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ヒトラーの贋札 |
2007年 ドイツ・オーストリア 犯罪・戦争
<監督>ステファン・ルツォヴィツキー
<キャスト>カール・マルコヴィクス , アウグスト・ディール
<ストーリー>
第二次世界大戦中のドイツ。ザクセンハウゼン強制収容所に送られたサリー(カール・マルコヴィクス)は、偽札作りのスペシャリストだった。収容所には、他にも、印刷技師など、ユダヤ系の技術者たちが集められていた。そこで彼らは、完璧な偽ポンド札を作ることを命令される。その偽札は、敵国、イギリスの経済的混乱に陥れる手段だった・・・。
<感想>
この映画は、実際に、第二次世界大戦中にドイツによって行われた「ベルンハルト作戦」といわれる、贋札によって、イギリス、アメリカの経済混乱を狙った作戦を元にして描かれています。
著者は、この映画にも登場する、ユダヤ人生存者アドルフ・ブルガー氏。
映画の中のブルガーは、印刷技師で、反ナチ志向の強い男として描かれています。彼は、ナチスの作戦に加担して、さらに多くの同胞を死に追いやることを拒み、サボタージュして、仲間を危険にさらしたりしますが、実際のブルガー氏は、そういう行動は、しなかったそうですし、そんなことは、出来る状態ではなかったのではないかと思われます。
映画での主人公は、ブルガー氏ではなく、同じ場所で働かされていた贋札作りの名人、サリーです。彼は、映画に描かれているのを見る限り、自分の器用さを最大限に利用して、ひたすら生き延びようと必死だったように見えました。それは、もちろん、当時としては、当たり前のことで、非難されるべき事ではありません。
そして、収容されてから三年後、ザクセンハウゼンに移送され、完璧な贋札を作るようにと、命令されたのです。
その場所での、彼らの待遇は、それまでの収容所とは、格段に違うものでした。たとえば、ベッドは、それまでの板張りのものではなく、綿の入ったフカフカの布団でした。それを見て、感激する彼らの姿に、それまでの収容所生活を思い、心が痛みました。
贋札を作れば、ドイツ軍に有利になることは分かっていても、彼らに、それを拒絶することは出来ません。そんなこと、出来るわけもありません。拒絶すれば、即、死が待ち受けているのです。そして、また、贋札作りに失敗しても、死が待っているのでした・・・。
彼らは、秘密の作戦に従事しているということで、収容所内でも、他のユダヤ人とは、隔離されていました。
彼らの小屋の外では、ナチによるユダヤ人への虐待や、処刑が日常茶飯のように行われているようでしたが、塀に囲まれた彼らには、なすすべもなく、ただ黙々と、自分に与えられた仕事をするだけでした・・・。
そして、終戦。
ドイツ軍が逃げ出した後に残されたユダヤ人たち・・・。
彼らの収容された区画が、開かれたとき、彼らが目にしたものは・・・。
このシーンで、私は愕然としてしまいました。
特別な作戦に従事する者として、特別待遇を受けつつも、常に命の危険を感じ続けていた彼ら。
でも、人は、その待遇に慣れ、そして、その現場をカメラを通して見続けていた私自身も、彼らの環境に慣れていました。
実は、本当の地獄、もっと悲惨な世界が、塀のすぐ外にあったのに・・・。
見終わって、なんともいえない微妙な思いが残る映画でした。(2008,02,06)
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