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「深淵」 上下   
大西巨人  




12年間の記憶を失った男は、生と存在との根元的問題に直面したー
「冤罪・誤判」と言われる二つの殺人事件を通して描かれる、人間・社会のあるべき姿 (帯より)


本を開いてまずびっくり。漢字が多い!(^^;
まるで、裁判記録みたいだというのが私の第一印象です。

本の帯の宣伝文句に惹かれて手に取った本ですが、著者の大西巨人さんについての知識は、お名前だけという状態。
こんな私ですので、数ページを読んだ時点で、最後まで読み続ける自信が揺らいだのは事実です。

私が多く読んでいる今時の作家さんとは、文章の形態がだいぶ違います。
固い文章と、論理的な登場人物自身の自己分析、名前の古めかしさ(双葉子、たおやめなど)、難しい単語(「仮健(けけん)」など)や言い回し(「愛縁機縁」など)などなど、それはもう、驚きでした。
でも、不思議なことにそれが、だんだんと新鮮になってきて、その私の知らない文章や単語に魅せられるように、読み進んでゆけました。
著者の敬愛する作家は、森鴎外、カフカ、ガルシア・マルケス、スタンダールなどであるらしいのも、この文章を読んでいて納得です。

また、やはり、このストーリーも魅力的でした。
主人公麻田布満の記憶喪失の前後の様子や、それ以降の対応、そして、その時期に起こった二つの冤罪事件の判決。それらに深く彼が関与していることは本にも書いてあるとおり、彼の存在意義そのものでしたねぇ。
ただ、残念なのは、誠実かつ論理的である彼の「愛縁機縁」をどう処理していくか、又、2度までも記憶喪失になった原因が明らかにされなかったことです。
普通の人間だったら、「煩わしい人間関係を清算するために失踪」という可能性もあり得るのでしょうが、彼の場合、それは、問題外らしいのですから。
ひょっとすると、彼の「愛縁機縁」状態が、今後2倍3倍になってしまうのかもと思うと、少々滑稽でもありますねぇ(^^)。

この本を私なんかが読んでしまって、おまけに感想なんかを書いてしまってすみませんという感じですが、あくまでも、個人的な感想ですので、とんちんかんなことも多々あると思いますが、お許しくださいませ。 (2004.03.23)