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「クライマーズ・ハイ」
横山秀夫  



1985年、御巣鷹山の日航機事故で運命を翻弄された地元新聞記者たちの濃密な一週間。 (帯より)



横山秀夫さんの本は、今まで結構読んできたのに、この本だけは読まずにきました。
というのも、題名だけ見て、登山の本だと誤解してしまったからです。
でも、それは、当たらずといえども遠からずでしたねぇ。
登山の話も出てくるけれど、メインは、520人の犠牲者を出した日航機の大事故に翻弄された、地方紙の記者達の物語でした。

当時、横山さんは、上尾新聞の記者として、この大事件の取材をしたそうなので、その時の体験を、渾身の思いを込めて書き上げた小説なのでしょう。そう思うと、ここに書いてあるいろいろなことが、リアルに迫ってきます。

まず驚いたのが、事故が起こった時の記者たちの反応。
墜落場所が、群馬県側でないことを願うとは・・・。地元で起こった事件か、そうでないかが、こんなにも、新聞社にとって大きな事とは、思ってもいませんでした。

そして、記者達にとって、大事件とは、何を示すものなのか。大事件を扱うことによるプレッシャーと、期待感と、重圧感と、苦しみと、焦燥感と、そして名誉・・・・。
一つの事件で、こんなにも、多くの葛藤が生まれるのかと、驚きました。
まさに、戦争です。

新聞記者という職業が、激務だとは何となくは分かっているつもりでしたが、実際には、私が思っていた以上の厳しい世界のようでした。もちろん、こんな大事故が起こった時は、通常の仕事量の何倍も大変なのでしょうけれど。
肉体的にタフで、しかも、精神的にも強くなければ、とうていやっていけない仕事なのですね。

23年前の出来事なので、当時、携帯電話はまだなく、記者が持っているのは、ポケベルだけ。現場で取材をしても、それを社に送るには、公衆電話のあるところまで戻らなければならない。それが、締め切りに間に合わなかったら、どんなにすばらしい記事でも、それは、没になるしかないのです。そんな時代だったのですねーー。

そして、命の重さの問題。
これは、新聞、マスコミの宿命でもあると思います。
紙面の都合で左右される記事の大きさ・・・でもそれは、イコール、命の重さではないでしょう。
たくさんの人が悲しむ死もあれば、誰にも知られずに迎える死もある。
大切な人の死に対して、それが不公平だと感じることもあるのかもしれないけれど、それは、やはり心の問題でしょう。人に注目された死は、かえってそれが重荷になることもあるような気もします。

この作品は、映画化されて、近日公開です。
今日、予告編を映画館で見ましたが、緊迫感溢れる映像だったので、大いに期待しています。 (2008,06,05)