獣医師広報板ニュース

ネコ掲示板過去発言No.1200-200608-13

下半身麻痺の猫
投稿日 2006年8月2日(水)12時17分 投稿者 プロキオン

手塚治虫の「ブラックジャック」の中に二度死んだ少年という逸話があります。
犯罪を犯して警官に追い詰められた少年が飛び降り自殺を謀って、警察からの依頼でブ
ラックジャックが一命を救うのですが、結局裁判で死刑を宣告され、ブラックジャック
が法廷で、「彼は一度死んだんだ、なぜ、そのまま死なせてやらなかったんだ」と抗議
する話です。

下半身麻痺の猫を最初に捨てた者は、とにかく見捨てたんです。助ける気がないのであ
れば、やはり、そこで手を出すべきではなかったと思います。
私は二度も見捨ててはいけないと思うんです。その猫との生活をまだ始めてもいないの
に100%無理だと言い切られては、他の方の意見を求めているとは到底考えられませ
ん。同意して欲しいという意図しか感じることはできません。
やってもみていないうちから、二度目の見捨てるという行為に賛同を求めるということ
に対して、私は不快感を覚えているわけです。

下半身麻痺の猫は、猫の雑誌でもよく取り上げられていますし、我が家の猫のほかにも
2頭程身近で知っています。
とくだん、珍しい話とも思いませんし、近々であれば、ウサギBBSの方でも毎日膀胱
を搾っている飼い主さんもいました。この猫BBSにだって、そういう話は過去にあっ
たはずです。
下半身麻痺は、たしかに障害ですし、飼育していく上では手はかかります。しかし、決
して安楽死の対象となる障害ではありません。障害を負っていても生きていくことも生
活していくことも充分に可能なのです。

リンクしてあるURLは、私のところの猫なのですが、画像を見ていただければすぐに
わかるとおり異常な姿勢です。
ですが、下の方の椅子に乗っている画像もあるでしょう。あれは、私が乗せたわけでは
ありません。自分で前足を椅子にかけて、体をもちあげているのです。動かない後足を
左右に振って反動をつけて椅子の上まで体をひきあげているのです。
下半身麻痺であっても、平面だけが彼の生活空間ではありません、彼には立体空間の世
界もちゃんとあるのです。
いっしょに暮らしてみないと分からないことだって、いっぱいあるんです。
助けたくても助けられない命もあります、いくら手をつくしても死線を越えることがで
きないこともあります。
ですが、下半身麻痺はそういうこととは無縁です。膀胱麻痺についても、最低1名の手
をさしのべてくれる人間がいれば、生きていくことができるのです。決して、死ななく
てはならない障害ではありません。

決して外泊をしない、外泊の必要があれば、猫も連れて行く。外出する時間が長引く可
能性があるのであれば、4回でも5回でも、こまめに尿を搾って、膀胱を空っぽにする
時間を長めにとるようにするというだけのことなのです。
外泊だって、どうしてもということであれば、病院を頼ることだってできるのですよ。
障害を負っている動物達と暮らしている方達というのは、確かに何かしらの事を犠牲に
しています。
でも、その犠牲と今生きている動物の命が失われてしまうということを比較して、自ら
の犠牲の方を選んだということなのです。今、生きているということが、どれだけ大き
なことなのか…、それが理解していただけますでしょうか。

我が家の猫のために手製の車椅子を作成してみたことがありますが、その車椅子がない
方が彼は速く移動できるのです。キャスターと椅子にあたる部分の重みがない方が、か
えって都合よいみたいでした。
人間が良かれと思って作ってはみても、かえって邪魔にしかならなかったということで
す。私が考えていた以上に彼はりっぱに生きていますし、これからも生きていくはずで
す。今までに6年、そしてさらに6年は未来があるはずです。
「かわいそう」とか「生きていても仕方ない」とかいう理由では、処分は考えられませ
んでしたし、「自分にできることをする」という選択の結果の証人として、彼は現存し
つづけています。
私も、しばしば、誤った選択をしてしまうことがあって、落ち込むことがあります。そ
んな時、彼の存在は、「あやまちばかりの人間ではないよ」となぐさめてくれます。

http://www.hpmix.com/home/miyayuka/A4_3.htm#7

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