【講評】日置光久 国立教育政策研究所教育課程調査官
嶋野道弘 文部科学省 主任視学官
<鳩貝>
このシンポジウムの締めくくりとして、文部科学省 日置先生より講評をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
<日置>
みなさんこんにちは。
もう終わって、帰ろうとされた方もいらっしゃるようですが、ここで少しだけ、10分ちょっとお話をさせていただければと思います。
私、文部科学省の教科調査官ということもありまして、ここには、たぶん教員の先生方と獣医師の先生方、それから動物園の方もおられたようです
が、いろいろな職種の方々がいろいろな意見をもって、新しくできたこの研究会にいろいろな可能性と思いをたぶんおもちだと思います。これからどんどん発展
していけばいいと思っております。私は、文部科学省ということもあって、教育ということで、少しだけ、特に学校の先生方に、どんなふうに学校教育の中で考
えていけばいいのか、そのことに対して何か少し参考になればということで、今日のお話を締めくくらせていただきたいと思います。
簡単に四点のことを考えていたんですが、一つは、今の教
科で行われている教育、これは記号系と実物系があるわけです。記号系というのは国語とか算数、言葉とか文字とか数、これを扱うことによって子どもが学んで
いく教科です。もう一つは実物系です。あえてそういう分け方をするな
らば、生活科はまさに直接体験、具体的であります。理科もそうです。自然に親しむという文言が一番最初に出てきます。具体的な事物現象から始まるもので
す。そういった様々の教科の特性があるわけなんですが、動物飼育は、どこの教科でどんなふうにやるか、もちろん、総合的な学習という、今の流れがあるわけ
ですが、いろいろな可能性があると思うので、その辺を考えていく必要があるのではないかと思います。
一般的には実物系で扱うということになるわけですが、これが総合的な学習の時間を含めて、今、体験活動、自然体験とか、法律もできて増えてい
ます。ところが、体験のバブルとかいわれて、これが、体験だけで終わってしまって、子どもの学びがないんじゃないかということをよく言われます。動物飼育
がその仲間入りをされてしまっては困るわけです。そこに、学びというものを考えていっていただきたいと思います。単なる体験ではなくて、体温のある体験、それは何かというと、われわれと同じように体温のある動物を
抱っこしたり、精力的に世話をすることによって、子どもにどういう力が育つのかということです。教育的な価値です。この辺を今から考えていく部分も大きい
でしょうが、その辺をしっかり位置づけて、考えながらやっていくということだと思います。そじゃないと、たまたま学校に動物がいたから、扱わなければなら
ない、コンピュータ買ったから何かやらなければいけない。そういうことではなくて、まず、子どもへの教育的な価値というものを、しっかり考えていかなけれ
ばならないのではないかと思います。そこは、中教審の答申にある「生きる力」に当然関連してきます。その辺を研究していく。そしてそういう願いを実現する
ための一つの非常に効果的な可能性のある方法として、学校における動物飼育というものを考えていくということが、基本的なスタンスなんだろうなと思いま
す。そのためには先ほどの動物飼育管理指導計画ですか?そういう、い
ろいろな指導計画をしっかりつくっていこうという試みが、すでにスタートしているということは、喜ばしいことだといえると思います。これが一点です。これ
は、四観点の評価でも考えられますので、特に第一観点第二観点が、動物飼育に関連してくると思います。もちろん三観点四観点もありますが、その辺は先生方
もうおわかりでしょうから。
それから、二つ目。これは、心理学的な面から若干お話し
いたします。いわゆるメンタルローテーションという言葉があります。
これは、自分から見えている見え方と、こちらの人から見ている見え方は違うわけです。小学校低学年くらいの小さい子どもですと、自分から見えているように
他人からも見えていると思うわけです。相手の立場に立ちにくい、ということがあります。ピアジェがいうように発達段階でくっきり切れるわけではありません
が、そういうメンタルローテーションの一つの研究がされております。学校における飼育動物というのは、認知的なメンタルローテーションもさることながら、
信条の気持ち、思いやりのメンタルローテーション能力を育成することにも、私はずいぶん可能性があるのではないかというふうに聞かせてもらいました。その
辺がポイントになってくると思います。要するに相手のチャボとかウサギが、自分に何をしてほしいんだろう。自分が好きな食べ物とチャボが好きな食べ物は違
うはずなんです。自分はこれが好きなんだけれども、でも...というふうに、相手の
立場に立つ力、これを、動物の行動とか日々継続観察し、飼育舎の様子とか体調とか、その辺から一種の推測して、行動して、その結果がどうか
ということをまた自分にフィードバックしていくこと。これはすごく大事な新しい学力の一つになると思います。これが二点目です。
それから三つ目です。これは、物的関係として子どもと動
物ということです。動物介在教育というくらいですから、子どもがいて動物がいるわけです。子どもと動物に関係して、リレーションがあるわけです。この関係性によって、一つの教育が行われる。そうですよね。だから、動物をかわいい
なとか、思いやりも育つでしょうね。これは二項関係なんです。そういう教育の可能性もあるんですが、もう一つの可能性も考えてほしい。それがなにかという
と、動物を介在して子どもと子どもが話し合うということです。共感し合うと
いうことです。これは三項関係の教育です。動物を介在した三項関係の
教育。僕は動物飼育をしてこういう体験をもっている。同じように友だちももっている。そういう点が共通なんです。でも、自分の受け止め方や感覚とか、価値
観が違うから、違う見方になるんです。そこで話し合うことによって、
変わってくるものがあるんです。だから、二項関係の教育の価値もあるし、三項関係の教育の価値もあると思うんです。そうなってくると、動物介在教育ではあ
るんですが、もっと言うならば、人間交流プログラムになってくるわけ
です。われわれ人間というものが、お互いそういう生き物を飼育し合うことによって、集団としての学び合いがある。知をつくっていく、学びを深めていくそう
いう可能性があるんじゃないかなというふうに思いました。さっき、学校で他の子どもの目を意識するけれども、家に帰ったら自分と二項関係だから、まさにね
こっかわいがりするわけですが、それはそれでいいんだけれども、学校で他の子どもの目を意識する、これは、すごく大事なんですね。自分はこうしたいけど、
たぶん友だちはこう思うだろう。一種のメンタルローテーションですね。その中で、自分は妥当な行動を決定していく。そのフィードバックを自分で結果責任を
考えていく。こういうことですよね。これが学校で、しかも集団で飼育することの新し
い価値なんじゃないかと思います。非常に短くて申し訳ないです。
そして、四点目は、心情的なことです。思いやりだとか、そういうことがよく出てくるんです。動物飼
育の場合。理科でも3年生で昆虫を勉強しますが、これは、自然を愛する心情、昆虫に対する愛情ということをやります。それはもちろん大前提なんだけれど
も、もう一つあると思うんです。それは先ほど森田実践でもありましたが、モルモットが500gから1kgまで体重が増えてしまった。短い時間に。これはダ
イエットさせなくてはいけないという、切実な子どもの思いがあるわけ
です。そのためにどうしようかと、自分たちがダイエットするときのことを考えるわけです。当然ながら。で、やってみると野原に連れて行けば、草ばかり食べ
て全然動かない。これはだめだ。ということになるわけです。それじゃどうすればいいのか。必要に迫られて問題解決していくんです。考えるわけです。これは、心情系のこと
だけではなくて、認知的な能力です。まさに、確かな学力を担う力になってくる。だから、そういう心情系の力を育成しながら、
同時にそういう問題解決の力も育成できるんだと思います。たぶんそれは、簡単に離れない。両方向が合わさっているんだと思います。そこを先生方が特に意識
して、指導計画をつくる。改善案をつくる。これがポイントになっていくのではないかと思います。多くは総合的な学習の時間で扱うと思いますが、そこに自ら
課題を見つける、自ら学び自ら考える。ということです。これはまさに、問題解決の能
力を総合的な学習の時間で育成しろということです。そのためにコンテンツフリーだという話ですから。飼育動物という非常に豊かな可能性を
持った題材、テーマをもってきて、それで問題解決の能力を育成する。これもできるんですね。しかも命がもっているそういう心情、こういうものが溢れるよう
に出てくる。それと一緒になりながらできる。これが新しい価値。これが四点目です。
以上、たいへん短いですが、私自身考えた可能性ですね。これからの教育で学校でそういうチャボやウサギを持ち込んだ場合の、単に持ち込めばいいんではな
いんです。それでは単なる体験になってしまうんです。そうではなくて、学校教育での価値をこれから研究していく。これは素晴らしいことだと思います。
<鳩貝>
どうもありがとうございました。
最初にお断りしましたけれども、主任視学官の嶋野先生が台風の関係で今日来られないということだったんですが、台風が二転三転いたしまして、突然、今お
見えになりましたので、嶋野先生にもちょっとご挨拶お願いしたいと思います。
文部科学省主任視学官の嶋野先生です。
<嶋野>
たいへんお騒がせをしました。鹿児島に行く予定だったんですけれども、飛行機が欠航になりまして、向こうの明日の会も中止になりまして、そんなことを考
えながら家に帰るのもいいんですけれど、やはり、ここに来てしまいました。それで、私は今こう考えています。私は今、どうしてここにいるんだろうと思って
いるんです。
それは、時間がありませんので簡単に申し上げますが、やはりここに新しい可能性と魅力を感じているからです。いままでのこういう研究会とかこういう集ま
りというのは、どちらかというと、少し語弊があるかもしれませんが、なにがだめだあれがだめだというマイナス面を指摘して、問題解決を図るという傾向が強
かったと思います。
しかし、それではどうも限界がある。そして、あまり強くなれば排他的になってきます。進みません。もう、これからの時代というのは、それぞれの立場で、今自分は何ができるのかということを、それぞれが考えていく
時代になったんじゃないか。私は今、文科省の中で仕事をしていますから、私の立場で、
あるいはまた獣医師さんの立場で、また、指導主事さんもいらっしゃるし、学校で授業をやっている方もいらっしゃるし、保護者の方もいらっしゃる。それぞれ、いろんな立場の人たちが全国各地から集
まってきている。私の期待通りだったと思って、すごく興奮をしていま
す。そういう時代づくりに乗って、子どもにとっての未来。また、子どもの周りから動
物がいない社会をつくってはいけないということが、僕の信念でありまして、そういう社会にしないためにも、みなさんと一緒に学びたいし、や
れることをやっていきたい。そういう思いを強くして、今、ここにおります。どうぞみなさん、一緒にこの研究会を盛り立てていこうではありませんか。お願い
します。
<鳩貝>
どうもありがとうございました。文部科学省から強い激励をいただいたと、私どもは考えていきたいというふうに考えております。
先ほどちょっとございましたけれど、こういう飼育のことも含めた心の教育の問題
に、文科省も力を入れて、来年度の概算要求をしている
というお話もあります。私どもが、今日、こういう形で集まりまして、学校飼育動物を通して教育の問題を考えていこうとうことで、研究会が発足いたしまし
た。
雨の中、また、西の方では台風がだいぶひどくなってきているということですけれども、全国各地からお集まりいただきまして、本当にありがとうございまし
た。
私ども、今日選出されました会長以下、運営委員も含めまして、みなさん方の要望に少しでも応えられるようないい研究会に育てていきたいというふうに考え
ております。先ほどお願いしましたように、そのペーパーの中に、ご意見、どうしたらいいのかという情報も含めまして、感想も含めて書いていただければ、私
どものこれからの活動の参考になると思います。
このあと1月30日には、研究発表会を予定しております。その前には、研究誌を発刊いたしまして、みなさん方にお届けし、発表会までの予定も、その中に入
れたいと考えておりますので、是非、これからの活動にご協力をいただければと思います。
本日は、これで、このシンポジウムを閉じさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
上へ
会誌目次
全国学校飼育動物研究会トップ