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「冷血」
トルーマン・カポーティ 佐々田雅子[訳]
ノンフィクション・ノヴェルの金字塔
散弾銃による
一家4人惨殺事件を
綿密に再現。 (帯より)
映画「カポーティ」が公開されるというので、彼の代表作で、映画にも描かれているというこの作品を読み始めて早、数ヶ月・・・やっと読めました(^^;。と言っても、読みにくいから遅くなったわけではなく、衝撃的な犯罪と、緻密な取材が、むしろ、予想以上に面白かったです。
この作品が発表された当時(1965年)、この作品は、ニュージャーナリズムの源流とされ、それは、徹底した取材による膨大なデータの蓄積と、その再構成によって、現実の再現に迫った手法(訳者あとがきより)をとったノンフィクション・ノヴェルと話題をさらったそうです。
面識も、そして、もちろん怨みもない善良な市民をなぜ、スミスとヒコックは惨殺したのか。
その前後の彼らの行動と、逮捕され、処刑されるまでの様子を詳細に描いています。
特にカポーティは、身体的特徴と、不遇な境遇に類似点を見いだしたペリー・スミスに思い入れがあったらしく、彼について多くのことが語られていました。
これを読んで、色々なことを感じたのですが、一番印象に残ったのは、本の中にも書いてあるとおり、犯人たちの、命に対する無関心さ。
彼らは、他人に対しても、また、自分自身の命に対しても、あまり関心がないということです。
だからこそ、なんの怨みもない被害者をなんの感慨もなく、惨殺することが出来たのでしょうし、捕まるまでの彼らの行動も、あまり必死さを感じられません。
ただ、不思議なのは、そんな犯人の内の一人であるヒコックが、死刑が確定した後、何回も、上訴して、死刑執行を引き延ばしたことです。
このことをみると、彼にもやはり、生に執着があったのかと、不可解ながら、彼の人間性を見いだせるようで、ちょっと安堵できる事実でした。
生に対する無関心さは、この頃の現代社会にも蔓延しているように感じられるのが不気味に感じられます。
なんの意味もなく行う殺人、そして、生に執着のない自殺。スミスとヒコックの様な人間が増えてきたのか、それとも、もともとそういう人間が見えないながらも存在していたのか、ちょっと怖ろしいことでもありますねぇ。 (2006.11.15)