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「口ひげを剃る男」
  エマニュエル・カレール







『口ひげを剃る男』でぼくが気に入ったのは、出発点のなんでもない状況ーー男が口ひげを剃り落とし、誰もそれに気づかないーーが、無数の物語の展開する可能性を生み、現実とフィクション、真実と虚偽の問題を提起して有無を言わせず読者を引きずり込み、ついにはクラクラと幻覚を起こさせる、その単純な冒頭とその後の展開とのコントラストだった。(ジャン=フィリップ・トゥーサン)(表紙折り返しより)


それは、男が、ふと、「口ひげを剃り落とそうかな」と、思ったその瞬間から始まった・・・。
その、ちょっとした気まぐれが、こんな結末に発展しようとは、誰が想像したでしょう。
でも、本当は、もっともっと前から始まっていたことなのかもしれない。そう、それは、数年前から?それとも、生まれたときには、もうすでに・・・??

えっ?!えっ??!!えっ???!!!と、事態は、どんどん進んでいって、これは、ホラーなの?と思うぐらいの怖い話しになってゆきます。

自分の認識と、他人の認識は同じだと、普段は、何気なく思っているけれど、本当は、同じものを見ていても、全く違う認識をしているかもしれない。そして、それに気がついたとしても、それは、実は、確かめるすべもないのです。
もし、自分の見ているものが、他の人と違っていたら、誰とも、共通点を失ってしまい、ただただ孤独を味わい、そして、狂気に堕ちてゆくしかないのかもしれません・・・。

自分の立っている世界が消えてゆく恐怖を味わえる、怖い物語でした。 (2006.08.30)