巫女の棲む家
皆川博子
上海で習い覚えた霊媒業を利用して、ひたすら復讐の快感を追い求める倉田佐市カ。神政復古を理想と信じ、あやまりない御神意を仰ぐために、”霊泉会”設立に私財をなげうつ医師、日馬秀治。会を宗教団体にまで組織化し、事業として発展させようと企む野心家たち。父親の夢想と男たちの野望にあやつられ、巫女へと変貌してゆく日野黎子。敗戦直後に生まれた新宗教集団”霊泉会”がついに迎えた大破局までを、息詰まるタッチで描く異色長編サスペンス。(表紙折り返しより)
医師、日馬秀治の家で開かれる降霊会に入り込んだインチキ霊媒師、倉田は、日馬の信頼を得、
はじめは疑っていた日馬の娘、黎子に、降霊を信じさせてしまう。
そしてその後彼女は、次第に神伝えの巫女へと変貌してゆく・・・。
降霊会などばかばかしいと思っていても、心に何かしらの闇を抱えていたりすると、このように、コロリと、霊の存在を信じてしまうようなこともあるのかもしれません。
そして、心の闇は、人間ならば、誰でも持っているものでしょうし、戦後という時代背景も色濃く影響しているようでした。
このように、新興宗教にのめり込んでしまうような人は、心のよりどころを求めて、こうして深みにはまっていってしまうものなのでしょう。
本の中で、倉田は、最初から自分でインチキであると認めているので、彼を信じてしまう日馬氏と黎子、とりわけ黎子が哀れでなりませんでした
父親が確固たる信念を持ってしまっているという環境も、彼女にとって、最悪でした。そして、過去のある出来ごとも・・・。
ただ、倉田自身も、心の中に闇を抱えて、生きているわけで、彼の行動は、何者かへの復讐であるかのようでした。
そんな中、黎子と比して、苦難を超えて一人生きてきた同い年の祐子のしたたかさというか、生きる力強さには、たくましさを感じざるを得ませんでした。
この話は、作者、皆川博子さんの実体験を元にしているそうで、降霊会に傾倒してゆく様子が、生々しく描かれています。
ラストは、暗くて悲しく、救いがないです。
(2015,07,29)
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