獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-201306-129

Re4:愛犬塩が原因で痙攣、後遺症
投稿日 2013年6月12日(水)11時47分 投稿者 プロキオン

「食塩中毒」というのは、一般的には犬には稀であって、豚等で知られている病気ですね。症状としては、渇欲の亢進・腹痛・下痢・食欲減退・削痩・多尿・心機能障害・興奮・痙攣・麻痺及び昏睡等の神経障害となっています。
家畜における中毒量となりますと、牛で3.8〜5Ib、馬で4.4〜6.5Ib、羊や豚でo.5〜1Ibという記載になっています。別の成書によりますと、致死量が牛で1.4〜2.7Kg、馬で0.9〜1.4Kgとあり、豚では100〜200gとかなり食塩に対して感受性が高い動物ということになっています。
すなわち豚が、食塩に対して他の家畜よりも感受性が高いのと、かつて、飼料として大豆の搾りカスとか醤油の搾りカスとか、残飯とかが給餌されていた当時に しばしば遭遇することがあったために中毒として認識が広まったのではないかと考えられます。

一方、犬における食塩中毒というのはあまり耳にする機会がなく、私も病性鑑定の仕事をしている当時においても、集める事ができた文献も、豚の症例だけでした。
これは、生活形態といいますか、飲水量が大きく関わっているからではないかと私は考えております。
牧野において、牛を放牧すると広い牧野を経験したことのない子牛は、河川や水槽からの水の飲み方がわからずに、しばしば脱水症状を呈してしまうことがあります。このような原因で死亡した牛の脳を病理組織検査にまわしますと、食塩中毒とよく似た病変が認められたりします。
その一方でおなじく牧野衛生分野で輸送途中で長時間にわたって飲水ができなかった牛が、放牧された途端に水槽にかけよって、ひたすら水を飲み続けて「水中毒」を起こしてしまうという逆の現象もあったりします。食塩のような電解質ミネラルは、それ単独でどうのこうのということはなく、必ず、飲水量といっしょに考えられなくてはならないと思います。
犬の場合は、日常的に飲水ができないという状態に置かれることが稀であって、まず、食塩中毒と縁がないということになるのだと思われます。一般的な市販品のドッグフードにしても消費者生活センターの調査によりますと、食塩濃度が1%を超えているものは、あまりないようです。

今回の事例では、体重3.5〜4Kgの犬に対して食塩を直接飲用させたということのようですが、成書の記述から言えば、これは少しばかり多いようです。
胃内に呑み込んでしまったものを吐かせようというときであれば、ティスプーン1杯までに留めておくようにというのが、その成書の記述であって、胃の中に液体や食物が入っている場合に限るということのようです。
これは、食塩の過剰な吸収を避けるということと、胃内容物によって呑み込んだ異物を食道側に逆流させるという2つの意味があります。このため、過度の嘔吐を誘発させますと、胃内容物により肺への誤嚥が生じてはいけないということもあります。食塩一杯で吐き出せないようなら、安全のためには別の方法をとりなさいということになりますね。
もっとも、気持ちがあせっていると、1杯で吐かなければ、つい2杯、3杯と重ねたくなる気持ちはわかります。でも、より安全にということを考えれば、そこは冷静になっていただいた方がよろしいかと思われます。

さて、犬における食塩の致死量ですが、これは学術書の方では私には確認できませんでした。ネット情報においては、体重1Kg当たり4gという数字が多く採用されているようです。実際に食塩の重量を確認してみますと、ティースプーン1杯で、1.5〜1.8g くらいの重量がありましたので、およそ7杯の食塩摂取から致死的な様相が出てくるという計算になりそうです。
この量を摂取させる事自体が、犬の忌避にあって大変そうなので、そうそう簡単に起こり得ることとも考えられませんが、まったく問題がないこととも言えませんし、上述のように家庭で無理をしてまで実施すべきこととも言えませんので、条件の整った動物病院において、経過と相談しながらをお薦めいたします。

また、食塩摂取の後遺症か否かについては、診察をしてみないとなんとも言及しかねますが、個人的には「後遺症」と想定するよりは、なんらかの基礎疾患が存在していたのではないかと私も推測しています。普通に自由飲水が可能な家庭犬において、そこまで尾を引くのであれば、別の要因も検討するというのが自然な考え方ではないかと思うのです。
その意味からも、せっかく出かけられたのであれば、MRIは撮影されてもよかったように考えます。
仮に、なんらの異常も見出せなかったとしても、検討しなくてはならない対象というのがそれだけ限定されてくるわけですし、今現在の脳脊髄の状態を知ることができますので。

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