ネコ掲示板過去発言No.1200-200410-126
避妊手術について、 |
投稿日 2004年10月22日(金)16時43分 投稿者 プロキオン
このことについては、誤解が生じないように獣医師から答えた方がよさそ うですので、横レスになりますが登場しました。 まず、発情期間中の手術の是非についてですが、技術的には発情の如何は 問題にならないと考えられます。 発情中は、卵胞ホルモンの分泌が盛んになっており、そのモルモンの作用 で出血が止まりにくくなることが現象として見られます。この出血を気に するかしないかだけのことです。 初心者でもなければ、うろたえる程出血量が増えるということでもないの で、発情しているから事故につながるという可能性は低いと考えられます。 が、しかし、出血量の増加が予想される時期に敢て手術を実施しなくては ならない理由もなく、その時期を避けてあげる方が猫にとっては親切とい うものでしょう。 避妊手術というものは、その子の生長にあわせて実施されるべきものです から、どのくらいの月齢で実施しようと最初から考えてあれば、発情が始 まったので慌てて手術して下さいと駆け込む必要はありません。 獣医師の技術的な問題というよりは、飼い主さんの心掛けの問題というべ きでしょう。 手術方法については、「卵巣のみ摘出」「子宮のみ摘出」「卵巣子宮全摘 出」と3通りがありますが、卵巣と子宮の両者を摘出するべきと考えます。 卵巣のみを摘出する方にも、手術侵襲が少なくてすみ日帰りできるという 言い分がありますが、卵巣組織の取り残しが細胞レベルでもあると、やが て発情の回帰と妊娠あるいは子宮蓄膿症の可能性を残すこととなります。 麻酔をかけてメスを入れるからには、事後に問題を残さない方がよいと私 は思います。 子宮のみの摘出というのは、逆に何故、卵巣を残すのかの理由が見つかり ません。子宮の切断面というのも骨盤腔の奥の方まではメスが届きません ので、卵巣が残されていれば、「断端子宮蓄膿症」がいつ発症しても不思 議ではありません。 私が研修を受けていた病院の近隣に低料金を売り物にした病院があって、 そこでは「卵巣のみ摘出」で実施していました。 その病院で手術を受けた猫が来院しまして、担当した先生の診断が子宮 蓄膿症らしいということになりましたが、飼い主さんは避妊手術してあ りますの1点ばりで、診断を受け入れていただけませんでした。当方の 病院で診察を担当した獣医師にしても、「避妊済みの個体」に子宮蓄膿 症と診断している以上は、根拠なくしてということではなかったのです が、それでも信じては貰えなかったようです。 この時の事例を目の当たりにしていますので、私は「卵巣子宮全摘出」を 実施しています。 発情しているか、否かの状態によって、手術方法の選択が影響を受けると いうことはないはずです。 また、使用される縫合糸については、同じ質問がウサギBBSでもありま して、詳細はそちらの過去ログを検索してみて下さい。 結論から言えば、「吸収糸(溶ける糸)」は、その開発の経緯と特性から いって皮膚の縫合には使用しないのが原則と言えます。 しかし、野良猫等で抜糸のための最捕獲が著しく困難という場合に選択す る先生はいると思います。 また、同じ野良猫で、避妊手術済みの個体と未実施の個体を見分けるため に、いつまでも縫合糸が残っているように ワイヤーの縫合糸を選ぶ場合 もあります。こちらでしたら、相当の期間、そのまま残っているはずです から、同じ個体を手術してしまうということは防ぐ事が可能です。 # ワイヤーといっても金属製であるというだけで、糸の細さは他の製品 と同じですし、柔らかさもあります。 ワイヤー糸を例に出すと、アメリカの先生などでは、手術方法の実演等を してくれるようなベテランの先生でも腹腔内の結紮でもワイヤー糸をため らうことなく使用したりして、びっくりすることがあります。 相手が犬や猫だから、気にする程のことではないということなのでしょう が、日本人の感覚からはいささか驚かされます。かなり割り切った感覚の ようで、なんでもアメリカが進んでいるという考えの方は、こういう点を どう考えるのか興味あるところです。 細やかな気配りというのは、日本人の得意とするところのように思えます ので。 閑話休題。 手術の時期、手術法、使用される縫合糸、多くの獣医師が選ぶ相場ともい えるものはありますが、常にそれが絶対的なものではありません。 情況や個体事情に応じて、選択する余地があるからこそ、様々なものが存 在してきたと御理解下さい。 ついでに、獣医師の免許についてですが、「野生動物獣医師」という免許 はありません。 獣医師免許は1本であって、診療動物別の免許はありません。専門科目の 標榜も、個人の自由裁量です。対象動物については、牛、馬、豚、鶏 等の「産業動物獣医師」と、犬、猫、法に指定されている小鳥を対象とす る「小動物獣医師」と、それ以外の動物を対象とする「それ以外」の3者 があります。 よく「小動物専門」と看板にあったのにウサギの取扱いもろくにできなか ったとか、フェレットの診療を断られたとかのクレームがありますが、こ れらの動物は、「エキゾチックペット」と呼称される動物であって、「小 動物」には該当しません。法律にもとづいての表記であれば、「それ以外 の動物診療病院」ということになります。 これらの診療対象動物の届け出というのは、免許証についてではなく、獣 医師法における主たる業務の届け出によって本人申告によってなされてい ます。本人次第で変更が可能です。 繰り返しになりますが、「産業動物」と「小動物」以外の動物は、「それ 以外の動物」という分類になります。 まあ、それ以外の動物診療獣医師ですとは名乗りたくないと思いますが。 一応、根拠のある分類ではということです。 |
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