野生と自然掲示板過去発言No.4000-199907-36
トウキョウトガリネズミは鼠にあらず |
投稿日 1999年6月3日(木)01時14分 アサカワ
2時間ほど前、野生化アライグマの殺処分をした後、とてもいやな気分で締め切り過ぎた論文を書いていましたら、急に逃避したくなりました。ちょこっと、お邪魔させて下さいね。皆さま、お久しぶりです。さて、トウキョウトガリネズミの話題が出ておりましたが、確認ですが、この動物は、齧歯類の鼠ではありません。むしろモグラに系統的に近い動物で、たとえば盲腸がないことや歯の形態などは齧歯類とは完全に異なり、モグラ的です。餌も昆虫や無脊椎動物が中心で、1日に自分の体重の3
4倍食べるとされています。私の勤務する大学の裏手(野幌原始林)で、時々餓死したオオアシトガリネズミを見かけます。独特の体臭があり、猛禽類や食肉類が敬遠しているため、死体が残りやすいと説明されています。ところで、このような死体を研究室に持ち帰り、寄生虫の検査をすると、鉤頭虫や蛔虫などの被嚢幼虫が腹腔内に散見されます。食肉類や猛禽類に通常食べられることがないトガリネズミに、なぜこのような幼虫がいるのだろうか?このままでは袋小路で、彼ら寄生虫はなんと無駄な一生を送るのだろうか、と私が学部4年生(今から16年前)のころ疑問に思っていました。それから6年後、支笏湖で交通事故死したコノハズクという昆虫食性のフクロウの死体を解剖しましたら、これら寄生虫の成虫が胃内から多量に検出されました。おそらく、獲物にあぶれたコノハズクが、仕方なく?トガリネズミの死体を食べたのでしょう。このように、寄生虫からその宿主の食生の一端をかいま見ることもできるわけですね。一見嫌われ者の寄生虫、実は時として生態学的に有効な指標となるのです。それでは今晩の授業はここまで。あれ?逃避のつもりが仕事をしちまったぞい!
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