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「となり町戦争」
三崎亜記
ある日届いた「となり町」との戦争の知らせ。僕は町役場から敵地偵察を任ぜられた。だが音も光も気配も感じられず、戦時下の実感を持てないまま。それでも戦争は着実に進んでいたーーー。シュールかつ繊細に、「私たち」が本当に戦争を否定できるかを問う衝撃作。(帯より)
となり町と戦争?!
この設定に思わずニヤリとしました。
かつて高見広春は、「バトル・ロワイアル」で少年少女を殺し、筒井康隆は
「銀齢の果て」
で、老人同士の殺し合いを描き、そして、とうとう、となり町にまで戦争がやってきた!?
しかも、その連絡は町で発行される広報誌で、まるで「ゴミの回収日のお知らせ」のようにさりげなく告知され、開戦日も、終戦日も決定済み?!いちいちニヤリニヤリとしてしまう設定ですね〜(^^)。
しかも、本来私たちなら、なんで戦争?どうして??しかもとなり町と???と思うところを、この主人公の心配と言えば、当日の会社までの通勤状況だけ・・・。
この無関心さ、平常心は、いったいどういう事なんでしょう?!
その後、彼は、「戦時特別偵察業務従事者」に任命されて、徐々に、この戦争への疑問を持ち始め、そのシステムが、やがて分かってくるのですが、それでも、全くリアルでない戦争が、彼の知らないどこかで続くのでした。
ニヤニヤして読み始めた本でしたが、実は、私たちの無関心さを痛烈に批判している物語なのかもしれません。
ごく近くで、戦争が起こっているのに、心配するのは、自分に関係のある身近なほんの少しのことだけ。我が身に影響さえなければ、それでいいとする自己中心性。
そして、実際に自分に火の粉が掛かってくるか、自分のために誰かが犠牲になったと知って初めて知る心の痛み。
いちいち、心当たりがあって、ずきんと胸が痛みました。
とはいえ、物語は、最後まで主人公にとっては、抽象的で、あまりリアルではありません。
結局、なんだかモヤモヤで終わってしまったので、もう少し鋭いラストも見てみたかったですね〜。
本書は、第17回小説すばる新人賞受賞作で、映画化もされるそうです。 (2007.01.11)