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「一応の推定」
  広川 純



第13回松本清張賞受賞
轢死した老人は事故死だったのか、それとも愛しい孫娘のために自殺したのか。
ベテラン保険調査員・村越の執念の調査行が、二転三転の末にたどり着いた真実とは? (帯より)



面白くて面白くて、読むことを止めることが出来ませんでした。しかも、読んだ後も、興奮して、なかなか寝付けなかったです。こんな事、久しぶりでした。

主人公は、定年直前の保険調査員の村越。死亡保険金が遺族によって請求されたときに、それが適正なものかどうかを調査するのが仕事です。
彼が、今回、調査を担当したのは、傷害保険に加入していた男の死亡原因調査で、事故ならば3000万円の保険金が支払われ、自殺ならば、支払われないという案件だった・・・。

主人公には、刑事のような華やかさはありません。職権もなく、地味で、どちらかというと嫌われる職業です。ですが、定年退職間近という村越の培われた経験と、人間味のある人柄、公正な判断をしようとする姿勢が、とてもいいのです。

ストーリーも、色々な問題をはらみながら、消え入りそうな細い線で繋がる真実を追って、目が離せない緊迫感が続きます。
そして、結局、彼がたどり着いた結論は・・・。

メインとなるのが保険金なので、専門的な用語も出てきて、難解かと思いきや、広川さんの書く文章は、的確且つ、分かりやすくて、スラスラと頭に入ってきます。
そればかりでなく、描かれる人物や、場所の描写も、一度読むだけで、頭にきちんとした人物像が生まれ、また、情況もまるで目に見えるかのごとく、頭に浮かんできます。この文章のうまさは、尋常ではありません。
広川氏は、この作品で、60歳の文壇デビューを果たされたそうです。デビュー作とは思えないこなれた文章で、さすが、松本清張賞受賞作です(^^)。



【一応の推定】理論
自殺そのものを直接かつ完全に立証することが困難な場合、典型的な自殺の情況が立証されればそれで足りること、すなわち、その証明が、「一応確からしい」という程度のものでは足りないが、自殺でないとする全ての疑いを排除するものである必要はなく、明白で納得の得られるものであればそれで足りる。(長谷川仁彦・宮脇泰『生命保険契約法最新実務判例集成』より) (2007.02.01)