獣医師広報板ニュース

イヌ掲示板過去発言No.1100-200410-39

REりんママさん、アンプさんへ
投稿日 2004年10月9日(土)12時49分 投稿者 だんちひ

獣医師のだんちひと申します。
他の方に情報、特に専門的なものを提供する場合、私は必ず現段階では確実かつ情報源がしっかりしているものを使います。
ですから、こちらに獣医師として獣医学の事で書き込む場合も、極力その方法を用います。
今回もその方法を用いますので、専門的になりすぎるきらいがあるかもしれません。
その点はご容赦ください。
成長期の食事と関節障害(特にHD:股異形成あるいは股関節形成不全)の発生率については、相当の研究がなされています。
私のような未熟者が言っても信じて頂けないとは思いますが、手元にあるどの資料を見てもほぼ同じ結論になっています。それは次のようなものです。
高カロリー食の食事は、犬の成長速度を早めるために、HDの発生頻度が有意に高くなる。
従って食事量が多くなる自由採食方法では摂取するカロリー数も多くなる為、食事量を制限する制限給餌方法よりもHDの発生頻度は有意に高い。
栄養素でいうと、犬では高タンパク質が骨の代謝へ与えるマイナス効果は証明されていない。
骨格の発達にマイナスの影響を与えるのは、カルシウムとリンのバランスよりもむしろカルシウムの絶対量。
ビタミンCとの関連は過去に相当研究されたが、HDとの関連は証明されていない。
特に骨の長さが最も急速に成長するのは生後6ヶ月までである。(それ以降は緩やかになってくる)現在は、この時点まで犬の体格が股関節を支える筋肉や靭帯よりも早く成長することが、股関節の緩みの原因の一つと考えられている。
さらに犬の骨格・関節が完全でない生後1才頃までは強い衝撃を骨格系に与える運動は禁忌。
そして、問題なのは「産まれた時からHDの犬はいない」「正常な股関節を持つと証明された両親から産まれた子犬が100%正常というわけにはいかない」ということです。
産まれた時はどんな検査でも股関節は正常です。(この点から「正確にはHDは先天性疾患とは言えない」という説もあります)
HDの正確な検査ができるのは生後4ヶ月になってからです。ですから生後45日ではHDかどうかの診断はできません。
そしてHDはまず遺伝だと言う発言がありましたが、少々正確ではありません。
「HDの発生原因となる因子は遺伝が7割、出生後の環境因子(栄養や運動など)が3割」と言うのが現在の知見です。
確かに、その発生には何らかの遺伝子が介在する(HDを持つ両親から産まれた子犬のうち正常な股関節を持つものはわずか7〜8%です)ことは確かです。
しかし、いまだどのような遺伝子が関与しているか不明です(単一ではなく複合だろうとは言われています)し、メンデルの法則にもあてはまらない。
ただ、HDを高頻度で発現する犬の体格には特徴があることがわかってきています。
(頻度が低い犬とは素人目にもわかるくらい相当外見が異なっています。)
これは最近日本でも、調査・研究されその一部が発表されました。
私は特に整形外科が得意と言うわけでもありません。認定医の資格があるわけでもない。
しかし、自分が飼育している犬種がHDの発生が高いことで有名です。それは飼育前から知っていたので、その研究で有名な大先輩のセミナー参加はもちろんのこと、かなりの資料を集めました。
実際に、その研究をされている大先輩(大型犬の飼育・繁殖でも有名な獣医師)から子犬の訓育に関して意見を伺った事もあります。
大先輩の意見はほぼ上記の通りでした。
そして「HDの問題が無い両親から産まれた子犬でも、安心しないように。100%の保証は無いのだから。その後の飼育に問題があって発生する場合も多い。成長期の急激な体重増加には充分注意。無理な運動や肥満は禁物だ。」と指導されました。
以後、その言葉を胸に刻み犬を訓育しました。そして現在に至るも問題は発生していません。
また、最近にお話を伺った整形外科認定獣医師も同様の意見でした。
私が知る限り「子犬には食いたいだけ食わせろ。問題は無い。」と言った獣医師は、少なくともHDに詳しい方では一人もおりません。
これは余談になりますが、その方の最近の知見では「HDを含む関節障害をおこした犬種で最近増えて来たのがボーダーコリー」だそうです。
なぜか?「まだ体が出来上がっていない若いうちから、フリスビーやアジリィの練習をガンガン開始する為」ということでした。(この方は認定医の資格をお持ちなので、かなり遠方からも紹介の患者が来ます。)
私の経験でも、同様の経過を辿ってHDを発生した犬をみています。
なお、生後6ヶ月までの成長期に制限食(栄養失調にしろということではないのでご注意!)を実行すると体が小さくならないか?という疑問もあるかもしれませんが、成犬時には変わりがありません。
自分の犬もオーバーサイズギリギリまで大きく育ってしまいました。

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