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暗い抱擁
アガサ・クリスティ




気高い美女イザベラには婚約者がいた。
が、冷酷ともいえる野心家ゲイブリエルに荒々しく抱擁された彼女は悟った。
この心の歪んだ男を救わねばならないと。
やがて彼女は婚約者を捨て、ゲイブルエルとの駆け落ちを決心する・・・
男のために新たな道を歩き始めた女の姿を
キリスト教的博愛をテーマに描く至上の愛の小説(解説 宇田川拓也)


冒頭は、謎めいていて、いかにもクリスティな、つかみから入ります。
いったいその”ゲイブルエル”とは、何者なのか。
語り手で、事故で体の自由のきかないヒューの視点で話が進みます。

野心家のゲイブルエルと、その周囲の人々のことが丁寧に描かれていて、冒頭の謎を忘れかけた頃、 そして、話が終盤に入ったとき、その衝撃は、読者を打ちのめします。

周囲の期待と幸せ、そして何よりも自分自身の幸福をかなぐり捨てた行動は、
ある意味、とてもロマンティックなのですが、その後の結末を読むと、どうにもこうにも、やりきれなさを感じるのは、私が凡人だからなのでしょう。

そして、ラスト、この小説のすべてが詰まったラスト。
他の人がどう思おうが、感じようが、自分自身の気持ちを貫いたこのラストで、彼らは真に救われたのでしょう。(2026,06,21)