獣医師広報板ニュース

イヌ掲示板過去発言No.1100-200705-11

Re:耳をとても痒がります
投稿日 2007年4月10日(火)16時11分 投稿者 パールちゃん

以下は私が自分の飼育経験から得た考えです。獣医学的な根拠に欠ける部分があるかもしれませんが読んでください。

体質で耳の中が赤くなったりかゆくなったりするのはよくあることです。アレルギー症状のひとつといえるでしょう。かゆみを伴うアレルギー体質の子は、まず耳からかゆくなり、いつまでも耳だけはかゆみが続くと言い換えてもいいほど、耳は顕著に症状が表れる部位です。
で、じゃどうしたらいいかですが、結論から言うと「この子はこういう体質なんだ」とまずは飼い主が現実を受け入れることです。もちろん、そこに至るまでには獣医さんとよく相談をしてできる検査などをしたうえでほかの病気の可能性を否定して、かゆみの原因となるようなあきらかな病気は見つからない、となるとアレルギーとしか言いようがない、という道筋を経てですが。そして、「この子はこういう体質なんだ。じゃ、どうしたらいいか」に行き着けるのだと思います。

前にも書きましたがアレルギーはアレルゲンを排除すればいいというものではなく、住環境や暮らし方やその子の体力・性格や飼い主の接し方やその他いろいろ、その子を取り巻くすべてのものの影響を受けてアレルギー症状が表に出てきます。私はよく思います。アレルギーをもった犬の飼い主は真っ暗な部屋のなかでジグソーパズルをしているようなものだなあと。手探りで「これはどうかな?」「こっちはどうだ?」とパズルのピースを当てはめてはまた崩していく繰り返しです。アレルギーを良くしてあげよう治してあげたいと思うのは飼い主として当然の気持ちで試行錯誤を繰り返すわけです。私もそうでした。
が、その間も犬のかゆみは続いています。完治はしません。私の試行錯誤の影響を受けてかゆみが減ることもありましたし、さらにひどくなることもありました。かゆみが減ってもそのまま持続せずまたひどいかゆみに戻ることも多々ありました。

そんな年月ののち私が思ったのは、これはある意味、自分の犬を実験台にしてアレルギーと対決しようとしているだけだなということです。かゆがっている子をどうにかしてあげたいという思いからのことですが、いつのまにか主役が犬から飼い主へ変化してしまっていました。「かゆがっている子をどうにかしてあげたい」から「かゆがっている子を見ているのはつらいからどうにかしたい」になってしまっていました。いろいろやってくれるのはありがたいけどとにかくこのかゆさをなんとかしてよ、犬としてはそう言いたかったことでしょう。
私の試行錯誤によって犬をかゆみで苦しめた年月ののち、治そうとするよりも日々のかゆみをどう抑えるかに力を注ぐほうが犬自身のためになるんだと私はやっとわかりました。
それによって導き出されたのは、ステロイドをどのくらいどう使うかです。

ステロイドは副作用の怖さが強調されていますから慎重になる獣医さんや飼い主さんが多いのは事実だと思いますが、かゆみを減らして犬を楽にしてあげられる点ではけしておろそかにしてはいけない薬だと思います。
ただ、ステロイドは使い方に配慮が必要です。ここがむずかしいところです。体重○キロだから、はいこれだけ飲ませて、という単純な使い方では済まない薬です。用法用量は、獣医さんの指示を基本にしつつ、犬の様子をよく見た飼い主さんが獣医さんにきちんと観察結果を報告して相談して、投薬量を減らそうか増やそうか、1日2回だったのを1日1回にしようか、休薬期間を作ろうか継続しようか等々を慎重に探っていく必要があります。
体重○キロだから1日○回○ミリグラム投与それを○日間継続して、もし休薬するなら○日かけて○ミリグラムずつ減らしていって・・・というふうに、「○」に当たる部分は1匹1匹で違います。飼い主と獣医さんは二人三脚でその犬にとっての最善を探っていくことですね。最善にどう近づいていくかです。それがステロイドを使ってアレルギーの犬の日常を楽にしてあげることです。

タップさんのかかりつけ先生が「ずっと続ける訳にもいかないので」とおっしゃるのはそれだけステロイドに慎重さを期してくれているからだと思います。が、ときにはずっと続けたほうが犬のためになる場合があることも事実です。
ステロイドの副作用によってさまざまなことが犬の体に起こりますが、たとえそうでも日々のこのかゆみをどうにかしてあげることを優先するなら副作用を承知で飼い主は犬にステロイドを飲ませる覚悟もときには必要です。犬の年齢や飼育状況にもよりますけれど。
我が家の場合、用法用量をいろいろ変え、休薬もしてみて、3年くらいかけてその子にとって最善のステロイドの使い方を探りました。結果、少ない量をずっと続けるという使い方に落ち着きました。少ない量をずっと続けるというのはステロイドの使い方としていちばんよくない使い方です。その子の副腎はもうポロポロになっているでしょう。11歳という歳のせいもありますが片目は白内障で視力がなくなりました。でも、かゆみに苦しむことはなくなりました。かゆみはゼロではありませんがかゆいところを数回かけば満足してやめる程度です。その子も耳のかゆみはひどい子でしたが、今では赤みがかっていますがかきむしることはありません。なによりもぐっすり眠れます。よく寝て、よく食べて、よく遊んでの毎日はステロイドの副作用と引き換えにしても大切なことだと私は思っています。

長くなってすみません。あとふたつ、かゆみに関連して。

アレルギーによるかゆみは3段階に分けられると思います。1・アレルギー反応によって引き起こされる元々のかゆみ、2・かゆくてかいてしまった刺激によってさらに引き起こされるかゆみ、3・かきすぎて傷になってしまった炎症によるかゆみ。「1」でかゆみを抑え込むことが肝心で、それはやはりステロイドの使い方次第だと思います。

かゆみが季節によって変化する場合は紫外線の影響があります。紫外線量が増える春先から秋口にかけてかゆみが増す子はアレルゲン物質だけでなく色素遺伝子も関与していると思います。白毛遺伝子をもつ洋犬の血が入っている犬は紫外線アレルギーも考慮すべきかと思います。白毛ではないけれど鼻が真っ黒ではないという犬も。

かゆいというのはつらいですよね。タップさん、かかりつけの先生とよく相談なさってくださいね。

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