小学校での教室内飼育モルモットによる
児童の生命観と動物に対する興味への影響
森田和良1 佃基子2 吉見奈津子3 ○中川美穂子4
1筑波大学付属小学校、 2お茶水女子大学4年、 3中川動物病院
4全国学校飼育動物獣医師連絡協議会、中川動物病院
(日本生物教育学会 第72回全国大会) 2002 ,1,26(研究発表会 講演要旨より)
1、 はじめに
学習指導要領では小学校中学年で扱う動物を3,4種類にとどめている。これは知識として動物を覚えるのではなく、生物との深い関わりを認知させる目的のためである。
今回、小型哺乳類を教室内で飼育している児童の観察日誌に動物飼育が与える影響が現れていたので紹介したい。また、児童たちの動物への関心と生命に対する印象を飼育体験の有無、飼育動物の種類、飼育時期、兄弟の数などの因子で比較したので報告する。
2、 対象と方法
対象を4年生とし、3クラスを選んだ。筑波大学付属小学校森田学級(A群)は4年の5月、父母参観日に獣医師に飼育の教育的意義と接し方の説明を受けてからモルモットを4匹飼育し、10人の班で1匹担当している。同校の別のクラスの1/3は旧森田学級で昨年度までの2年間、同様なモルモット飼育をしていた(B群)。このクラスの残りの児童をC群とした。また都下の小学校の1クラス(D群)では飼育動物は校庭だけで、それも直ぐ穴にもぐ るウサギだったので、児童はウサギに親しみを感じず、夏休みなどは誰も世話にこない。これらの児童に、一般的な63種の哺乳類、鳥類、昆虫などへの知識を探り、また死への連想と動物へのメッセージをアンケート調査した。
またA群の観察日誌は、毎週の金曜日や夏季休暇の際に児童が交代でモルモットを家に連れ帰った折に、世話のチェックポイント表の裏に絵と日誌を記入したものである。
3、 結果
A群の観察日誌は飼育当初は記述も乏しく「掃除が大変」などの他は殆んど書かれていない。しかし、日をおって動物に興味を持ち可愛くなるほどに、観察が細かくなり記述も絵も豊かになった。これらの変化は9割の児童に見られた。児童はモルモットが気持ちよく暮らせるように健康に気遣い、仲間で巣箱や給水器の調整・修理を検討し餌を工夫しあっており、仲間意識、協力が見て取れる。また、担任と家庭との連絡もこのモルモットを仲介にして密になっている。
動物についての知識や興味はこの2年以内に哺乳類の飼育経験がある子が、その他の子に比べて高い傾向があった。また死への連想は、死別体験のある子が具体的であった。また動物へのメッセージは、犬、猫、モルモット、ハムスター飼育群で「病気にならないで長生きして」「ありがとう」との記述が多く、「無し」と答えたのは31%であった。しかし、その他の群では「無い」と答えたのは45?75%であった。A群とB群ではそれぞれ79%と92%の子が死への連想を記述し、死んだモルモットの名前の記入も見られた。また動物へのメッセージについては「無し」はそれぞれ23%と38%であったが、C群とD群では「無し」が62%と57%であった。なお、兄弟の数は有意の影響がなかった。
4、考察
B群はモルモットの死の経験があり、そのために死への連想が具体化している。また、A群ではモルモットを飼育して半年になり、児童への影響が出始めている。C群ではD群と同じく、哺乳類の飼育経験の無い児童が多く、そのため死への連想や動物へのメッセージがなかったものと思われる。また、観察日誌からは、世話を面倒に感じていた児童が動物に情をかけるにつれて、探究心を刺激されていることが現れている。これは、動物体験の乏しい現在の児童にとって、生き物への興味と近親感を育て、生命観を養うために、学級で継続して小型哺乳類を飼育することの重要性をあらわしている。