「無痛」 　　久坂部　羊 見るだけですぐに症状がわかる二人の天才医師、「痛み」の感覚をまったく持たない男、別れた妻を執拗に追い回すストーカー、殺人容疑のまま施設を脱走した十四歳少女、そして刑事たちに立ちはだかる刑法39条―。神戸市内の閑静な住宅地で、これ以上ありえないほど凄惨な一家四人残虐殺害事件が起こった。凶器のハンマー他、Sサイズの帽子、LLサイズの靴痕跡など多くの遺留品があるにもかかわらず、捜査本部は具体的な犯人像を絞り込むことができなかった。そして八カ月後、精神障害児童施設に収容されている十四歳の少女が、あの事件の犯人は自分だと告白した、が…。 （「BOOK」データベースより） 人を見るだけで、その人の病気や、その予後まで分かってしまう医師が主人公です。 熟練した医者ならば、患者の顔を見ただけでもある程度の診断が出来るかもしれませんが、この物語の主人公、為頼は、一種のサイキックのような力も持ち合わせているようでした。その能力のために、彼は、不要な検査や、治療もしないのです。 いいですね〜、理想的ですよ。治る治療なら、頑張るけれど、何をしてもだめならば、残された時間を心静かに過ごしたいですからね〜。 そんな能力を持った彼が、ある事件に巻き込まれる・・・。 出てくる人物は多彩です。為頼と同じ能力を持つ医師、白神。白神に見いだされた無痛症のイバラ。為頼が、その能力で助けた菜見子。菜見子の別れた暴力夫、佐田。菜見子が勤務する養護施設に入所している、自閉症のサトミ。などなど。 このように色々な人物が登場するわけですが、彼らにはどんな繋がりがあるのか？？ まるで群像劇のような小説でした。 途中までは、その謎が深まり、そして徐々に解明してゆくのですたが、後半に出てくるイバラのあるシーンには、まいりました(T_T)。 スプラッターホラー映画のシーンのようで、想像力たくましい人（＝私）には、キツイですねーーー（＾＾；。 著者は、医師だそうなので、医学的なことが正確に書かれていて、違和感なく読めたのは、良かったです。 それにしても、無痛症です。痛みがないと、大けがをしても自分で分からなくて、死に至る。ということは、漠然と知ってはいましたが、その他にも、色々な弊害があるということがよく分かりました。 全体として面白く読めましたが、あのイバラのシーンがきつかったのと、あまりにも多くの特殊な人が出てきたこと、そして、ラストが、ネタに困ったハリウッド映画の続編製作を臭わすような終わり方なのが、ちょっと鬱陶しいかな。 (2006.12.25)