはなんのアドバイスもできませんが、日本での平均寿命が7−8歳といわれるピレニアンが11歳まで丈夫に生きたことを感謝しようではないですか。
私は13年間、花子からたくさん教えられ、楽しい優しい時間を分けてもらうことが出来ました。
息子が保育園に通っていた頃、まだ若かった花子は息子の通園バッグを口にくわえ保育園のお見送りに毎朝付き添ってくれました。朝夕決まった時間に散歩に出かける私たちを、時計代わりにしていたご近所さんもいらっしゃいました。
身近な大切な家族に最期の時が迫ってきたとき、辛いし、何か出来ないかと思う気持ちは良くわかりますが、いつもと同じような安らかな時間を過ごしてやることも大切ではないでしょうか。

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