獣医師広報板ニュース

鳥類掲示板過去発言No.1700-200509-117

鳥の横隔膜、補足
投稿日 2005年9月22日(木)12時28分 投稿者 プロキオン

ちょっと、落ちがありましたので。

>・鳥(できればウズラ)の体腔内のどのへんを見ますと痕跡的な横隔膜
 がありますでしょうか?

ウズラは、ひじょうに鶏に近い鳥なので、鶏の説明で良いかと思います
が、解体する際の手順が重要かと思います。

すなわち、肩甲骨の下に刀を入れて、肩関節の方からお腹側(尾側方面
)に向かって、胸骨を剥がすということが必要です。
逆方向のお腹側から胸骨や肋骨を肩関節に向かって剥がすと、斜隔膜は
一瞬にして見る事ができなくなってしまいます。

胸腔と腹腔を隔てるものが、本来の横隔膜ですが、鳥においては、この
胸腔が存在しないため(肺と心臓で全てスペースが占められているので
)、横隔膜として存在する場所がありません。
では、現実的などのようになっているかというと、肺を包んでいる包膜
と胸壁の内ばりである胸膜が、癒合しているわずかな線維性の被膜が、
斜隔膜なのです。
したがって、お腹側から胸腔を開いてしまうと、この斜隔膜も引きちぎ
られてしまって確認ができなくなってしまいます。

私が解剖した鶏においても、本来の病理学的な前方から後方へという開
き方ではなく、後方から前方へが多かったです。
これは、病性鑑定が主たる目的であったため、細菌やウイルス検査材料
を採取するために胸腔内の汚染ができるだけ無いようにというためでし
た。
従いまして、私の場合も「ああ、この季肋骨の位置から肺に繋がってい
る線維結合織が横隔膜のなごりなんだ」と認識はしていても、実際に目
で確認できるのは、肋骨に付着した残渣だけの場合がほとんどでした。

前方から後方への胸腔の開き方で、肺の後ろ端から、胸壁へ繋がってい
る結合組織を見ることができれたのであれば、それが鳥の横隔膜(哺乳
類の横隔膜におきかえると一部にすぎませんが)ということになります。

進化の過程で発育しなかったものなのか、退化したものなのかという点
については、私が述べるべきことでもないように思います。
ただ、個体発生の過程で繰り返されていることであれば、遺伝子には、
このような組織を造りなさいという命令が書き込まれていたことにはな
ると思います。
カメレオンの肺の図譜の件もありますが、爬虫類、鳥類、哺乳類の共通
するくらい前の先祖の時点からのことと考えれば、「横隔膜の退化した
もの」という教えで、違和感を私は感じていません。
また、鳥の進化の方向から見ると、いかにも不用な物という見方も成立
すると思います。これから、横隔膜が発達してきたら、飛ぶ事ができな
くなるではないかという意味です。

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