「休日は保護者の支援で生命尊重」〜危機をチャンスに変える〜
                          中川美穂子        

 *飼育の一番の悩みは休日の世話

 学校に赴任した途端に飼育担当に任命され、殺さないようにと、飼育の方法も意義もわからないまま苦労する先生がたが多く見られます。ゴールデンウイーク前に休みと動物の世話の板ばさみに悩んでいると、「ウサギや動物は2,3日餌も水も与えなくても大丈夫」と先輩が教えてくれ、半信半疑で従いながらも、「休日の中日に様子を見に来たら動物たちが飛んできて、水を10分も飲み続けてかわいそうだった」などの沈んだ声が当方にも届いています。

 また、この点は動物愛護団体がことさら問題視しており、これらの解決法として今のが死んだら飼育をやめると決めている学校さえ見られます。が、これに積極的に対応することで、飼育体験の教育的な意義を格段に増すことができるのです。

*飼育体験の意義を増大するチャンス

 対応として、なにより学校での動物飼育体験は、子どもへの人格形成、知能の刺激のために必要な刺激と捉えて、それを保護者に発信し巻き込むことが重要です。

 8月の第3回全国学校飼育動物研究会大会で、報告なさった先生が、「動物飼育が有効になるためのポイントとして、下の3点を挙げました。

 1、担当にだけ任せないで学校全体で注意する(命は親身な観察と気配りで保たれることを、大人の背中で子どもに伝える)。

 2、親を参加させる(命は繋がっているから休日はないと子どもに伝え、かつ子どものために親が学校に一緒に出かけて掃除をすることで、良い親子の会話が生まれている)。

 3、学校の近くの獣医師の支援を受ける(学校獣医師になんでも相談できる体制)

*実例に見る飼育への保護者参加

 1)土日の世話や管理ができずに動物が次々と死ぬ現実に、飼育の子が「動物が好きで飼育委員になったが、飼育委員は墓堀委員だ」と嘆き、それを聞いた保護者が逆上して校長室に怒鳴りこみ、教育委員会に訴えた事件があります。「晴天の霹靂」と驚いた校長にすれば、最初何を言われているか分からなかっそうです。しかし「負担の少ない飼育。笑い声の漏れる飼育」にしたいと決心し、数ヶ月後、獣医師の支援で飼育を管理できるようになり、休日の世話についてはこの保護者が「飼育応援団」を組織して、長期休暇は全てカバーできるようになったそうです。今、校長は交代しましたが、飼育応援団は伝統になり、休日には飼育委員になれない子にせがまれた親が、我が子と一緒に楽しそうに掃除、餌やり、ふれあいを楽しんでいるとのことです。(*2)

2)ある小学校の評議員であった獣医師が、会議のとき、命の教育という学校の説明に対し、ゴールデンウィーク後に学校のウサギ達を診療した事例を紹介しました。それらは休みの世話不足のために、餌と水がとれず弱って下痢をして、しかも、弱っていたため自分の汚れを舐めとることができずにハエに卵を産みつけられて、蛆に食べられて死んだのです。それで教育に位置づけるために学年飼育と、休日に関して保護者に助けを求めることを提案しました。 

 また冬に向かって木製の巣箱の必要性を説いたところ、同席していたPTAが親父の会をつくり、直ぐに巣箱用の裁断木材を用意し、当時の飼育委員会の子たちと一緒に作ってくれました。また正月など休みの世話について、この方たちが采配してくれ、その後は世話不足で死ぬことはありませんでした。

 この学校では、次年度から4年の総合に飼育を位置づけたことから、休日には4年の保護者が交代で我が子と一緒に世話をします。学校はとても楽になったし、子どもたちに「命には休日がない」と伝え、「責任を感じさせることができる」と評価しています。

 なお、この親父の会はその後も活動をつづけ、PTAや地域の団体と合流して、正月のどんど焼き、運動会での様々な準備や整備、片付け、防災活動(登校時の交通安全など)、週に1回程度相談室に入って子どもに対応するなど、地域の動物病院の獣医師も一緒に「学校を支援する活動」をしています。途中で校長が交代しましたが、地域のものとして学校の伝統を守っているといえます。

 これは飼育がきっかけになって大きな学校支援体制ができた事例です。他の市でも学校についている獣医師が校長の相談相手になっているところが見られています。勿論獣医師は飼育担当の先生の相談相手でもありますが、学校運営上飼育の意義とあり方を伝え、相談に乗っています。開かれた学校です。

*学校が保護者を巻き込む方法

 まず管理者が「動物飼育活動は子どもに教育的な効果があると確信する」ことが必要です。管理者が動物飼育を「余計なこと」と考えていると、保護者に迷惑をかけるような気がしてとても支援を頼めませんが、教育的効果を確信できれば、保護者に「子どものために飼育を支援するように」と伝えることができます。 

 現在、2)の学校では、春の保護者会で、校長先生が「4年生には飼育がありますから」と説明し、学年主任が「4年には飼育がありますから、保護者の方のご支援が必要です」と案内すると、親御さんは「頑張る」と思われるとのこと。

 特に休日に動物を家庭に預ける教室内飼育の場合は、飼育法の伝達と同時にアレルギーや衛生への不安解消が必要で、保護者とのコンタクトを丁寧にし、また保護者も先生と非常に連絡がよくなると聞いています。

*不可欠な獣医師の支援体制

 保護者のアレルギー不安や衛生への不安を解消するためには医師の協力と、動物の病気に詳しい獣医師の支援体制が必要です。また獣医師は動物の見方・接し方も先生方に伝えることができます。この基礎があってこそ、子どもたちに素敵な成果を与えることができるでしょう。******************************************

 第4回 全国学校飼育動物研究大会 予告              学校飼育動物を考えるページ
 研究発表会                                              全国学校飼育動物研究会
テーマ 「こどもたちの心を動かす動物飼育」
開催日時:平成18年1月15日(日) 午前11時〜
会場:お茶の水女子大学共通講義棟2号館
共催:お茶の水女子大学子ども発達教育研究セン
講師:杉田 洋 文部科学省教科調査官 他
パネラー:東京都教育委員会から  文科省も 予定
後援:文部科学省依頼予定、
   東京都教育委員会(申請中)心の東京革命推進協議会(青少年育成) 
   社)東京都獣医師会
申込みさき: 全国学校飼育動物研究会
参加費:500円

「初等理科教育」 (農文協発行)  05年12月号  
農文協のお許しを得て掲載させて頂きました                       
  
 連載・学校の動物はいま、